待降節に、ウスキ教会で盛大な洗礼式および結婚式を挙行する予定だった。
この計画が、坊主どもの悪辣な妨害により、変更を余儀なくされた。
招待状も各方面へ送った。だが、主君が出征中ゆえ等、皆様それなりの理由をつけてお断りされるのが大半であった。
たしかに戦時中である。だが余裕の勝ち戦だ。来られる者は来たらよい。だがこれ以上愚か者どもを刺激することは控えよう。来てもらえた方々へは、例年よりも賑やかな待降節を愉しんでいただこう。
その数日前。聖女カテリナの祝日に、密やかな挙式だけは行おうと、ぎりぎりまで足掻いてはいたのである。
いつまでも婚前交渉というのも、格好つかないですからね。
御主の前で誓う儀式は、早めにやっておきましょうと。
しかし新婦がどうしても皆の祝福を受けながらやりたいと固執せられ。
新郎も、かくなる上は迅速に戦争を終結させ人々を安心させた上で理解を求めようと、宥和的に解決する方針を示され。
斯くして、ナタと坊主どもは命拾いした。未来ある2人に、せいいっぱいの感謝を捧げて然るべきであろう。
さて。こうなると、戦争の早期終結が課題となる。
ヒュウガ国中域を、ミミツ川が横切っている。
ここを越えると、サツマ兵の密度がぐっと高くなる。
敵はいくつかの城や砦に陣を敷いているが、ブンゴ兵の斥候を見つけても、鉄炮で撃ってこない。ということはやはり、弓以上の射程で攻撃することができないわけである。
その圏外から鉄炮隊で脅かせば、反対側からコソコソ逃げていくんじゃないでしょうか。
そこを、襲う。
ここより先では、サツマ兵を集結させること自体、なるべく避けたい。極力、殺しておきましょう。
兵力がどんどん減っていくことで抵抗をあきらめさせ、サツマ王が講和を求めてくるように仕向けます。ここは温情をもって遇します。
これにて、サツマ国を平定する。
勇敢なるサツマ兵には、これからアキ国と戦って手柄を立てていただかねばならないですから。無益な憎しみを煽ることは控えるべきです。
ブンゴ国参謀陣には、こんな戦略など武士道ではない、と反対する者もいた。
しかし合理的な解決法というものは、感情的反対論を理詰めで覆せるからこそ合理的なのだ。
議題はすぐに、どこの城を攻めるかに移った。
最も手強い拠点を無力化しよう。それが一番、効果あるだろう。こうして、タカ城が選ばれた。
全軍がここを包囲する。との指令が次々と伝達される。
話が早くて実によろしい。こうでなくては。
ノヅの司令部で作戦が決定され、伝令が前線へ駆けてゆく。早馬でも3日かかる。
以前からこの問題は指摘されていたが、ヨシムネ王がウスキからあまり離れたくないとこだわっていた。
しかしこの期に及んで彼も決意を固め、司令部はウメに移されることになった。
ブンゴ国の南端で、ヒュウガ国との境にあたる峠の手前側だ。それでもムシカよりは北に位置するのでもどかしいが、司令所を速やかに陸路で移設できる限界がウメだったのだ。
わかりました。ひとまず、ここへ移りましょう。
ダミヤンにはずっとノヅで説教をしてもらっていた。彼にも動くよう指示したが、現地民の布教を一段落させる必要があり、急には動けないという。それならイルマンを2人向かわせる。引き継ぎをしてくれ。
私とセスペデスは、軍の先遣隊と共にウメへ行く。住民がこころよく協力できるよう、我々が計らおう。カブラルがヒュウガ国専任を決めるまでは、こんな感じで付き合うよ。
「パードレ・フロイス。軍に作戦を教授し、それと共に動く、あなたは手際が良すぎる。宣教師になる前は、軍人だったのですか?」
あー……いやいや、セスペデス。私はずっと文民さ。リジボーアで王宮の書記をしていた。
コンパニヤに入ってからも、ずっと事務屋だ。エスピンガルダを射ったことすら無い。
軍人とつきあうようになったのは、カヅサ殿と親しくなってからだよ。日本で学んだことだ。すべて。
このことは、カブラルには言わないでくれよ。
二度も禁止されたし、ホンモノの軍人家庭に育ったカブラルに言わせると、私なんて、ひよっこのまごっこらしいからさ。
「私は、ミヤコに行くと、カヅサ殿を訪問し、パードレ・フロイスのことを話す。カヅサ殿は、私に、パードレ・フロイスと同じ能力を、求めるだろうか?私には、無理です」
しなくていい、しなくていい。
カヅサ殿は、カブラルよりずっと器が大きい。実戦も数限りなくくぐり抜けてきた、世界にも稀な戦略家だ。私にだって、何も求めちゃいなかった。私が、彼に憧れて、勝手に近づきたかっただけだよ。
気負うな。気負わなくてよい。
ウメは、こじんまりとした町だった。
ツチモツとも交易をしていたので、ブンゴ国がその領主を殺したことに、複雑な感情を抱いている。
そこへ今また、ブンゴ軍が乗りこんできたわけである。
セスペデスと私は、住民への説得をして回る。少しでも、緊張を緩和できるように。
そしてすべてはデウスのお導きであり、私たち人間すべてが幸福になることが最終目標であるのだからと真剣に説明した。
望む者には、どんどん洗礼を授けた。
くたびれ果てて宿に帰って寝る日々を過ごす。
今年の冬入りは雨に祟られる。夜には、雪に変わる。
前線の兵は、もっと大変だろうな。ちゃんと暖をとっているだろうか。
聖ルシアの祝日だったと思う。
司令部が、大騒ぎしていた。伝令が、何人も駆けていった。
やがて重苦しい沈黙が漂いはじめた。
その日も私たちは町民への説教に明け暮れ、日没と共に宿へ戻ってきたが、そこで、前線の兵が全滅したと聞かされた。
え?何ですって?
「全滅です。我兵は、ひとり残らず、討ち果てました」