戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

17 / 328
SengokD.1564/002.hmos

タク島に、雪は積もらない。

海風がすぐ吹き飛ばしてしまう。

 

気温の低さも尋常ではない。

日本での生活に慣れているフェルナンデスでも、つらいと愚痴をこぼす。

ジョアンくんは、手をひび割れだらけにして今日もコメを煮てくれている。

ありがとう。君にはデウスの祝福が、きっと、もたらされる。

 

灰の日を迎え、私たちは断食を始める。

とはいえ、タク島へきてからずっと、否、日本へ来てからずっと、断食しているので、代わり映えはしない。

お魚をいただくのを、やめるべきだろうか。

本気で死んでしまう。

エウロパでも、病人は食事をしていいのだ。私たちは病人同然なのだから、御主もお赦しになるだろう。

いただきます。

 

タク島に邪宗徒はいないので、復活祭を滞りなく行えるかと思ったりもしたのだが、甘かった。

正しく導ける宣教師がいないと、だんだん戒律も典礼も、おかしくなっていくものだ。

今年は、我々がいる。2人もいる。

無いものだらけの環境ではあるが、せいいっぱい、できるかぎり、本来の姿に則った復活祭を行う責務が、私たちには課せられている。

がんばりましょう。

 

復活祭は移動祝祭日なので、教会暦によって確認をする。

フェルナンデスによると、今年は早すぎも遅すぎもしないので、その頃には暖かい季節になっているだろうとのことだ。ありがたい。

この日を中心に、日程が組まれる。

七旬節、六旬節、五旬節ときて、四旬節がはじまる。

その初日が、灰の水曜日。

前年に祝別された棕櫚の枝を灰にして、備えておく。

私たちは、御子イエズスの生涯に我が身を重ねつつ、苦難もあれど歓びにも満ちた40日間を、慈しみながら過ごす。

最後の8日間は、聖週と呼ばれる。

枝の主日に始まり、イエズスと弟子たちの身に最大の危難が降りかかる。

イスカリオテのユダに裏切られたイエズスは処刑場へと、自らの足で、歩んでいかれるのだ。

 

……あ。聖金曜日にはヂシピリナをするのだろうけど、聖木曜日はどうするのですかイルマン・フェルナンデス。

なにか、日本独特のやり方とか、あったりするものでしょうか。

 

「洗足式は、とくに変わったことはやりませんよパードレ。12人選抜して、足を洗います。それだけです。普通に終わります」

 

ほっ。

そんな次第で、聖金曜日にイエズスは十字架に磔にされ、死を迎えます。

世界は嘆きに満ち、私たちは40時間、深い深い悲しみの中を耐え忍びます。

一千五百数十年前、ゼルザレンにて実際に起きたことなのです。

しかしこれも、御父デウスが私たち人間に真理を教え考えさせるための、重要な一幕であったのです。

 

イエズスはサントスパアデレスのリンホへ赴かれ、聖なる人々と、行き場を失っていたアニマたちをパライゾへと導いたのち、地上へ戻ってこられました。復活の主日です。

聖マリヤの時刻になると、私たちは聖堂の蝋燭へ一本ずつ、火を灯していきます。

徐々に、徐々に、堂内は光で満たされます。

ミサを始めます。

イエズス・クリストと共に歩む、新たな40日間のはじまりを祝します。

私たちは、通常の食事を摂ります。ええ本来ならば。

 

そして、この豊潤な世界を創りたもうた御父デウスへも、あらためて、最大の感謝を捧げるのです。

それまで懐疑的だった求道者にも洗礼を授け、正しい生き方を学びなおす機会を与えます。

 

イエズスは、彼自身を死に追いやった者たちへ、怒ることも、責めることもしません。

人間社会の悪は、すべて誤解と躓きによって起きるものなのです。

アダンとヱワがパライゾを追われて以来、人間には原罪が刻まれていますが、これも、イエズスは浄化しました。

人間はここに至ってようやく、創造主デウスのつくられた本来の姿にもどることができるのです。

私たちは、これからはイエズス・クリストに倣いて、その教訓を日々忘れぬよう生きていけばよいのです。

それだけです。

たったそれだけのことで、私たちは幸福になれるのです。

 

後日譚を少しだけ。

イエズス・クリストと弟子たちは、それからも精力的に教えを説いて回りましたが、復活から40日後、イエズスの肉体は、死のときを迎えました。

それは、避けられぬことだったのです。

人々はやはり嘆き悲しみましたが、50日目にスピリツサントスが、かれらの頭上から降りそそぎました。

この日をペンテコステといいます。

復活祭は、ここまでをもってひと区切り。

私たちにとって、否、地上に生きるすべての人間にとって、大切な大切な祝祭です。

 

これをタク島で、厳格に、行います。

ないものだらけの環境ですけど。せいいっぱい。できるかぎり。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。