戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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カブラルがブンゴへ帰ってきたのは、聖ルイスの祝日であった。

 

大行列。

入会を希望するポルトガル人を何名か誓願させ、イルマンにした。

すでに1年以上日本で暮らしていた者も含まれ、かれらは日本語に通じている。

これからのヒュウガ攻め、そしてシモ9領国を統一して津々浦々に教会を建て、全住民を信徒にする壮大な事業計画の完成が間近い今、日本語を話せる宣教師の充実は急務である。

 

そのためには教理を深く学んだ優秀な日本人信徒も対象にした方がより良いようにも感じるが、カブラルは依然、日本人を信用していない。

ポルトガル人でさえあれば、多少品行が劣った者であってもイルマンたる資格あり。日本人よりはずっとまし。

この方針が貫かれている。

私も納得した。

いま両者を一緒にすると、ポルトガル人イルマンと日本人イルマンとで、激しい衝突が起きるだろう。

人間と羊を同じ扱いにしては、よくない。

いくら賢くて良い子でも、羊は羊として精一杯、生きるべしだ。

指導者として研鑽を積むのは、まず何よりも人間からである。

 

とはいえ。

定航船水夫としての重労働から逃げ出して陸に棲みついたポルトガル人が、現地娘に食わせてもらっていたところに、宣教師急募という噂が流れてきて、妻子を棄てて教会へ転がり込み、やる気を見せてイルマンの肩書きを手に入れる。

どうやらこれが実状だ。

聖書のことばも、幼少期から耳馴染んでいるからもっともらしく話せるけれども、ちゃんと読んだことなどない。

こんな新米イルマンが大量に現れて、無垢な娘のコンヒサンを競い合ってやりたがる。

そんな光景を初日から見せつけられて、私は憂鬱になっている。

 

カブラルは、感涙にむせびながら出迎えたブンゴ父王に対し、3日後授洗すると約束をした。

領国中を挙げての大々的な祝祭にすべしと早速、連れてきた会士や従僕に命じて式典の準備に取りかかる。

しかしブンゴ父王はこれを止めさせた。

ナタやその一味をはじめ、自分の入信を歓迎しない勢力もまだまだ多いので、かれらを刺激しないよう、ひっそりとやりましょう。と。

ここではカブラルが折れた。

家臣の中でも反対派や中立派は招かず、デウスに対してハッキリと賛意を示している者だけを集めて、完全なる祝福だけに満たされる空間が準備されることになった。

 

この一行には、イルマン・ルイス・アルメイダも加わる。

直前までサツマにいたが、カブラルから呼び戻された。

つい最近、乱闘を仲裁しようとして巻きこまれ、肋骨を折ったらしい。現在は自力で歩くことも困難な容体だ。

それでもブンゴへ来させられた理由は、フナイに22年前、外科病院をつくった功労者であるという縁があるから。このとき設立を許可し、コンパニヤの威光を一躍高めることに貢献したのが若き日のブンゴ父王である。

この両者の再会を儀式の中に組み込もうというのがカブラルの目論見であったが。

結局これも割愛された。

アルメイダも、望んではいなかった。

フナイの病院跡はいまどうなっているのか。ありのまま教えてくれと頼まれたので、こっそり、ありのままに答えた。

 

コンパニヤ総会議の無慈悲な決定後、病院の一切合切は日本人に引き継がれた。

しかし技術もなく、薬も道具も手に入らなくなり、病院としての機能を瞬く間に喪失する。

今は、フナイ教会で飼っている豚や鶏の解体場になっています。

日本人従僕たちがカブラルの指示があるとそこで作業するのですが、不衛生でネズミの繁殖がひどいし、悪いことをすれば一晩そこへ縛りつけてやるぞ、という罰が信徒たちの間ではインヘルノ以上に恐れられています。

 

「フム……役立てられてはいるのか。なら、よい。

しかし、できることなら、死ぬまで見に行きたくはないな。

あの病院は、わしの大切な想い出だ。

その記憶を汚さぬまま、パライゾへ旅立たせてほしいものだな」

 

私も、それが良いと思います。カブラルにも話しておきましょう。

ところで、サツマの動きについて教えてもらうことはできますか?

ヒュウガだけでなく、アリマにまで攻めこんでいると聞いていますが、そっちは撃退できそうですか?

 

「サツマを見くびらん方がいいぞ。

今のブンゴ国がどれだけ腑抜けの集まりになっているかを、サツマはしっかり調査している。

アリマは今、南のサツマと北のスコから挟み撃ちにされているが、ここでもサツマは、アリマの地勢と兵力展開、指導者層の癖と弱みをしっかり握った上で攻略を企てている。

サツマ軍そのものの兵力は決して大きくはない。しかし、その活用のしかたが抜きん出ているのだ。

相手の愚かさを勝機に変えてみせる連中だ」

 

ダミヤン・デ・ラ・クルスが今、ノヅへ行って兵士たちを信徒化し、戦うことを悩ませなくさせてます。

最近、現地の豪族長の説得にも成功し、村ぐるみ入信させたとも。

実際、ヒュウガ国での前線はどんどん南へ拡大中ですし、意外と勇み足ではない。たぶん掠奪に時間をかけているからだと思いますが、一気に攻めこむといった感じではありません。

ブンゴ父子の対立も、私が間に立つことで以前よりずっと良化しています。

ヨシムネ王にはぴったりの婦人が見つかりました。

容姿端麗。はちきれん若さで体力も余りある。今年中には、二人揃って洗礼できるでしょう。

反対勢力も声をひそめているし、このままサツマを封じこめ、とどめをさしてしまえば、アリマを脅かす領国も北のスコのみ、ということになりますかね?

 

「フロイス。敢えて聞くが、サツマの兵力と戦闘教義を、おまえはどこまで把握している?」

 

え?戦闘……はまだほぼ行われてませんが、逃げ足がやたら早いという印象があります。

兵力の損失を避けることを重視していますかね?

ヒュウガ国から追っ払うまでは楽でしょうが、サツマ国内へ侵攻してからが手強くなるでしょう。

でも、鉄炮は少ない。私はこれよりもっと激しい戦闘をオーザカで経験済みです。

 

「0点だ、フロイス。

おまえはサツマの考えをまったく知らず、蜃気楼相手に踊っている。

そのうえ自らの愚かさに気付いてもいない。お粗末すぎるぞ」

 

私は少し不機嫌になった。

それを察してか、アルメイダも、それ以上は語らなかった。

 

日を改めて、アルメイダから、サツマの考えとやらを教えてもらおう。

アルメイダのことだから、現地で相当の情報を得てきたはずだ。その貴重な知見を、出し惜しみすることもないだろうに。

我々はもっと強くなり、万全の備えを構築する必要がある。そのための共有は、必要な手順であるはずだ。

 

それより私としては、品行不良のイルマンたちについて早急に対策を講じたかった。

アルメイダによれば、ナンガサキにはもっとずっとひどいポルトガル人イルマンも大勢いるということだが。

それはますます由々しき事態ではないですか。

 

ブンゴ父王の洗礼式は、滞りなく挙行された。

霊名は、フランシスコ。

カブラルとお揃いだ。

 

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