戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1582/010.hmos

エウロパは広い、広い大陸だ。

その最西端に位置するポルトガル王国。

大海原は、我々の庭だった。私だって、陽の沈む先に待ち受ける冒険の数々を夢見て大きくなった。

 

偉大なるレックス・エンリケスが数々の戦いに勝利し、ポルトガル王国を樹立して400年。

王室は数えきれぬほど多くの勇者をリジボーアから送り出し、世界の形を正確に記録し、それまで人類が見たこともなかった動物や植物などを持ち帰った。そのうちの、目と耳を持ち、言葉を解するものには福音を授けた。

地上にあまねく光を届ける。

この大事業に最も貢献したのが、われらポルトガル王国である。

 

ポルトガルを含むイベリヤ半島の中央域には、カスティリヤ、ガリシヤ、アラゴンなどの諸民族がひしめいていたが、互いに争っているうち、モーロ人の侵入をゆるした。

ポルトガル人も戦ったが、イベリヤの大半が占領されていた時代もある。これがようやく失地回復を果たしたのは、私が祖国を離れたあとのことだ。

カスティリヤが最大勢力のはずだが、今はどうなっているのかわからないから、かれらをまとめてイスパニヤ人による連合王国と呼ぶ。ポルトガルとイスパニヤは、敵対関係にはなかった。建国時、教皇猊下の承認をもって定められた国境は紳士的に維持されていたし、王家どうしも深い血縁関係を重ねていた。

ただ、一般的にポルトガル人はイスパニヤ人の気性の荒さを苦手とするし、モーロ人との戦争が終わったとなると、国土が何倍も広いイスパニヤの方が力をつけるのは当然のことであっただろう。

 

1578年。

まだ二十代だったという、ポルトガル王ドン・セバスティアンが、アフリカに出征して戦死した。

王位が空白になり、後継者が決まらなかったため、叔父の枢機卿がひとまず玉座に就く。だが2年も経たず、老衰で亡くなる。それから半年。王家の血を継ぐ者同士が醜い争いに明け暮れた。

勝利したのは、間違いなくポルトガル王家の血も継いでいる、イスパニヤ王だった。

こうしてポルトガルはイスパニヤ連合王国に併合されることとなる。

 

侵略されたとか、支配されるとか、そんな血生臭い悲劇ではない。むしろポルトガルが自力で国政を建て直すことができず、王権を手放す結果を自ら招いたという、なさけない顛末だった。

私は、深く脱力する。

ミヨシ一族のような長引き方をしなかったのは救いだが、もっと、どうにかならなかったものか。世界に冠たる、第一走者ポルトガル。そんな風に誇ることが、もはや躊躇われてしまうのだ。

太陽は沈んでしまった。

 

報告には、トルデシーリャス条約の修正も再検討されているとの記述があった。今から90年ほど前に、ポルトガルとイスパニヤの間で結ばれていた、世界分割協定だ。

要点だけ抜き出せば、ヴェルデ岬より西370レグワの子午線を境界として、東はポルトガルの土地、西はイスパニヤの土地であると定めたものである。

これゆえに日本はポルトガル領であり、交易も布教も、ポルトガル独占市場だった。

 

我々イエズス・コンパニヤはパリで旗揚げされ、ラウマに本部を置く国際色豊かな修道会であるが、発足時よりポルトガル王室と深い結びつきを有していたので、インディア管区全域を通して排他的に活動することができていたわけだ。これまでは。

条約が修正、最悪撤廃されるとなると、今後ポルトガル人以外の諸勢力が勝手に日本へ上陸する可能性も出てくる。修道会だけではなく、商人もだし、軍隊もだ。

アマカウから来る密貿易船団への対抗策すらままならないのに、更に商売敵が増えるのは、大打撃。致命傷どころか即死をくらう。

 

巡察団が去った途端、あまりにも一度に、これほどの最悪が群れをなして襲いかかってくるとは。

これが夢でなくて何なのだろう。感情一つ湧いてこない。この悪夢の出口はどこだ。どうすれば目覚められるのだ。

なるほど。心弱き者は、ここであっさり挫けるよね。

それが悪魔どもの手口か。

ルシヘルよ。あいにく私はパードレだ。この程度でインヘルノへ堕ちてやるわけにはいかない。

あがいてやる。あがきぬいてやる。

ああしかし、具体的にはどうしたらよいものかねえ。

 

アヅチ・セミナリヨの少年たちが、タカツキへ避難してきた。全員、無事だ。セスペデスからの通信による。詳細は追って、ニエッキとステファノーニが書くだろうと言っている。

あの劣等生コンビが、書くものか。

セスペデス、君が聞き出して、君が書いて送ってくれ。すぐ、そう返事を書いて送った。

ともあれ子供たちに危害が及ばなかったのは喜ばしい。

 

ヲアリでの会議については、様々な噂が飛び交っている。

旧家臣のうち4名ほどにしか参加を認めず、それ以外は難癖をつけて締め出した。その数名の出席者がバラバラに声明を発表。互いに相手の態度を烈しく罵り合っており、さらに尾鰭がついていく泥仕合。

もとよりカヅサ殿の遺児たちが誰一人、参加を許されていないという。

主君への忠誠はどこへ行った。

醜すぎる争いなどしている場合か。そのうち全員、アキ王に倒されてしまうぞ。

 

最大の火花は、シバタ殿とハシバの間で飛び散っている模様。

とくにハシバの舌鋒が過激を極めていて、ミヤコ・タカツキ・サカイほか各地で檄文をばらまき、シバタ殿をコレトウよりひどい卑劣漢だと断罪している。

何をトチ狂っているのか。

セスペデスへは、サクマ殿の消息も聞いておいたが、どうやらこの春、追放された状態のまま急死していたようである。せつない。コレトウと交代させるという可能性は、つまり、無かったわけか。

とはいっても、コレトウが謀反をやらかす可能性が少しでも下がっていたわけでもないか……

 

眠っていた。

机から顔を上げると、脇に、タバコが一本、置いてあった。カブラルが来ていたみたいだ。

彼はこの夏、コチノスとナンガサキを何度も往復して、ずっと私をたすけてくれた。地元の親分衆と話をつけてくれ、適切な量の賄賂を払ってくれ、かれらの巧妙なイカサマを暴いてくれ、いかに競りを盛り上げるかまで教えてくれた。さすがだった。

「あと十年は修練が必要だな」なんて言われたけれど。商売人相手の、胴元の端くれとして、私はやっと彼から認めてもらえたみたいだ。

ありがとうございます。来年は、ひとりでもうちょっとうまくやってみせます。

 

煙を喫いこむ。

最近ようやく、これを旨いと感じられるようになった。でも、高いんだよな。

私にはまだまだ、過ぎた贅沢品だ。

 

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