戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1580/007.hmos

眠らない男。パードレ・アレッサンドロ・ヴァリニャーノ。

 

巡察団の中でも、ひときわ長身が異彩を放つ。

背丈は3コヴァド超。ナポリ出身。ロムルス帝国の彫像みたいな逞しい肉付きをしている。

それでいて、日本へ来てからは一切の肉食を断っているという。

 

側近たちの意見をよく聞き、決断を瞬時に下す。徹底している。

ミサでケレドを朗唱するときの声域はアルト。よく通る。カブラルはずっしりとしたバスだが、まったく異質の空間を醸成する。

カブラルの時代が終わったことを、信徒たちは肌で感じとってしまった。

ついに我らの前にイエズス・クリストが到来されたかのようだ。そんな異様な興奮が、あっという間に広まった。

 

ドン・フランシスコの治療には、時間をかける必要がある。

彼にはずっと、カブラルが唯一絶対の君主だった。今もまだ、カブラルへの忠誠こそがパライゾへの一本道だと信じこんでいるようだ。

カリオンと私とで、ドン・フランシスコを混乱させてしまったことがある。その件はカリオンが巡察師へ報告し、検討した結果パードレ・ラグーナという専任が当てられた。

ラグーナに課せられた使命は、ドン・フランシスコの心からカブラルの姿を追い払うこと。ゆっくり優しく、時間をかけて。ただ決してカブラルの威厳も傷つけてはいけない。可能な限り自然な形で、ドン・フランシスコの信仰対象を矯正するのだ。

私は恐怖すら覚える。ここまで考え抜く巡察団の戦略眼に。

 

巡察師は時々、宣言してから半時間ほどの仮眠をとる。

それで一日分の休息は充分なのだという。

聖務および会議が終了すると、あとはずっと報告書を読むか書くかしている。

私がこれまで日本から送り届けてきた文書もすべて読み、かなりの部分を暗記すらされていることに、これまた恐怖した。

 

私の文章は冗長すぎると指導された。

読む側の負担にも気を遣うべし。

しゅん。

今後、心掛けます。

 

年次報告書を、昨年はカリオンが執筆した。

今年は私だと思っていたので準備をしていたのだが、あと3箇月もすれば定航船は離日してしまう。

すでにパードレ・メシヤが今年のぶんは執筆した。私は来年分からを担当するようにと命令された。それまでに上記の注意点を克服しておくこと、というのが課題だ。

 

すべてにおいて抜かりがなく、私はいささか憂鬱になる。

 

 

パードレ・ロレンソ・メシヤ。

彼もまた、驚異的な人物だ。巡察師の第一補佐官で全幅の信頼を置かれているのがわかる。

見聞きするもの全てを分析し、最適解を導き出す能力に優れる。

私がもっとも驚いたのは、日本語に対する彼の考え方。パードレ・メシヤは2年あれば日本語の習得は可能であると豪語する。私は耳を疑った。できるものならやってみろ、と心の中で思った。

 

日本語では、男性・女性・子供がそれぞれ同じものを別な名前で呼ぶ。

貴人と庶民の間でも、シモとミヤコの間でも、夥しい差異が存在する。

ポルトガルの2倍ほどの国土に、エウロパ全体を押しこんだかのような方言がひしめき合っている。それが日本語の厄介さだ。書き言葉は更に混迷を極める。それらすべてを辞書に入れられたとしても、結局のところ日本人の話していることは、雨がどのような降り方をしているかとか、月の満ち欠けは役人たちが幕を上げ下げしているのだとか、他愛の無い内容ばかりなので、理解できたところで徒労感しか味わえない。

そもそも日本人は測量された正確な地図を作ろうともしないし、1日を12分割してはいるが夏と冬とでその長さが違っていたりもするのだ。なのに木造建築だけは美しく組み上げる能力を持つのが不思議ではあるのだが、それはさておくとして。

これまで多くのエウロパ人が日本語に挫折し、嫌悪するに至った。

私も無理強いはしない。余裕のある者が、できる範囲で覚えてくれれば助かるね。そのくらいの気持でこれまで過ごしてきた。

 

パードレ・メシヤの分析は根本的なところが違った。

彼は、日本人の発言を理解しようと、そもそも考えない。

聖書やケレド、祈禱文などを日本語で表現できれば、それでいいという。要約で結構。日本人に驚きを与え興味を持たせる。箴言や警句を、ただ与える。日本人は自ら学習するだろう。かれらの類い稀な好奇心と熱心さを我々が活用し得れば、それでよい。

そのコツを習得するだけなら、2年で足りる。これがパードレ・メシヤの方針なのだった。

なにからなにまで、敵わない。

 

そんな巡察団を連れて、フナイ・オオザイ・ノヅ・ユウ・クタミなど各地の拠点を訪問した。どこでも熱狂的に迎えられた。

一巡したところで、いよいよ、ブンゴ教区会議の開催となる。

 

アリマのセミナリヨに続いて、ウスキにノビシヤドを、フナイにコレジオを設立することが決定した。

これらはシモ、ミヤコの決裁を待たず、すぐ実行に移される。

用地と建物はドン・フランシスコからの提供をありがたく受領した。

冬の間、我々は交代で教師と生徒をつとめる。本来コレジオは研究施設であるが、当面はエウロパ人が日本語で説教をすることに慣れるための学校という位置付けだ。

日本語と、ラテン語あるいはポルトガル語を、両方ある程度使える者であれば、従僕だって教師として採用するという破天荒な人材活用に、笑いが止まらない。

これを機にイルマンへ昇進した者も何人かいる。年内に日本駐在コンパニヤ会士は60人を超える見込みだ。うち、パードレは28人である。

 

イルマンは日本で承認できるが、パードレへの叙階は日本が独立管区とならなければできない。

この件も、会議で討論された。シモとブンゴで否決されたから不可だ。ミヤコでは報告だけになる。日本はまだ当分、インディア管区の一部という状態に留まると。

理由は、現駐在員にまだその準備が整っていないから。

それに、いま独立してしまうとエウロパからの志願者がまっすぐ日本ばかり目指すようになる。ゴアやマラカは求心力を失って空洞化するからだ。とも言われた。

 

エウロパで、ここまで日本人気が高いのは、私の書き続けた報告が大いに影響していることを、巡察師もパードレ・メシヤも、その他全員が認めてくれている。

私の文章、縮めなくてはいけませんか?むしろ、もっと濃厚に書いてもよくないですか?

使命感が漲ってくる。そうだよ。来年からも、大人しくなんてせずに、書くぞ。

 

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