戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

173 / 328
SengokD.1580/001.hmos

今冬は、とくに雪深かった。町は来る日も来る日も静寂の中にあった。

 

昨年からの戦乱続きで、ブンゴ国内はどこでも食糧の備蓄に余念が無い。ミヤコでも、こんな暮らしを幾度となく体験したなあ。

邪宗徒たちは欲を張って自宅内で腐らせるが、信徒は競うように教会へ届けてくれる。

教会では常に弱者への施しを忘れない。さあ温かい芋粥をすすれ。私たちは信徒を一人たりと見捨てたりはしない。生き延びよう。

春はまもなくやってくる。

 

 

四旬節に入ってから、北方でチカヒロ殿の息子が裏切りをはたらいたと聞く。

ヨシムネ公を孤立させ、ブンゴ国に反抗しているアキヅキと手を組んだのだ。申し分の無い裏切りだ。どうなることかと心配もしたが、やがて、ヨシムネ公が勝利したと伝えられる。

アキヅキ側は雪で身動きのとれないヨシムネ軍を包囲した。寒いのでどこの陣も篝火を焚く。これは夜、とくに目立つ。

ヒュウガ国でブンゴ軍が大敗したときの状況に似ているだろう。

ヨシムネ公はその敗因を徹底的に検証していた。あのときのサツマ軍と同じ戦法で、アキヅキの包囲網を混乱に陥れる。雪で動きを封じられているのは双方同じことで、統制のとれてない方が敗れるのだ。

ついでに東側から回りこんで馳せ参じたアキヅキの海賊衆をも、暴風うずまく波浪に次々と転覆させ潰滅に追いこんだ。結着がつくのは春が訪れてからになるだろうが、もはやアキヅキに抗戦する兵力は残っていまい。そしてヨシムネ軍の兵たちはより大きな自信をつけ、大将を英雄と認め、これからもブンゴ国を守るために力を尽くしてくれるだろう。

そんな展望を語りながら啜る芋粥は、ことさらに美味しい。

 

 

アリマからも報告が届いているが、こちらはちょっと難問だ。

巡察師がスコを撃退した功を賞して、ついにアリマ王が受洗を望んだ。まだ若いが周囲の圧力に逆らえず我々にいちいち敵対していた、あのアリマ王がである。アルメイダが戻ってきたら、さぞやびっくりするだろう。

ところがだ。

巡察師は典礼の日程まで決めたものの、これを取り下げた。

理由はアリマ王が未来の妻となる女性とすでに一緒に暮らしていて、毎晩契っていると知ったからだ。いわゆる婚前交渉である。

たしかに、よろしくない。乙女は純潔であるべきだ。

 

しかしですね巡察師。

それは、せっかくの、友好的な進展を、棒に振るほど、悪いことでしょうか。

報告を読む限り、婚約者はその一人だけ。双方の親族も皆承知の上だし、何より本人同士がこれから一生添い遂げようと誓い合っている。

若いんだし、すでにやっちゃってるものを戻すわけにもいかないでしょう。厳格すぎませんか巡察師。

同じ理屈でヨシムネ公とその奥方にも洗礼できないことになっちゃうのでは困るんですよ私だって。

ああもう。何をやってるんだ、まったく。

 

ただ洗礼を断られたアリマ王が譲歩して、領内のテラと偶像をすべて破壊すべしと強権発動した。その廃材を薪にして領民に無償で配布させ、これをもって不問に処すという展開になっているようなので、ここまで含めて巡察師の計略なのかもしれない。だとしても、ちとセコい。

せっかくの祝福に打算を絡めるなんてカブラルの考え方と同じな気がして、なんだか幻滅しちゃうのですよ。

 

 

スコでは内紛の兆しが見られる。

連中はアリマに撃退され、ブンゴでは勝利した。ブンゴから領土とカネを分捕って去っていったが、その後の論功行賞で、アリマ方面軍へはひどい罵声が浴びせられたようだ。

どこでもよくある光景かもしれないが、スコでは弱者へのいびりようが度を越しているらしい。

昨年はアリマを巡察師が支援して、ブンゴは極端な戦力減で戦に臨んだ。この番狂わせを配慮すべきところなのだが、スコ王にはそんな判断ができないらしい。結果、アリマ方面軍はひどい不満を抱えているとの噂だ。

部将の喧嘩っぱやさも、スコでは度を越しているらしい。この調子でどんどん内部崩壊していってくれることを期待する。いずれブンゴが全部取り返してやるのだから。おぼえてろ。

 

 

セスペデスからも、また便りが。

アラキが自分の城から逃げ出した。家族や家臣たちを置き去りにし、アマンガサキあたりまで辿りついて、その後どうやらアキ国へ潜りこんだらしい。

元クボウもアキ国へ匿われて何年か経つが、愚痴り合うお友達が増えたわけだ。芋粥すすりながらメソメソといつまでもカヅサ殿の悪口を言っていればよいと思う。

残り少ない人生だろうから最後まで吐きたいだけ泣き言をほざいていればいいさ。

 

ただ、むごいことに。

アラキ軍の全面降伏後、カヅサ殿はその一族郎党、家臣、使用人にいたるまで、何百人もを公開処刑したそうだ。

全員をミヤコまで連行し、テラに集めて選り分ける。とくに近親者は車に載せ、ミヤコ中を引き回した上で六番通りの河岸まで連れていき、大勢の観衆の前で一人ずつ斬首。その他の者は磔にして、槍で突き刺したり縛ったまま小舎の中に詰めこんで焼き殺したり。

何日も何日もかけて、容赦なく断行したらしい。

 

残酷な処刑はイセイ湾やカンガ国では日常茶飯事だったが、非戦闘地域の住民に向けて一般公開するっていうのはどうなんだろう。私には、やりすぎじゃないかなって気もする。

でもセスペデスの観察によると、キナイじゅうから人々が殺到して、そこには物売りも大勢集まってきて、誰もが怖い怖いと言いながらも連日大賑わいだったことは疑いないようだ。

むしろ隠し立てせず堂々と、罪人はこうなるのだぞと人々に知らしめておくということは、正しい行為なのかもしれない。なるほど、そんな風に考えることもできるか。

 

ちょっとだけ厭な気分になるのは、エウロパ人にはロムルス帝国を連想させるからかもしれない。

使徒言行録の時代。残虐で知られる皇帝ネロが「大規模放火事件の犯人はデウス信徒である」という流言飛語を真に受けて、ラウマじゅうの信徒を逮捕した。夜な夜な競技場で殺し合わせたり、丸裸で猛獣と戦わせたり。ひどい処刑を見世物にして、それを邪宗徒の市民たちが猛喝采で愉しんだという。

二度と起こさせてはならぬ、つらいつらい、迫害と弾圧の歴史だ。

 

ネロは御主の怒りに触れ、たいへん惨めな最期を迎えたのだが、カヅサ殿はデウスの教えを理解している。その点は真逆である。正しい判断でイコ宗を殲滅し、アラキ一族を公開処刑したわけだ。ただそのやり方だけちょっと、エウロパ人には正視できないかなあと思っただけだ。

 

考えすぎは、よくないな。芋粥で腹をふくらませたら、ぐっすり眠ろう。明日も太陽は昇るのだ。

私たちの、未来を祝して。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。