戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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巡察団の皆さんと親しくなっていくにつれ、だんだんと闇の部分も見えてくる。

私は、知ってしまったこと、頭に思い浮かんでしまったことを、じっと秘めておくことができない性分だ。病気かもしれない。

上長にコンヒサンを願うことは可能だが、それもちょっと勇気が出ないし、罪を犯したわけでもない。だから時々、井戸の底へ向かって叫んでみたりするくらいだけれども、今日もそんな気分だ。

吐こう。

吐いて、すっきりしよう。

あ、井戸というのは喩えですからね。ほんとの嘔吐はしませんよ。

 

その1。

巡察師ヴァリニャーノは、メステレを冠せられること確実な聖人であるが、その過去には筆舌に尽くしがたい傷痕が刻まれていた。

若かりし日、故郷のナポリで、恋人に殴る蹴るの暴行をはたらき、死なせる寸前まで追いこんだらしい。

あの体格と頭脳だから、相当にひどいことをやっちゃったんだろうなあ。

名門の子息だったが、二度と家へは帰れなくなり、コンパニヤへ入った。

今でも、自分には永遠に償えない罪があると言ってそれ以上は語らないけれども、深く深く反省しているように思われる。

だからこそ、これだけ精力的に働くのだろうかと見えてきたりもする。

 

その2。

巡察師は日本でカブラルの利権を叩き潰したが、ゴアでも同じことをやってきたらしい。

私がいた頃からゴアの官僚腐敗はひどいものだったが、後に異端審問所ができてからは当局とコンパニヤが共謀。目障りな商売敵を狙い撃ちしては財産を没収し、ひたすら私腹を肥やしていたようである。

インディア王が元締めなので、誰も逆らえなかった。

しかし、より上位であるポルトガル王から直々に調査と粛清を依頼された巡察団は、4年かけてこの癒着体制を徹底的に洗い清める。

それが片付いたので、やっと極東への訪問にとりかかることができたのだ。

巡察師が日本で天井知らずの経費を湯水の如く使えるのには、ポルトガル王室から多額の予算が与えられたことに加えて、ゴアで接収したぶんも大きい。

日本でもカブラルが貯めこんでいたカネを全部没収したのかしら。どれくらいの額かしら。と気になるところではあるが、私が興味を持ってよい話題でもない。

いずれにしても年報や日本史には書けないから、これ以上は口を噤みます。

 

その3。

異端審問に関連して。

今年アルメイダたちがアマカウでパードレになって戻ってきた。

アマカウでは、叙階の秘蹟に必要な聖油をきらしていた。

5人のイルマンは、叙階しないで日本へ帰るか往復3年かけてゴアまで聖油をとりに行くかの選択を迫られる。

結局なんとか代用品を見つけて叙階。翌年日本へ戻って来れたのだけど、このときアルメイダとサンチェスがゴア行きに猛烈な反対をした。ゴアへ行けば自分たちは異端審問にかけられるから、二度と生きて帰れないと言ったのだ。

2人は、コンベルソだった。ジュデヨが改宗していたのである。

それだったら尚のことこれまでコンパニヤへ尽くしてくれた恩義に、より感謝したくなるところだけれど。現場では相当に揉めたらしい。

巡察師は不正に手を染める官僚や聖職者を憎悪するが、同じくらいジュデヨも嫌悪している。コンベルソは本質的に裏切者であるから、たとえ数々の実績があっても軽蔑する。

何てこった。ともかくこの一件で、2人の正体を皆が知った。

パードレの身分は取り消されなかったけれど、今後誓願などを認められることは、巡察師がインディアを担当している限り、ないだろう。

現在、アルメイダはアマクサに、サンチェスはオオムラに駐在している。

2人がどんな想いでいるかは知らない。出世の道は断たれたけれどもあとはのんびり過ごせばいいや、なんて緊張を解いていていてくれるといいかなあ。そんな風に思ったりする。

 

その4。

巡察団約40名が、盛大な見送りをされてリジボーアを出帆したのは74年のこと。

私が祖国を離れたのが48年、16歳のときだから、それ以降のエウロパ事情を、いろいろと聞いた。

モーロ人との戦争は終結した。

主戦場となっていたカスティリヤやアンダルシアから敵勢力は一掃され、イベリヤには平和が訪れた。

ここで本来なら、めでたしめでたしとなってほしいところだ。しかし我がポルトガルと、カスティリヤを中心とした連合王国との仲が、今度は悪くなってきた。

ポルトガルは、イベリヤ半島の西端に突き出た小さな王国だ。目の前には大洋が広がり、大昔から男たちは大海原を駆け回っていた。だから世界のどこよりも早くアフリカの南端に到達し、半年でインディアまで行くことができる航路を発見し、ついにその先の日本にまで開拓の手を伸ばし得たわけだ。

カスティリヤ人たちは何百年もモーロ人との戦いで疲弊しきっていた。一時は滅亡の危機にも瀕した。

僕たちのぶんまで戦ってくれたともいえる。ありがとう。

戦争は終わった。これからは平和のために、広大なイベリヤの大地を耕すべきだ。僕たちはそれを応援しよう。カフルの調達ならまかせておけ。

だがしかし。

連合王国の勇者どもは、戦闘狂になりすぎてしまったのかもしれない。

とくに海軍が強くなりすぎた。ポルトガルは大型商船の開発力では他の追随を許さないが、連合王国は戦闘艦開発力で今やヴェネツィアをも凌ぐという。

かれらがその気になれば、ポルトガル海軍など敵ではない。これはまずい。

ポルトガルが外交で防衛力をつけるには、カネが必要だ。タレナーテの香辛料のような高価値商品を、もっと本国へ送らねばならない。

日本はまだまだ本国からの投資に頼りきって開発をしている段階だが、早くこれを黒字転換することが求められる。

巡察使たちは、その大任を背負って日本へ送りこまれてきた実業家集団でもあるのだ。

 

その5。

エウロパの闇をもうひとつ。

モーロ人がいなくなったせいなのか、カウトリカ内部でも軋轢が起こり始めた。

教皇猊下の決定に従わない派閥がいくつもできているそうだ。この状況は容易に、悪魔の出来を招く。

異端の発生は過去に幾度もあったが、近年ではこの凶悪さにも磨きがかかってきて、理論武装、重武装した反社会勢力が、次々と出現しているらしい。

モーロ人は、とんだ置き土産を残していったようだ。

まるで坊主だな。

 

その6。

駄目押しの闇。

昨冬、アマカウからゴアへ向かった船団が、暴風雨で難破したそうだ。

もしカリオンたちがゴアへ向かっていたら、そこで帰天していた。助かったのはデウスのお計らいだったと考えたい。難破した船には、邪悪な者だけが乗っていたはずである。

そいつのせいとはいえ損害は甚大で、巡察師たちの計画にも少なからぬ変更が生じているらしい。

この件は秘匿されており、私も知っているべきではない情報なので、井戸の底に誰かが隠れていたとしても、くれぐれも他言無用に願いたい。

 

私たちは、常にこんな危険とも隣り合わせで戦っているのだ。御主に見守られていることを感謝しながら。

アーメン。

何度でも、誠心誠意、アーメン。

 

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