戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1581/004.hmos

身に覚えのない、ひどい中傷をされた。精神的苦痛を味わっている。

 

しかし私にはこれまで築いてきた誠実なる言動と、仲間たちとの堅い信頼関係がある。誤解はすぐ、とけるだろう。

裁かれるべきは、おまえだ。ニエッキ。

 

3日後に、カヅサ殿との正式会見が決まった。私も通訳として、かつ公式記録者として参加する。

いまだにポルトガル語を苦手とし、巡察師に言わせると母語であるイタリヤ語もいささか上品さに欠け、日本語だって相当にミヤコに庶民層寄りで格調低いニエッキに、勝ち目などあろうものか。

 

とはいえ清廉潔白な私はともかく、カヅサ殿の男色が明るみに出たことは痛打であった。事実だから。

 

美少年ばかりを侍らせているというのも紛うかたなき真実だし、そもそも隠そうとすらしていない。大量殺人者で嗜虐性も高い王が洗礼を受けた例はいくらもあるからそこは押し通すつもりでいたが、男色も加わると、擁護はきわめて難しくなる。

カヅサ殿の獣欲が枯れてくれるまで、あと10年か20年は、洗礼も、エウロパ観光も、お預けかなあ。ニエッキ、おまえのことを心から憎む。

 

カヅサ殿自身から、昔聞いた。女は面倒くさいのだと。

 

王だから子作りに励まなければならず、日本では何人もの妻を持つことも要求される。

女は二人以上寄れば美しさを競い合い、召使の数で優劣をつけたがる。気まぐれで、すぐ嘘をつき、男はこれに振り回される。

その点、男はよい。ほとばしり出せば、それで終わりだ。何の後腐れもない。

鍛えた体はよく締まる。殴り合って深める絆も良いが、枕を重ねることでより深くわかり合える。

女は柔らかすぎる。壊れやすすぎる。予には扱いかねるのだ、と。

 

私の肉体はカヅサ殿の求める水準を満たしていなかったので、夜伽を命じられたことはない。だがカフルの肉体は、カヅサ殿にとってたまらなく美味しそうに見えただろう。さっそくお楽しみなのだろうなあ。

私はちょっとだけ嫉妬を覚える。なんてね。変なことを言わせないでくれたまえ。

 

 

会談の日が訪れた。

我々は多くの貢物を持って、カミキョウの邸へ参上した。カヅサ殿は以前より若返ったように思われた。

サイカ、カンガ、オーザカを滅ぼし、残るはアキ国のみだ。愚か者の完全洗浄まであと一歩と迫っていることを実感した。

アヅチの町は完成し、商人が毎日市を開いて賑わっているという。4日後のパレードを終えたら自分は戻るので、早めに遊びに来るようにとの招待を受けた。

もとより、そのつもりである。

 

この日までに、キナイ教区の会議はミヤコではなくアヅチで開催することが決定されていた。ミヤコには広い会堂が無いので、大きな行事はやりにくいのだ。

 

巡察師の、カヅサ殿への印象は、この日確固たるものとなる。ニエッキの口から出た偏見は払拭された。

エウロパの王侯たちよりも高潔で、他者へのもてなしに細やかな心遣いを怠らず、快活で、思考も明敏。期待される人間像にこれほど合致する人物は世界すべてを見渡しても稀であると、大絶賛だった。

巡察師はミヤコにおいて、ダイリへの謁見も希望していた。その仲介をカヅサ殿にお願いする手筈だったのだが、不要になる。

私は巡察師を納得させた。ダイリは、王宮の奥から決して出てこない。地上のすべてを穢らわしいと軽蔑しており、クゲに免状は発給させるが、ダイリ自身は民衆の生活になんら関心を持っていないのである。

今度のパレードもダイリサマに捧げるという建前で行われるが、当人が人前に姿を現す予定は無い。せいぜい、王宮の庭から街のざわめきを感じとるくらいだろう。山ほどの時間と手間をかけて謁見を実現することは、甚だしく現実的ではありませんよと。

 

ひと仕事終えたところで、パレードの打合せに入る。

私も実は驚いた。現在戦場を抱えていないキナイじゅうの領主が、めいめい派手に着飾った騎馬隊を繰り出してカミキョウの馬場を練り歩くという趣向だ。

相当な規模となる。軍事的な教練ではなく、あくまで見世物。とにかく目立たせ、民衆の記憶に遺る領主たれ、という。

サンガやタカツキでもこれのために準備をしていたはずだが、我々が情報を漏らすことを警戒して見せなかったと思われる。当日びっくりさせ合うために。

 

面白そうだ。しかも、平和の祭典と呼ぶにふさわしい。平和でなければこんな催事できるわけがない。それを実現できる人物なのだ、カヅサ殿は。私は誇らしいこと、この上なかった。

ニエッキはどんどん、苦々しい顔になっていった。

 

私は慎重に、シモ島の勢力図が変化したことを話題に載せる。

 

私がミヤコを去るまで、シモの覇者はブンゴ国一強だった。

これがたった一度の敗戦で衰退し、現在はいくつかの小領国に対し防衛戦を強いられている。そして島の南側には以前より強敵となったサツマ国がじっと控えている。

残念ですが、アキ国を西から追いこむ作戦は、お手伝いできなくなりました。

 

話しながら、カヅサ殿の顔色をうかがう。知っておるわ、と目が嗤っている。

途中、カヅサ殿は誰かを呼びつけた。日焼けした顔の男が現れた。

コノエ殿という。

この邸の管理人らしい。カヅサ殿の家臣だろうが、新入りか。一人だけ雰囲気が違う。少し気になるが、正体が読めない。

 

「コンパニヤとしては、豊後に勝ってもらわねば困るということか。薩摩は、潰しても構わぬか?」

 

コノエの表情が、険しくなる。

巡察師は答える。

 

「ブンゴ王は、私たちが日本へ最初の一歩を踏み出したときから援助をし続けてくれている、大切な庇護者です。

ただ私たちはサツマ王からも宣教師派遣の要請を受けており、教会設立の準備をしているところです。我々はすべての日本人に福音を届け、アニマを救済することが目的ですから、一方が他方を殲滅することを必ずしも望んでおりません。

一人でも多くの人間を救うことができるなら、それが一番望ましい形です」

 

私がこれを通訳すると、コノエは不思議そうな表情を浮かべた。真意はさっぱり読み取れないが、無表情を特徴とする日本人にしては、顔に出やすい性格のようだ。ますます、気になって目が離せない。

驚いたことに、私たちがブンゴを出発する直前、スコが北のファカタに攻めこんだ事件も、カヅサ殿は御存知だった。しかもその後あちこちから火の手が上がり、ファカタの町は一軒残らず焼け尽くしたという。教会も……か?

私たちは青ざめたが、今できることは何もない。

ただカヅサ殿が、シモ島にまで情報網を広げ、その動向を迅速に入手できる力を持っていることは思い知らされた。

 

ニエッキも、よくわかっただろう。カヅサ殿に楯突くなど、君には百年も二百年も、早いよ。

巡察師よ。どうぞ、あなたの目で見られたままのカヅサ殿を、コンパニヤの世界戦略に活用してください。

 

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