戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1581/008.hmos

ペンテコステ到来まで、我々はアヅチに逗留した。

セミナリヨを設立するのに丁度いい物件が見つかり、さっそく入学式を行う。リジボーアからはるばる旅してきたオルガンが、ついにここへ据え置かれる。

ニエッキのことではないよ、楽器のオルガンだ。

その界隈はさっそく、音楽広場と化した。

 

さて我々はこれより手分けして、各地方の巡業に向かう。ギフ、ヲアリ、エチゼンなどだ。私はイルマン・コスモを連れて、エチゼンへ赴くことになった。

 

それ以外では、ツノ国の西にあるハリマ国から要請が来た。

昔、サカイで世話になったジョウチンという信徒の息子が出世して、カヅサ軍セト内海方面軍の指揮官をしている。海賊衆の頭領だ。幼い頃ヴィレラより授洗され、霊名はアゴスチニヨ。

アワジ以東の制海権を掌握した一番の功労者だというから、立派なものだ。

その彼から、部下たちを洗礼してほしいとの要請で、可能であればイルマン・ロレンソをという注文だった。

ロレンソはもう老人だし、最近は聴覚も衰えてきているが、あの子になら会いたいと本人も言うので、イルマンと従僕をゾロゾロと引き連れさせて、行ってもらった。

 

私はビワ湖を東回りに北上して、4日がかりでエチゼンへ着いた。

エチゼンといえばシバタ殿の管轄地で、ジュスト殿の父君が追放されたところだ。

 

さっそく訪問をした。事前に聞いてはいたことなのだが、かつてダリオという名だったその人は、棄教したのだ。

今は、ゼン宗に堕ちた。息子に裏切られた形になってアラキの下で孫たちと不安の日々を過ごすうち、悪魔に忍びこまれたのだろうと察しはするが、残念なことである。

お孫さんたちは信徒を貫いているので、あなたがパライゾへ行けない以上、二度と会うことは叶うまい。

だからなんとか復帰をさせたがったのだが、穏やかな笑顔で、御無用、と言われた。

こうなると、どうしようもない。

でも、あなたが困っていなさそうなことは、ジュスト殿に私の口から伝えます。そう約束をした。そんなことしか、できないけどね。

 

エチゼンに信徒がいない訳ではない。

イコ宗徒を皆殺しにしたあと、この地に移り住んできた者は大勢いるが、デウスの信徒もその一角を有するのだ。

ただ少数派にはちがいない。シバタ殿は、邪宗徒たちから不当な圧迫を受けぬよう、よく治安維持につとめてくれるが、本人は領国内最大勢力であるところのゼン宗に属することを余儀なくされている。

未だイコ衆残党は根深くこの地方に潜伏しているから、ここでゼン宗の力を弱めるわけにはいかないのである。

 

シバタ殿の家臣に、リアンという信徒がいる。

彼の邸に居候した。町のあちこちも、案内してもらった。

エチゼンといえば、耳や鼻を削がれた夥しい死体の山を思い出すものだが、その面影もきれいに片付けられ、賑やかな町になっている。それでも、今でも獣肉や魚を食べられない住民は多いらしく、食材の制限にことのほか厳しいゼン宗がはびこる一因となっている。そんな説明だった。

もったいないことだが、なるほどと思う。

ゼン宗にも2派あって、岩のように黙りこむソート派と、やたら議論をふっかけたがるリンザイ派にわかれる。エチゼンでは特にこのリンザイから絡まれて辟易した。

口喧嘩はコスモに任せっきりにしていたが、連日の舌戦で彼は咽喉を腫らし、熱まで出した。まったく難儀な土地だ。

 

「パードレ……今日、トマスの話を聞いてきました。トマス、覚えてますか?」

 

ん?トマス?どのトマスだ?

 

「サカイの商人だったトマスです。私をミヤコから家出させてくれて、カブラルと衝突してデウスを辞めた、あのトマス」

 

ああ……ずいぶん懐かしい話だな。そういえば、エチゼンの食べ物が大好きだったな、彼は。

 

「そのトマス、最近まで生きていたらしいですよ。この辺で」

 

え?……本当に、あのトマスかい?

 

「左腕に、コンパニヤの紋章を刺青していたそうです。背丈も、このくらいとか。間違いないでしょう」

 

……そのようだな。最近まで、ということは、死んだのか。

 

「山賊団の親分をしていたようです。腕力ありましたからね。狙うのは、ゼン宗でもデウスでも、特にこだわってなかったようですが。刺青のせいで、デウス天狗と呼ばれてたみたいです」

 

なんということだ。あの、恥さらしめ。

 

「最期は、山小屋で殺されていたと聞きました。お尋ね者だったので役人も動いたようです。そっちから、何か話を聞いてませんか?」

 

いや。初耳だ。もしかして私に気を遣って伏せてくれているのかもしれないが。明日、リアンに訊いてみよう。

 

リアンは、噂程度にしか知らなかったようだが、わざわざ政庁で調べてくれた。

最終報告としては、以下のような検断だ。

 

山賊団の中で、内輪揉めがあったと思われる。根城にしていた山小屋のひとつでトマスは酒を飲み、女を抱いた。

薬が入っていて、体の自由を奪われたようだ。それでも何人かと格闘して、体中を何箇所も刺され、絶命する。

死体はひとつだけ。発見した木樵が、役人へ通報した。デウス天狗殺人事件、これにて終着。

 

数奇な人生を歩んだものだな。君は、どうあがいてもパライゾへは行けないが、おそらくインヘルノで楽しく暴れ回っていることだろう。

そちらの方が、ずっと君にはふさわしい生き方なんじゃないかな。あらためてそう思う。

さようなら、トマスだった男よ。

 

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