戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

18 / 328
SengokD.1564/003.hmos

ディエゴが、20人の信徒を連れて、タク島へやって来た。

皆、コンヒサンを望んでいるという。

当然といえば、当然だった。想定しておくべきだった。気が回らなかった。

 

フィラド島には順番待ちの信徒も大勢いて、可能であれば明日からも毎日、20人くらいずつ連れてきたいという。

フェルナンデスが目を虚ろにして、うなずいている。

どうしよう。ジョアンくんにも受け持ってもらうか。

私はまだ、そこまでの日本語力を身につけていない。

 

力無く微笑む私たちに向かい、ディエゴは、灰の日に起きた悲しい出来事を告げる。

私たちはフィラド島、ドン・アントニオの邸に、日本の貴人たちを訪問するときのための貢ぎ物を預けておいた。

日本には無い、珍しいものを中心に、荷車2台分ほどの量をドン・ペドロの船から移しておいたのだ。

これが、すべて、焼失したという。

 

私たちは表情を失った。

声も出なくなった。泣き叫べるなら泣き叫びたいところだった。

御主よ。あんまりではありませんか。いくらなんでも、度が過ぎます。

しかし、こう考えることにした。

私は昨年、奇蹟を起こした。

私は、御主に、目を掛けられているのだろう。

もっと試練を与え、私を試そうとなされているのに違いない。

そうだよ。聖人たちの受難なんて、こんなものではなかったよ。

もっともっと、つらい試練に見舞われてこそ、マルチレスになれるんだよ。

だから、歯を食いしばって、耐え忍びます。

それにしたってあんまりだとは思いますけど。

 

気を取りなおして、コンヒサン。

四旬節に入ると、原則として洗礼はしない。

結婚式も、復活の主日以降に延期する。

その代わり、コンヒサンを勧める。

日頃の行いを振り返り、反省し、告解し、赦しを請う。

そしてフィラド島には、タク島の何倍もの信徒がいて、かれらが挙ってパードレにコンヒサンを願いたいとやって来るのは自然な流れだよなあ、と思う。

 

本日気付いた、いくつかの問題点を指摘。

フィラドからの来訪者は、皆、派手に着飾っている。

信徒の中でも富裕な者からやって来るのだろう。コメやお菓子、手巾など、寄付も忘れない。

これが、タク島の住民たちを刺激する。

 

タク島の住民は、はっきり言って皆、貧しい。

どの家も小舟で漁へ出かけ、その日その日を暮らしている。

家が焼失してしまっても建て直す資金が無く、親戚の家などで寄り添い助け合いながら、健気に信仰を守って生きている。

清貧である。美しい。

ところが、フィラド人はそんなタク島の民を冷やかし、嘲弄しているように思われる。

 

悪意は無いのだろうと信じたい。

それでも、尊大さは態度に出る。

とげとげしい空気が、教会内にもたらされる。

良いことではない。

 

現在の教会は狭いので、コンヒサンは衝立を隔てた一角で個別に行い、併行して私は信徒たちと円を囲むように座って、ラウマ文字で書かれた日本語の説教を読み上げる。

少しづつ、日本語の発音にも慣れてきているところだ。

本来コンヒサンは一対一で行い、その内容については厳格な守秘義務が課せられる。当然だ。

しかし、イルマン・フェルナンデスをこれ以上苦しめることを御主も望まれないはずである。

あらかじめ対象者に、ジョアンくんによるコンヒサンをイルマンが補助する態勢でも構わないかどうか尋ね、可であればそうさせてもらい、否であればフェルナンデスが一人で対応する、という形式をとった。

実際このやり方は、日本ではよく行われてきた方法であるという。

 

フェルナンデス単独を希望する信徒は、きまって若い女性であるという傾向を発見した。

夜、率直に聞いてみた。

日本人信徒に単独でコンヒサンをまかせる場合、躓きが起きたことは、あるかどうかと。

 

「パードレ、よくぞ、聞いてくれた。躓くよ。

たいていは、コンヒサンした娘さんと、ある日とつぜん、いなくなるね。

アジュダもタクも、環境的に起きにくいが、ミヤコなんかひどいものだって。

パードレ・ヴィレラの報告書は?ああ、全部は読んでないか。

教会の従僕となることは、女と秘密の会話をできる近道だ。そう若い坊主どもに思われてるフシもあるから、要注意だね。

まあミヤコの話はいいとして、ジョアンくんもそろそろ夢精を始める年齢だから、気をつけて見てあげておく必要は大アリだ。

今日のところはまだまだ必死さが出すぎていて、ほほえましかったけどね」

 

ジョアンくんから、カドがとれ、彼にコンヒサンを願いたい、と通うようになる娘さんが現れるようになると、か。

たしかに今日の着飾ったフィラド人を見ていると、ふだんタク島で暮らしているからこそか、私だって毒気にあてられる思いにとらわれた。

若い子には刺激が強かったろうと、察するにあまりある。

 

「パードレ、あなたも今後、日本語でコンヒサンできるようになると、危険な誘惑に日々苛まれることになると警告しておくよ。日本の女は、エウロパ人が大好物だ。

あなたが日本女と一緒に姿をくらますパードレ第1号となる可能性だって、ないとはいえない」

 

おいおいおい、やめてくれ。

しかし……フィラドは交易港だ。娼館もあるだろうし、遊女の信徒もいるだろう。

遊女は、罪の塊だ。

悩みも深いだろうし、信徒であるならコンヒサンをしてあげなくてはならない。

しかしそれがゆえにそうなってしまいやすいものであるということもまた、必然ではあるのだ。

心しておこう。

だが。あらためて思うに、イルマン・フェルナンデスよ。

君はどうして、そこまで超人的なのかな。

これまで君自身が躓いたことも、数多くあったのではないか。

よく、乗り越えてきたね。

 

「うれしいよパードレ。そんな優しい言葉をかけられたのは初めてだ。

僕のコンヒサンを、今ここで、きいてもらうことはできるかな。なんだか、思いきり、心にためこんできたいろいろな抑圧を、吐きだしてしまいたい気分になってきてしまったよ」

 

いいよ。僕でよければ、存分に聴こう。吐いてくれ。

 

 

それは

インヘルノもここまで醜悪ではないだろうと思われる

おぞましく筆舌に尽くしがたい

名状しようにもできない

なにものかであった。

 

もちろん、私はそれを、誰にも言わない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。