戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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恥ずかしい限りだが、在日18年を誇る私が、巡察師から、日本人との正しい接し方について再教育を受けている。

 

日本人は自尊心が高く、自分より愚かな者の言葉になど耳を貸さない。

ゆえに宣教師は、常にかれらより賢く、すぐれた人間として振る舞わねばならない。

上辺だけであってもならない。威厳を持ち続け、すべての日本人から尊敬され、憧れられる人物像であらねばならない。

はい、ごめんなさい。いえ、あらためます。

 

日本人は世界のどこよりも厳しい潔癖さを持つ。

家へ入るときは靴を脱ぎ、朝夕の掃除を怠らず、食事を手づかみで摂ることにすら嫌悪感を示す。

カブラルのように、肉の脂が染みついた服で往来を歩くなどは言語道断。

日本人同士は、親しい間柄ですら、整頓されていない部屋に人を招くことをしない。

明日の何時頃伺います、と約束してその通りに行動する。それほど秩序に厳格で、礼儀を尊重する民族なのだ。

日本に駐在しているエウロパ人で、これを正しく実行できている者がどれだけいるか。

たった今より、改めるべし。はい、あらためます。

 

これに伴い、我々の制服が新調された。

宣教師はゴアから、あるいはエウロパから、正規の修道服を持ってきている。

日本は湿度が高いので厚手の黒服は夏では拷問具に化ける。それもあって、祭礼のときにしか着ない。

カブラルくらいかな、普段からずっと着ているのは。

だから、とてつもなく臭くなる。

 

我々の普段着は、日本のキモノとかユカタとか呼ばれる民族衣装だった。これは風をよく通すのだ。冬季は重ね着をする。

こんなことを報告したら禁止されるに決まっているから、今まで、つとめて話題には上げなかった。

巡察師は、日本の業者に我々の制服を発注した。

パードレ用、イルマン用、従僕用、そしてセミナリヨの学生たち用。

軽い木綿で、ひとり3着から5着。

週に一度は洗えという。

 

弁解をするが、今までこんなことは、したくても予算がなくてできなかった。

新しい制服は、我ら自身を内面から変化させた。

私自身もいま、誇らしい気分に満たされている。まだまだ働ける。そんな気概を持つ。

この改革は、かかった莫大な費用に充分見合う効果をもたらしているのだった。

 

アヅチにもセミナリヨをつくることが、ほぼ決定事項だ。

アリマのよりも、大きく。すでにニエッキには、用地選定を任せているという。

アリマではセミナリヨ開校後にそこで学ぶ子供たちを見て、我が子も是非、と志願する親たちが大勢現れた。

その中から優秀な子弟を預かって、アヅチの方へ入学させる。

そんな段取りも着々と進んでいる。

 

そしてこの、日本でどんどん養成される聖職者を全インディアへ派遣し、デウスの教えを広めようというのが巡察師の壮大な計画だ。

第17世紀を迎える頃には、何十人もの日本人パードレが、大海原を駆け巡っていることだろう。

インディアにおいては日本人が最も優秀な民族なのだから、かれらに統治を任せることがいちばん理に適っている。

 

エウロパから数人ずつのパードレを送りこんでくる従来のやり方では、到底こんな発想は出てこない。巡察師がデウスと同じ視点から地上を見渡しているとしか、私には思えないのである。

それはいったいどんな眺めなのだろう。

想像を絶するほどの、美しい光景なのではあるまいか。

 

ところで実際、日本人の優秀さはインディア各地で鳴り響いているそうだ。

18年前にはまだまだ日本を知る者は少なかった。

日本のカタナはよく切れる、くらいは知られていた。

今ではマラカあたりまでは日本人が結構いるという。肉体労働にはまったく向かないが、掃除・洗濯・炊事・買物・子守などに抜群の適性を持つと評価され、かなりの高値がつくそうだ。

チイナでは売れない。

日本人はチイナまではなんとか海を渡れるので、かつてさんざん、この地域を荒らし回ってきた。

日本人を売りに来た、なんて言えばアマカウでは石を投げられるそうだ。

この怨嗟はとても根深いらしいので、チイナの布教に関してはエウロパ人だけで進めていかなくてはいけないという課題がある。

 

私は日本のことだけとりあえず考えていればいいが、巡察師たちはゴアやチイナや、その他各地ごとの状況を見据えた上で戦略を練らねばならないのだ。本当に、大変な役職だなあ。

 

 

私を含めた巡察団一行は、四旬節へ入ってからいよいよキナイへ向かう。

復活祭はタカツキで迎えたいというのが巡察師の希望だ。

現在はその準備で大わらわ。

カフルたちの漕ぐフスタに加え、大量の貢物を載せた船でセト内海を横断する。

アキ国の船と遭遇して戦闘になることは想定済みだ。我方は厳重武装で臨み、むしろコンパニヤの威力を見せつけてやる狙いである。

カフルたちのフスタはスコやイサハヤとの海戦でそれなりの経験を積んでいるが、アキ軍ははるかに手強いとされる。オーザカ湾ではカヅサ殿のケゴ衆が制海権をかなり取り戻したというが、我々はアキ軍の残党がひしめく海に飛びこんでいくとも言えるわけだ。

もちろんここで我々が沈められれば、コンパニヤの計画そのものが完全に崩壊する。なので失敗は絶対に許されない。そのための軍事教練も、我々はノビシヤドで始めた。さすがにエウロパへ報告したりはしないが。告げ口をしてる暇があったら、刀身を磨くべしだ。

 

世界戦略を語る者は、軍事の重要性についても熟知していなければ務まらない。軍事貴族出身のカブラルが意外にデクノボーだったことを考えると滑稽だが、巡察団はこの点についても理解がしっかりしており、話が早くてたすかる。

そう。勿論、カヅサ殿とどのような関係を築くべきかという問題だ。

 

「パードレ・フロイスによる、オタ・カヅサ・ノブナンガの詳細な報告は、我々の方針を決定するにおいて、きわめて重要な示唆に富んでいる。

とはいえ長すぎるので要約版をつくった。各自、出発までに一読しておくこと。

ミヤコ上長のパードレ・オルガンティーノは正反対に近い印象を述べているが、これも検討に価する。

アヅチにて本人をよく観察した上で決定を下すことになるが、日本の内戦を終結させるにはカヅサ王をいかに利用するかが鍵となることは確かであろう。

パードレ・フロイスの分析能力がどれほど確かであるかも、判断できると思う。私は、カヅサ殿がこの通りの人物であってほしいと思っているよ」

 

この時点で、巡察師からは最大級の賛辞を与えられたと誇ってよいだろう。ついに私の正しさが理解されるときがやってきたのだ。

それでは、行ってきます。アヅチへ。

 

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