戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1582/004.hmos

私はとうとう倒れた。

熱にうなされ、嘔吐と下痢を繰り返す。

どろどろに煮詰めたコメの汁にベゾアル石の粉末を溶かして口に入れてもらい、時間をかけて呑みこむ。

そんな状態が、幾昼夜も続いた。

 

眠ることは眠れた。ぐっすりと。深い眠りだった。

夢すらも見ない。それは、ある種の幸福だった。

ああ幸福だったとも。

 

起きると仕事が山積みだった。

コエリュは何ひとつそれに手をつけず、ただ私のために毎日祈っていたと恩だけを着せるのだった。

いいもの食べてきたせいか、布教長の肌は艶々している。

 

大事をとってもう一日休ませてもらった。

とはいえ仕事が気になる。

イルマンに読み上げてもらって、緊急度によって仕分けをし、簡単な用件は指示をした。

そのくらいのことすらできない布教長に、この疫病を感染してやりたい。

 

悪い風邪が、流行っているのである。

各地で同じ症状の病人が出ている。カブラルが罹ったのも、これだったのかもしれない。

エウロパでは黒死病が時折あらわれるが、あそこまでひどくはないとはいえ、大いに警戒すべきである。

 

そんなこんなで復活祭には参加できなかった。

大いに盛り上がってくれたかな。ウスキではドン・フランシスコが盛大なヂシピリナを取り仕切ったそうだ。ナンガサキでは出店がひしめきあい、名物と化している殴り合いも毎日あちらこちらで始まり、人はサケを飲みながら賭けに興じる。相も変わらぬ騒々しさだったという。

 

それらに比べると、アリマは静かで落ち着いた復活祭だった。

コエリュは毎日一軒ずつ、坊主の邸やテラを選んで襲撃させ、火を放って信徒たちと眺めて楽しんだ。オオムラ駐在の頃から毎年やってる恒例行事らしい。

ナンガサキにはテラが無いからできないので、それで拠点を移したがったのかもしれない。

 

コエリュは私が寝込む前に、スコ領イマリから上機嫌で帰ってきて、歓待してもらった手前パードレを派遣せねばならないが誰にしたらよいか、と訊いてきた。

私は開いた口が塞がらず、おまえが帰ってくる必要なかったのにと声にならない声を吐いた。

その話はウヤムヤのままになっているが、直後、アキ国の王と、ブゼン国アキヅキの領主からも、宣教使派遣の要請がきていることは、気にしなくてはならないな。

こいつら、連携し合ってないか?スコも含めてだ。

 

アキ国は言うに及ばずカヅサ殿の大敵であり、元クボウや大悪党アラキを匿っている、犯罪人の駆け込み所帯である。

過ちを恥じて白旗を掲げ、全身に巣くう膿を絞り出してから我々に教えを乞うならともかく、今この段階で興味を持たれても迷惑千万。派遣した宣教師が捕らえられれば人質とされ、征伐の障害となりかねない。

カヅサ殿ならたとえ私が人質にされていても構わず鉄炮隊で蜂の巣にせよと命じるだろうが、そんな形で生涯を閉じるのは、さすがにまっぴらというものだ。

 

アキヅキについては、私も忘れかけていたので、記憶を整理しよう。

ブンゴの北に位置するブゼン国の一領主である。かつてはブンゴの傘下にあり、ヒュウガ攻めでも軍勢と物資を拠出した。

78年の大敗北でブンゴ国が弱体化した際、反旗を翻す。距離の近さもあり、大きな脅威となった。

ヨシムネ公にとっては汚名返上の機会ともなったこの戦闘は、軍師チカヒロ殿の死という波瀾も乗り越えながら、80年いっぱいかけてブンゴの大勝利で幕を閉じる。

 

ところでこの戦い、アキヅキ領主が起こした反乱だと私は認識していたのだが、最終的には主犯とされた泡沫領主何人かが処分されただけのようだ。

アキヅキをまとめていた領主は引き続きブンゴ王に忠誠を誓い、現職にとどまる。この男が今回、宣教師を要請しているわけだ。ブンゴ王ヨシムネ公の凜々しい戦いぶりを見て、デウスの力に目覚めたのかもしれない。あるいはヨシムネ公から直接、デウスについて聞いたのやも知れぬ。

ヨシムネ公が再び教会を訪うてくれるにはまだ時間がかかりそうだが、アキヅキ殿がその架け橋となってくれるならば、という期待には賭けてみたいところである。

 

以上は、最も楽天的な希望的観測に基づいた私の感想だ。

最悪も想定しよう。

アキヅキ領は、宿敵チカカタ及びドン・フランシスコの前妻であるナタ、両名の出身地でもある。代々、カミ宗の巣窟だ。

仮に領主ひとりが進歩的で計算高い人物だったとしても、家臣や民衆たちの教化には困難が予想されるだろう。

我々はすでにチカカタとナタのあまりにもしつこい偏執狂的イヤガラセと妨害工作にさらされ疲れている。そんな敵地に誰かを派遣するとなれば、布教長を放りこんで様子を見てみるくらいが妥当なところだ。

 

スコだって、怪しいのである。飽くなき覇権欲に満ち、ドン・バルトロメウの子供たちを人質にとり、ファカタを壊滅させ、今も次の手をたくらんでいるはずの大王は、まだ中央にいるのだぞ。

イマリで布教を始めるのはいいが、今はまだ早すぎる。それに、同じような文面で次々と依頼が舞いこむ不気味さに最大限の警戒をもって対応することは、部下の安全と組織の財産を預かる責任者として、一瞬たりと忘れてはならない大原則ではありませんか?

頭の片隅にでも、そんな意識が、おありですか?

 

こんなところで休んでいる時間が惜しいと逸る気持ちと、そうはいっても起きてやる仕事といったら豚に説明してどれだけ妥協してでもとにかく裁決をもらうことなんだよなあという絶望感が、私の火照りを冷まさせてくれない。

 

まあいいや。今夜一晩だけ、もう一晩だけ、休ませてもらおう。

今の私に冷静な説得なんて無理だし、完全犯罪なんて、それこそ冷静でないときにやってはいけない。

 

夜更け、話し声が聞こえてきた。

今夜は北西の空に彗星が見えたそうだ。

まっすぐに落ちていったという。なんだか今年は、空が騒がしいな。

御主は私たちに、いったい何を伝えようとしているのだろうか。

 

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