戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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カブラルは、ナンガサキへ向かった。例年より早い。

 

彼は巡察師を出迎える準備を整え、その出鼻を挫くつもりだ。

日本での指揮権を決して渡すものかという、並々ならぬ決意を感じる。

場合によっては、戻ってくるのも遅くなる。

 

それまでブンゴ国両王の動静を厳しく監視し、ヒュウガ国の戦役も適切に導くべし。

毎週、経過報告を密使に手渡しカブラルのもとへ届けることも指示された。

 

ブンゴ王はカブラルが戻るまで洗礼をお預けにされて、半狂乱だ。こんなの面倒見きれませんよ。

しかし私にとってはまんざら悪くもない。

カブラルがいないとそれだけ行動半径が広がるし、自分の目と耳で情報を集め精査することでより鮮明な状況図が描ける。

 

今回はとりわけ父子の軋轢が絡む案件なので、私が直接双方の間を往復し意見を仲介できることの意義は大きい。

 

まずは父王ヨシシゲ公の人物紹介。

48歳。前王の長男で、ずっと王子として育てられていた。

20歳の頃、家臣の反乱が起き、殺されかける。

この政変で父や兄弟を亡くし、直ちに20代目のブンゴ王となる。

家臣も分裂していたが、反対派を一掃することに成功し、却って結束は強まった。

我らがメステレ・フランシスコが日本へ上陸したのは、その翌年。サツマからアマングチへ拠点を移した頃、新ブンゴ王からの招きを受ける。

熱烈な歓迎を受け、フナイで閲兵式まで行われた。

 

ブンゴ国では代々、特定の民族・信条・宗派を排斥しないという家訓があり、最大の街フナイには様々な異国文化が共存していた。

とはいえこれまではテンジクどまりだった世界に、突如、エウロパ人がデウスの福音を携えて現れたのだ。

言葉での疎通も、手探りの段階だった。

それでも先見の明を持つ若きブンゴ王は、市内に相当の敷地を与えてくれ、コンパニヤの地位を保証してくれた。

 

メステレはブンゴを日本布教の出発点と位置づけた。特にミヤコへ行って失望して戻ってきてからは一層ブンゴ王を頼るようになった。

定航船が直接ブンゴへ入港することは地勢的に難しかったが、交易においてはブンゴ王に最大の便宜を図るべしという誓約が交わされ、これは今も続いている。

 

ブンゴは今やシモ島における最大の領国であるが、王室の権力構造が単純化された時期に、他より先んじて鉄炮の配備を進めた影響は大きかっただろう。

周辺小領国は次々とブンゴの軍門に降る。旧領国名でいえばブゼン・ブンゴ・チクゼン・チクゴ・ヒゼン・ヒゴ。この6領国を束ねる中心がブンゴ国であるという構図が成立した。

 

シモ島にはもう3つ、領国が存在する。

ブンゴ国より南に位置するヒュウガ、オオスミ、サツマだ。

この3国も平定してしまえばシモ9領国は統一され、安心して北のカミ島・アキ国を叩きに行けるというわけだが、まてまて。早まるまい。

 

私は今年初めの段階で南の3国は眼中になく、それよりアキを攻めましょうという発想しかなかった。

しかしこうしてみると、30年近くかけてシモの3分の2を制覇したのだ。次は南だ、これで完成だとするブンゴ首脳陣の戦略も、わからぬではない。

ヒュウガとオオスミは小領国の寄り合い所帯。サツマは中央集権化しているようだが、実状さほど強くはない。

南3国がさしたる脅威でないとはいえ、アキ国を攻めている間に背中を掻きに来られても、こそばゆい。

それより、先に封じて味方につけちゃいましょう。

そうですね。わかります。

 

息子のブンゴ王・ヨシムネ殿21歳は、イトウ殿を郷里に返してあげればヒュウガ国から軍を退くつもりであった。

何を言っているのか。このままサツマまで手に入れてしまえ。と叫ぶ先代からの重臣たちが猛反発する光景が、今にしてようやく、理解できる。

双方に、言い分はあったのである。

そこを意思統一せず始めちゃったものだから、こじれている。

 

ヨシムネ殿が重臣たちから軽んじられている理由は、もう少しある。

これは本人の名誉に深く関わる問題なので、小声で話そう。

彼はある病気と、それに伴う苦悩を抱えているのだ。

 

私はヨシムネ殿に、デウスの教えを説いた。

先んじて兵士たちを何人も洗礼していたから、信徒となった兵がいかに強くなるものであるかという効果はわかっていただけている。

重臣たちも、私の出入りを以前ほどは嫌悪しなくなった。

 

ヨシムネ殿は、父への反発からなのか、本心では私を信用などしていなかった。

最初に呼びつけたのも、文句言いたさが9割だったろう。

が。今では真剣に、デウスの信徒となってこの戦役に勝利したいと思い詰めるに至っている。

 

「フロイス殿。打ち明けたいことがある。人払いをいたそう。秘密厳守で願う」

 

本人の口から語られる苦悩の大きさは、きわめて切実なるものがあった。

私はとっくに知っていたので解決案もいくつか準備していたのだが、それでも、慎重に、言葉を選びながら、答える。

 

信徒となるからには、ただ1人の妻しか持ってはなりません。これは絶対です。

あなたの全てを知り、それを受け入れることのできる、ただ1人の女性を、選びましょう。

彼女の負担は大きいでしょう。とてつもない苦しみを、生涯、強いることになるでしょう。

しかし、それでもいい、と言ってもらえるためには、あなたもまた、彼女の悩みに、誠心誠意向き合って、応える努力が必要です。

そんな関係が築ける、唯一無二の存在を探し当て、生涯、支え合いましょう。

そのお手伝いを、私も、全力でさせていただきます。

 

ヨシムネ王は、異常な性欲をお持ちなのであった。

ひと晩で、16回果てた記録も持つという。

じゅうろっかい?

私には想像もつかない。

そのときのお相手は7人いたそうだ。1人でこれを務められる女性がいるものだろうか。

救いは、ヨシムネ王が心根はとても健康的な好青年であることで、いわゆる嗜虐性欲望とか変態指向性などとは無縁そうなことである。よくわからないが。

 

まだ若いのにこの病気ゆえ、城内ではいくつもの失態を重ねてきた。

そんな自分に対する怒りも壮絶で、しばしば信徒になる資格など私にはない、と泣きむせぶ。

いい徴候です。あなたは純粋だ。

純粋すぎるほどだ。

絶対に、善き信徒となれます。あなたこそ、なれます。

私が保証します。

さあ九国一の花嫁よ、どこかにいないか。

 

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