戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1582/005.hmos

ミゲル・ヴァスが旅立った。

ナンガサキの住院で9日間熱にうなされ、痩せ衰え、最期は眠るように息をひきとったという。

 

私に憧れて、聖職者になったと言っていた。

アマカウで出会ったときから、齢が十も離れているとは思えないほど気が合った。私以上に真顔で冗談を言う男で、上司だろうが取引先だろうが、おちょくらずにはいられない。冗談が通じない相手の前では徹底して仮面をかぶる。

もしかして同じ父親から生まれたのかとさえ疑ったこともある。私の父親はしがない官吏の従僕だが、ミゲルの父は陽気な船乗りだったらしい。

 

ミゲルはコチンで生まれた。メスティーソだった。何年も定航船で働いていたから、日本に詳しかった。

私は日本で、燃えさかる家から信徒たちを救い出し、気絶した。その私を船へ連れ帰って介抱してくれたのが、ミゲルだ。

それが彼の運命の転機となった。

今更ながら責任を感じる。

あんな度胸、今の私にはとても無いし、さすがにあの時は、自分でもどうかしていたと思うのだ。

私の部下が望んでマルチルになってくれるのは構わないし、むしろそう仕向けていきたいが、冷静に考えて、どうして他人のために私が痛い目に遭う義理があろう。

 

私は一日でも長く生きて悲喜こもごもな人間たちのおかしみを目に焼き付け、そして地上でもパライゾへ着いてからでも、この目で見てきたよしなしごとを愉快に喋り倒せるおじいちゃんとして群衆の注目を浴び続けたいのだ。

 

ミゲルはしかし、コンパニヤに入ってすぐ、気付いたと思う。

つまらん階級社会ですよここは。

義務と制約の厳しさは一般信徒の比ではなく、常にお互いが監視し合ってる。

一番恐いのは、この仕事を辞めるには死か破門しかないという、逃げ道の無さ。

隠居もできない。死ぬまで働くしかない。

割に合わないどころじゃない。夢も希望もないんだよ。

だから諦めて粛々と、御主に目をつけられないよう注意しながら、日々を遣り繰りするしかないのさ。

自由の尊さってものをほんと思い知ります。

奪われて初めて気付く、ありがたみ。

 

それにしても、厄介な疫病が、シモ中に蔓延していることが確実となった。

これ以上流行らないでほしいものだが。私はなんとか持ち直して、職務に復帰している。コエリュが罹患をおそれて近寄ってこないのが救いだ。

 

他の人間には感染させたくないから部屋に籠もって書類仕事に専念しています。

今日はセスペデスからの書翰も届いた。ミヤコの上長カリオンに命じられて、ギフまで出張してきたらしい。

ニエッキたちが頼りにならないからって、働かされすぎてないか。

あまり仕事に有能であることを見せない方がいいぞ。白豚みたいに本物の無能では困るが、知恵を使ってうまく立ち回れよ。

もしかすると、常に注目されないでいるステファノーニはこの点、きわめてしたたかなのかもしれない。探りを入れてみる必要があるかもな。

 

セスペデスによるとアキ国は敗走を重ねており、かなり余裕を失っている。

カヅサ殿がミヤコで広めている噂をそのまま引用するだけではなく、裏付けも具体的に調べているのが、さすがだ。

戦術は最近、包囲戦が主流になってきているらしい。カヅサ軍が侵攻すると、アキ軍は城に立て籠もって防衛する。

どこから入手しているものか、アキ軍は大量の鉄炮を保有しており、これに突っ込んでいけば相当の犠牲が出る。そこで城を囲み、補給を遮断して敵の持久力を奪い、降伏を勧告する。

オーザカの城ほど巨大であればこれも難しい作戦だが、そこまで手強い城はアキ国にはほとんど無い。

 

この包囲戦自体も回を重ねるにつれて様々な改良が加えられていき、頑丈な柵を構築して監視の兵を少なくできたりとか、地形によっては山からの水路を誘導して城を水没させたりとか、敵を屈服させるまでの時間をどんどん短縮させていってるという。

それでも城の多くは限界まで降伏せず、開城する頃には中の兵たちは痩せ衰えており、水を一杯飲んだら笑顔でこときれるとか、そんな実態ではあるみたいだけど。

捕虜にするのも管理が大変だから、手間が省けていいじゃないか。

なによりカヅサ軍の戦力は温存されているので、すぐ次の攻略にとりかかれる。こうして、時間は多少かかるものの、アキ王とそれにぶらさがっている小悪党どもは、じりじりと追いつめられているということだ。

 

これではますますもって、デウスの教えを拝聴したいなどというアキ国の口車に乗るわけにはいかないな。

 

行ってみなければわからないじゃないか、と白豚は呑気に言うけれども、だから真っ先におまえ一人で行ってこい。

何年かして見違えるほど身軽になってから再会できたら、思い出してやる。

 

アゴスチニヨの海軍も着々とセト内海の島々を占領している。

その土地の田畑と固く結びついている農民と違い、海と暮らす漁師たちには、流れに身を委ねる生き方と、困ったときは誰とでも援け合うという、独特の信念があるものらしい。

サカイ生まれのアゴスチニヨはこの機微をよく心得ており、戦うよりも説得によって、敵だった島々を味方に塗り替えるという戦術をとっている。

わかりあえぬ場合は容赦なく叩きのめすが、その強さも圧倒的であるらしい。

なんとも、頼もしい武将になったものよ。

 

内海の南を囲う、キナイから見ればアワの島。ここでは、ちょっとした笑い話が起きた。

 

アワも最近はトサ国の圧力にさらされていて、かつてのミヨシ一族がいよいよ、その命運を絶やそうとしている。

助けを求めるとしたら、カヅサ殿か?アキ王か?

しかしどちらも、こんな弱小国など相手にしている余裕は無い。この宙ぶらりん領国に、手を差しのべる者がいた。

アキ国内の、和平派だ。

 

かれらはなんとかカヅサ殿との停戦交渉を進めたいと、アワ国を間に立てて画策をした。

アワ国はカヅサ軍筆頭家臣のコレトウ殿へ接触を図り、この交渉はある程度まで進んでいたらしい。

しかし、決裂した。

 

アワ国は我が身だけが大事だったし、アキ国和平派も停戦後に自分たちの生活が保障されることしか望んでなかったのだ。

カヅサ殿は、国を治めることの基本すら理解していないこんな連中と付き合ってどれほどの時間を無駄にしたかと、コレトウ殿を叱責した。サカモト城を取り上げて放逐するかもよ、と噂されるくらいの権幕だったみたいである。

ああ、サクマ殿を追放した例もあったしね。

 

そろそろサクマ殿を復帰させてもいい頃合いかな。だから、コレトウ殿と交代させてサクマ殿にサカモト城を与える展開も、ありえますね。

 

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