戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1580/003.hmos

パードレ・ロレンソ・メシヤ。

レイモンによると、巡察師ヴァリニャーノの第一秘書。

常に側にいてヴァリニャーノの質問には何でも即答する、まさに知恵袋のような存在だという。

そんな驚異的な頭脳の持ち主から、私に手紙が届いた。

 

彼はどうやら生粋のポルトガル人らしい。文章の滑らかさでそう感じる。

しかし内容は強烈に難しかった。

専門的にすぎる。

だいたい、いくら日本駐在員では古株だからって、私にドン・バルトロメウの肚の内なんてわかるものか。

 

昨年までポルトガル定航船団の寄港地として確固たる地位を築いていたナンガサキは、オオムラ領の一部である。

オオムラ領主ドン・バルトロメウは62年にノッサ・スニョラ・ダ・アジュダ港を周辺の住民ごとコンパニヤへ提供してくれた。1年後には潰滅してしまったが、美しい思い出だ。

ドン・バルトロメウは日本人で初めて受洗した領主として、そして今もなお第一線で国を守り支え、デウスの布教に援助を与え続けてくれている。実に偉大なる人物である。

 

その彼がこのたび、ナンガサキをコンパニヤへ寄進しようと申し出てくれたという。

 

オオムラ領であるうちは、ナンガサキの税収はオオムラ領主の元へ入る。交易に伴う利潤は莫大な金額だ。

これをすべて手放しても構わないって?

エウロパでは、誰もが首を傾げるだろう。日本でも、フィラドが聞いたら目を回すだろう。さんざん船団をよこせと言われて揉めたからな、あそことは。

 

理由のひとつとして、ナンガサキはコンパニヤが一からつくった都市だという由来が挙げられる。

もともとは深い入江を持つ小村だった。ここを軍事拠点として活用できていないのが日本人の知恵の足りなさを証明していると、カブラルはしばしば力説していた。

シモから、カミから、アワから。迫害を受けた信徒たちを迎え入れて町は急速に発展した。商売人たちも集まり、カブラルにカネを借りて、この地で開業した。定住し始めたポルトガル人や、その従者として連れてこられたインディアやチイナの子供たちの中には、すでに親となった者もいる。

 

ナンガサキは、ゴアやアマカウと並ぶ、新たな国際都市のひとつだ。

この都市を律する法理論は、日本人の古くからの慣習、より正確にいえば1000年間に渡って坊主たちが普及させてきた支配体制とは、相容れぬものだった。

商慣習についてもポルトガル人が、正確な計量による正しい取引を導入した。

日本人は明確な度量衡を持たないから指で数えられる以上の取引はこれまで行われてこなかったし、どれだけの税を納めるべきなのか?という問題も、きわめて曖昧な形で適当に行われてきたのだ。

 

更には、治安の問題がある。

日本の役人はすぐ庶民を斬り殺すことで知られすぎているが、そんな野蛮な行為がまかり通るのは日本の中だけだ。それでも普通にそんな殺人者集団が地域の治安を託されている。オオムラ領でもそうだった。

しかしナンガサキにおいては、役人の権力が通用しなくなっていった。

デウス信徒は昔から力を合わせて迫害に耐え、理不尽に対して抵抗してきた。自衛する力を持つことは信仰の一部なのだ。そう私たちも教えてきた。これがナンガサキでは定着した。だから官憲など無用の存在となった。

日本の常識を覆すこんな町から、今までと同じ税金を、はたして徴収できるものだろうか?

 

オオムラの役人たちは、ナンガサキ周辺の街道に関所を設け、通行税を課すというやり方に変えた。

ところが昨年、定航船はアリマに入港し、オオムラにはこの税収すら入らなかった。

もはやオオムラ領と公言して、その管理権を主張できる土地ではなくなったのだ。

 

そこで巡察師に恭順の意を示す政治的な判断も含めて、ナンガサキを譲渡するという話が出てきたものではないかと思う。

むしろ今後は堂々と、ナンガサキでの揉め事はオオムラ領では関知しない、オオムラ領を通過する場合にのみ関所を設置させてもらう、という既成事実に説明をつけやすくなるわけだ。

定航船はこれからも歓迎する。他所より融通もきくナンガサキがやはり良い、となれば今夏はまた戻ってくることになるかもしれない。

パードレ・メシヤは現在この交渉の調整にあたっており、数々の問題点を前にして私に意見を求めてきたわけだ。

アルメイダがいれば、アルメイダにも訊いてみたいところだろう。

 

論点1。

コンパニヤは領土保有を認められていない。

それは世俗の王がすべき仕事であって、我々が直接土地を管理してはならないのだ。

この点については、定航船の船団長から人材を指名してもらって、代理の領主を立てるのがよいと思われる。ポルトガル人の領主をだ。しかし、はたしてこの任に堪えうる人材がいるか。よほどのお調子者でなくては引き受けないだろう。

だいたいナンガサキ独立領がポルトガルの一部になったとして、スコやサツマのような国から戦争をしかけられた場合、どう戦うのだ。

 

論点2。

犯罪人を裁くとき、政府は死刑を宣告する場合がある。これをコンパニヤは実行することができない。死刑を執行するには世俗の官吏が必要なのだが、コンパニヤがこれを直接任命することはありえない。

ナンガサキはひとつの都市である。

ここを治めるには、市法が必要だ。政庁と役人も置かなくてはならない。

現状、出入りする商売人の一部を除いて、全市民が信徒だといってよい。犯罪は起きない。起こさせない。起きていない。だがこの論法は、いずれ破綻する。すでに4年前、アルメイダはそう予見した。

厳密には経済も軍事も我々が直接手をつけてはならないのだが、パードレ・メシヤはこの点には触れていない。

敢えて、書いてないのだろう。我々がすでに結構この国のためにやむを得ず御主の目を誤魔化してきたことを理解した上で。

 

論点3。

ナンガサキがオオムラ領から切り離されると、オオムラ領とは対等の付き合いをしなくてはならなくなる。

ナンガサキには、耕地が無い。

食糧とくにコメはこれまでドン・バルトロメウが寄進してくれていた。

今後、生活必需品をすべて経費で賄わねばならなくなるとすれば、その費用は交易の利潤だけで支えられるものなのか。定航船の往来は常に危険を伴う。飢饉の年には、コメの値も吊り上がるだろう。この交渉ができる人材も必要だ。

商売人というものは、いつでも味方ではないことも忘れてはならない。もちろん信徒であっても気を許すことは厳禁。

 

こういった種々の問題を抱えながらも、パードレ・メシヤは、いやその親玉である巡察師ヴァリニャーノだって、ナンガサキの寄進を受けるべきだと考えており、その方針に沿って検討を進めている。

大きな話になってきたものだなあ。

ここまで大きい話は、ポルトガル王室にお伺いを立てるべきではないですか?

ポルトガル王室の認可なくして、この案件は成り立たないと思うんですが。

 

往復だけで何年もかかりますけど。ねえ。

 

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