パレードはミヤコを熱狂させた。
その奇抜さは想像をはるかに超えていた。
色とりどり、形も様々。
最近は金銀で馬具や衣装を飾りつけるのも流行っているみたいだ。背中に百本の矢を放射状に担いで現れた集団もいた。
柵前に押しよせた群衆の歓呼に、兵たちは笑顔をふりまきながら、手を振ってやる。そんな前代未聞の祭典だった。
カヅサ殿はどこから手に入れたのかわからない天鵞絨張りの玉座を準備させ、諸将に激励を授けた。我々もその脇に並んで、観覧する。
一番手は、ニワ殿配下の騎馬隊だった。
ネゴロスの隊もいる。ノフタタ殿もギフから参加。シバタ殿も、エチゼンより参加。
タカツキ勢はコレトウ殿の列に随っていた。指揮系統では現在、彼がジュスト殿の上官なのだと知る。
余興に、模擬試合も行われる。目の回るほど、贅沢な一日であった。
観覧席の一角に趣味の悪い御殿がつくられていてどうやらその中でダイリが見物しているようだと察しはついたけど、周囲から浮き上がっていたし、そっとしておくべきだと考えて近寄らなかった。
先日カヅサ殿との会談中に現れたコノエ殿が、馬に乗って参加していた。ここで初めてその素性を知る。もとクゲだという。今もクゲか。だが、武士に憧れカヅサ殿に弟子入りした格好になっている。
最近、こういうクゲが多いらしい。
なるほど。使いものにならないのが大半だが、それでもコノエ殿は、カヅサ殿からそこそこ目をかけられているのだそうだ。と今ではクゲの身分を手に入れた筆頭家臣のコレトウ殿から聞いた。
コレトウ殿といえば、以前のアケチ殿である。
「パードレ・フロイス殿。あなたの御高名は聞き及んでいる。京まで、はるばるよくぞ参られた」
今日はコノエ殿の方から、私に話しかけてきた。そうですか。私は有名人なんですね。
「巡察師殿が、下の戦乱をこれ以上拡大すべきでないと表明されて、私は正直ほっとしたのです。私は、薩摩と親しくしていたものですから」
ほう?クゲがサツマと?え、どういうつながりですか?
「地方領主が京へ上り、皇居へ参内する際は、担当の公家が仲介をする決まりなのですが、薩摩領主の担当は代々、我が近衛家だったのです」
ああ、なるほど。
「織田殿に仕えるようになった私は、そんな縁から薩摩への下向を命じられました。二年ほど、あちこち見て回りましたねえ」
おや?最近までサツマに住んでいたということですか?
「天正五年に帰洛しました。有馬の、デウス教に改宗された王が亡くなって、代替わりされた頃ですね」
ええと、今は天正9年だから、5年前か。1577年。私がブンゴへ転居した年じゃないか。けっこう昔の話だな。
ヒュウガの敗戦にこいつが絡んでたら殴ってやりたいところだった。
「そのときの私は、ひとまず薩摩の状況を視察してくることだけが任務でしたが、先日の二条城での会見であなた方が話されていた内容からすると、近々また何らかの役目を仰せつかって出向するかもしれません。そのときは、どうぞよろしく」
話し方を聞いていると、いかにもクゲらしい、のんびりした、雲をつかむような、緊張感の無い人物だなあ。
私から情報を探ろうという意図があるわけでもなさそうだ。純粋に、ただの挨拶らしい。拍子抜けしてしまうなあ。よろしく。
この人をサツマに潜入させたとして、サツマが次どこへ攻めてくるか、なんて計画を事前に調べてカヅサ殿に届けるなんてことができるものだろうか?
いや、わからないな。わざと相手を油断させておく手かもしれない。でも、クゲだしなあ。
「フロイス殿。失礼。ちょっと腕をつまませてもらってもよろしいですか?」
え、腕ですか?はい、どうぞ。
「ほう……やはり、右利きか。フロイス殿、あなたは鷹狩をされますよね?」
何ですか?鷹狩?いえ、したことはありません。
「あなたが腕を動かすとき、特徴的な仕種が見えるのです。右腕を、こう、水平に構える型ができている。これは鷹狩の基本的な所作なのですが、鷹も飼わずに、どうしてこれが身につくものですか?」
ああ……そういうことか。ブンゴで、時々私は鷹を腕や頭に載せるのです。懐いてる鷹が一羽いて、よく飛んでくるのです。
「餌付けされているということですか?」
いえ。餌をやったことはありません。しばらく休んだら、飛び去っていきます。それだけです。
「何という……そんな鷹が、いるものですか。信じられない。不思議だ。人に飼われていた鷹が逃げ出したのだとしても……餌もくれない人間に懐くなんて……考えられない。不思議だ、不思議だ……」
あのう。私は鷹の生態についてはよく知りませんが、今言ったことは事実です。餌をやったことは一度もありませんが、その子は私にだけ懐いているのです。それ以上はわかりません。もう、いいですか?
コノエは、おかしな男だった。カヅサ殿に聞いてみた。もともと奇行癖のある人物らしい。ただ、鷹の飼育と調教にだけは異様な才能を示すという。
カヅサ殿はじめ鷹狩を好む武将は多いが、ミヤコ界隈では多くの者が、コノエ殿から鷹を買っているらしい。
あの鷹が私に懐いているのは、ウルトラという、アンジョのようなものが私の中にいるからだが、これを説明するのは難しい。
それにしても、鷹狩の仕種が身についていると言われて、我ながらびっくりした。
フナイでは、豚の臓物がいつでも手に入れられるが、以前それを食わせてやろうとしたら拒否された。もっと新鮮で、もっと美味い肉でないとお口に合わないようだ。そうウルトラに言われた。
そんな面倒な生き物、とてもじゃないが、飼わないよ。