日本の家は木と紙でできているから、よく燃える。
そんな家の中で、火を絶やせない。
冬の寒さに耐えられる構造ではないのだ。
コエリュは炎を好む。日本式暖炉に手をかざし、いつまでも動こうとしない。
本人は御主と語らってるつもりなのだそうだ。まるで坊主の言い草だ。
私は今日も外を走り回ってきたので熱い。雪の中に体をうずめて、ほてりを鎮めるひとときを唯一の安らぎとする。
疲れてそのまま眠ったら、マルチルと認めてもらえるのだろうか。
無理だな。むしろ自殺行為と判断される。パライゾへの門がそんな楽に開いてたまるか。
コチノスから半レグワほどの海際に、岩だらけの小島がある。
朽ちた庵がてっぺんに建っているが、人は住んでいない。
以前からここが話題にのぼっていた。コエリュが、行ってみようと言い出した。
イルマンを2人ほど連れて、小舟に乗って行ってきた。汗をかくのは私たち。コエリュはここでも寒い寒いと言いながら、櫂に触れようともしない。
何様だ。
さすがの布教長様だ。
庵にひと気がないことをたしかめてから、タタミをひっぺがす。
洞窟への入口が見つかった。
松明を手に、おそるおそる潜りこむ。
中はかなり広く、奥行きは8ブラサもあったろうか。
祭壇がつくられていた。中で組み立てたものと思われる。ずいぶん凝った仕事だ。
坊主ならずとも、日本人は細かい手仕事が大好きで、放っておくといつまでもどこまでも、のめり込み続ける。
顔を三つも四つも付けて、腕を何十本何百本と生やした仏像が、星の数ほどつくられるのも、こうした日本人の、限度を知らず、調和も求めず、余計なことばかりしていないと気のすまない病的傾向ゆえの所産なのだ。
ぽき、ぽき、ぽきと折ってやる。
身軽にして、外へ持ち出し、舟に積む。
これだけあれば、春まで薪には困らないでしょう。まだ残ってるぶんは来冬また取りに来ましょう。
アリマへ来ています。当分ここに、落ち着くつもり。
ナンガサキから来てみると、静かで、ひなびていて、ほどよい田舎町が点在している様子。
日本初のセミナリヨはここにつくられた。アヅチの方を先に見てきたからアリマ・セミナリヨは雰囲気もゆるく授業の進みものろいと感じたが、そこはやむを得まい。
ただ、同じだけの年月を重ねた双方の卒業生の間にはそれなりの差が開くことを理解しておかねばならない。
不用意に同じ扱いをしては、ぎくしゃくした関係が生まれかねないことを、私は今から危惧している。
そんなことを考えようとすらしないのだろうコエリュは、子供たち相手に長々とポルトガル語で説教を行い、私はそれを、自分自身も眠気と戦いながら適当に通訳した。
殺意は日に日に肥大していくばかりなのだが、どこに埋めたらよいものやら。
終始一緒にいる私に最初の疑いがかかるのは確実だからな。巡察師やパードレ・メシヤをも納得させるような筋書きが必要なのだ。御主はご理解していただけると思っているのだけれども。
もちろんコエリュとパライゾで再会したくはないから、道を踏み外させた上でご退場いただく流れをつくらなくてはならない。
難題だが、私の全身全霊を懸けて物語を創作しよう。私になら、できる。そう信じて。
アリマ王ドン・プロタジオへ表敬訪問した。
彼は心より我々コンパニヤへ心服しており、スコやサツマへもデウスの教えを聴くように説得を続けようと宣言してくれている。
ここまで言う領主は、なかなかいない。
ドン・プロタジオの考えでは、一国が武力によるシモ統一をしたのちにデウスの教えを広めるよりも、スコやサツマが博愛精神を受け入れ平和の尊さに気付いてくれれば諸侯乱立の状態でも安定化が可能だというのである。
その発想はなかったな。
ただ、それを主張するには外国からの動的静的圧迫に対し国境を徹底的に防衛する力がなくては対等な話し合いにすら持ち込めない、とも言う。
国境を越えてまで報復する力は不要。しかし隣国が全力で襲いかかってきても水際で耐え抜ける力を持っていることは誇示し続けなくてはならない。
それを証明することで相手はやっと、こちらの要求を聞こうとする姿勢を見せるのだと。
スコは一旦アリマからは退いた。次はサツマにそれを教える番だ。
そのための支援をよろしくと、お願いされた。
フム。あれ?コエリュ、聞いてましたか。軍事支援を求められてますよ。これは布教長が承認し限度額を決めてくれないと進められない案件ですよ。
私は二度、ポルトガル語でコエリュに説明した。呆けていやがる。
「そうだね。平和が一番だね」なんて、犬も食わない訓話を垂れる。埒が明かないので、私の一存で話を進めた。
ナンガサキとアリマの競争心を考えると、予算を融通し合うことは難しいだろう。アリマ領には独自の財源が必要だ。
今年の夏は、定航船を確実にアリマへも回します。布教長権限でお約束します。そう答えておいた。
「定航船は有難いが、最近増えてきた密貿易船についても何らかの対策をとれないものでしょうか。スコはこの点楽でしたがサツマ相手となると、かれらを支援する勢力をいかに封じるかが重要な課題となります。
外洋のことゆえ、これはパードレ殿にしか頼れない事案ですので」
痛いところを突かれた。
実は何年も前から、ポルトガル王室直隷の定航船団以外でチイナから直接日本へ渡航し商売をして帰っていく連中の存在が、問題となっていた。
かれらは定航船団と同じ領域で争うことを避けるから、フィラド、ゴトウ、それからサツマなどを相手にしていると思われる。
初期は、突然現れて次はいつ来るかも不明な流れ者だったし商品も船員も質が悪く、コンパニヤのように仲介する存在もいなかったからさしたる脅威でもなかった。
しかし最近は、そろそろ本腰を入れてどうにかしなければいけない状況だ。
フィラドのサンチェスに、過去の密貿易船入港についての記録を照会しよう。
ゴトウには今パードレはいないはずだ。破壊されたファカタにも来ていた可能性はある。いまアリマ・セミナリヨの校長に就いているモウラはファカタに駐在していたことがあるから、戻ったら直接尋ねよう。
さて最大の疑惑対象地サツマの情報は、いかにして入手したらよいか。
アマクサ島へ誰か派遣して、アルメイダから教えてもらうのが一番かも。
サツマは我々に決して手の内を明かさない。その徹底ぶりはさんざん思い知っている。証拠なんて掴ませないだろう。だからアルメイダの推理が必要なんだ。
私がそんなことを必死で考えている間、コエリュは出された食事を平らげ、遠慮も無しにお茶のお代わりを求めていた。
布教長とは、なんとお気楽な役職であることか。
これではまるで頭と腕を全部もいだ、あの仏像にだって勤まる仕事ではないか。