戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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ミヤコの政変は、当日午後にはアヅチへ伝わった。

 

カヅサ軍の留守部隊が、ただちにサカモト城へ通ずる橋を破壊してコレトウ軍の到着を遅らせたものの、大軍が向かってきているという噂はアヅチ市民を震えあがらせた。

港は避難民で溢れかえり、小舟は人を積み過ぎて何艘も転覆した。

そんな中、信徒である有力者が、セミナリヨの子供たちをまとめて乗せていってあげようと申し出てくれた。

ニエッキは感謝し、祭具を担いで、自分たちも乗りこんだ。

 

ビワ湖の中には、いくつもの小島が浮かんでいる。舟はそのひとつに停泊した。

目付きの悪い男どもが現れ、荷物を舟から運び出しはじめた。子供たちと大人たちは、このあとそれぞれ別の島で降ろすという。

おかしいぞ、とニエッキは気付く。

押し問答がはじまる。

自分たちに従えないならカネだけ払え、と法外な要求をされる。

 

子供たちは誰一人泣きもせず、盗賊たちを睨みつけ、ついにはかれらを根負けさせたが、それでも70クルザード支払って、解放された。

その小島で、原始人のような生活をした。

大雨も降り、ひもじくてたまらなかったが、皆よく耐えた。

町と城が燃えているのが見えた。

 

さらに数日して、漁民が通りかかり、救助される。

息を潜めながら信徒の家を転々とする。

最終的に、タカツキへ辿りついた。

 

以上、セスペデスの代筆による。

70クルザードも支払って、何が根負けさせただ。セスペデスも、ここで同じ失望を味わったと思う。ペンが折れた跡がある。

 

巡察師がいた間のような無駄づかいはできないのだぞ、もう。

まして今年は、莫大な借金まみれだ。もっと布教区を背負っている自覚を持ってもらわなければ困るんだぞ、ニエッキもステファノーニも。

 

タカツキ市民もまた、激動の只中にある。

ジュスト殿はハシバと同盟を結んだので、シバタ軍の襲撃を受ける可能性がある。長引けば、アキ軍からも攻め入られるだろう。

アキ国から見れば、カヅサ殿の家臣たちが潰し合ってくれている現状は願ってもない好機であるから、しばらくは動かないと思う。態勢を立て直す時間も欲しいはずだからな。

水面下では元クボウやアラキも何かを画策しているに違いないから、最大限の警戒は一刻もなおざりにできない。

長引く混乱は敵を調子づかせ、付けいる隙を広げるだけだ。早く結着してほしい。

 

カヅサ領国の次期当主であるが、これがおかしなことになっている。

殺されたノフタタ殿の3歳の息子、サンポウ殿を擁立することがほぼ確定という。もちろん成人するまでは幼王を背後から補佐する摂政が必要で、実権はこいつらが握る。その座を狙っている者が、これから決まるというわけだ。

 

しかしこの体制では、カヅサ殿が常に先頭に立って行ってきた躍動的な政治は期待できない。

ずる賢い者ほど利益を得やすい構造だ。カヅサ殿は生涯かけて、それを破壊してきたのではなかったか。なぜ戻す。

背景は想像がつく。

ノフカツ殿とサンシチ殿。どちらかをシバタ殿が、もう一方をハシバが味方につけたのだろう。

密室内ではさぞやひどい醜態がさらされたことと思われる。

妥協の産物として、カヅサ殿の孫が選ばれた。さて、これからノフカツ殿とサンシチ殿が、血みどろの代理戦争を演じなければならないのか。

返すがえすも、こんな事態を招いたコレトウ。おまえを憎む。

 

私としては、シバタ殿により深く愛着を持つが、コンパニヤとしては、ハシバを応援せざるを得ない。

ジュスト殿が味方についたことも大きいが、それに対抗してかシバタ殿はゼン宗との結びつきを深めた。

シバタ殿の領地に、デウス信徒は数えるほどしかいない。いやそれ以前に、抱えている版図の広さで両者には既に圧倒的な差がついている。

 

カヅサ殿の死直前までは、シバタ殿はエチゼン国まるごとを領有し、カンガ国の治安回復とその支配も任されていた。片や、ハシバはナンガハマ一城を与えられたのみで、統治するより戦場を駆けずり回ってばかりの現場専門職に過ぎなかった。

これが一転する。

セスペデスが耳にしただけでも、ハシバは休む間もなくキナイ中を動き回ってシバタ殿の悪口を広め、一方でシバタ殿はエチゼンから動こうとしない。

民衆のハシバ人気も日増しに高まり、コレトウ討伐の大活躍譚を語る講談師の巡業が各地で大賑わいになっているともいう。

 

それらもすべてハシバ陣営の工作だろうとは想像つくが、それにしても行動力が尋常ではない。

すぐに息切れするとは思うが、ハシバに惨めな負けっぷりをさらされるのもそれはそれで困るのだ。我々も、座して結着がつくのをただ眺めているわけにはいかない。

 

セスペデスには、引き続き、各地方各人物についての情報を広範に集めてもらおう。信徒たちがめまぐるしく移動しているほか、邪宗徒だった兵士商人農民でも、それまでの常識を疑うようになって求道者に転じた者が大勢動いているはずだ。

かれらの証言を聴き、疑問点を発露させ、共に考え解決への道を見つけることで、我々の手札は増えるし、誰に投資しておくのがより確実か、見極めをつけやすくなるはずである。

セスペデスとカリオンは、その重要性を理解してくれているはずだ。頼んだぞ。

 

その一方で、私だって複雑な悩みを抱えている。

ジャンクが帰っていくまでに、年次報告書を作成しなければならないのだが、あまりにも激変が起こりすぎた今年の事件簿を、いかにまとめるべきだろうか。

 

私がセスペデスに教えたように、あったことを見たまま聞いたまま加工せず記録して、提出すればよいなら楽なのだ。相互矛盾など、あって当り前。たとえば私とニエッキでは、カヅサ殿の死に対して考えることは真逆の方向へ走るだろう。

ニエッキが報告を書いたとして、ここまで届いたとしても、私がまとめる以上は彼の見解などほとんど採用しない。

そうならざるを得ないのだ。だが一年後には日本がはたしてどうなっているか、全くわからない状況で、私の報告だけが総長に伝わり、それだけが検討されるという事態も好ましくない。

はっきり言う。私はそこまでの責任を背負いたくない。

だから無理にまとめようとはしない前提で、多くの断片をせめて時系列順に並べる程度はしてから送る。

それが一番ありがたいし、私も少々やばい予測だなと思うことまで書けるのだ。

だがそのように言ったとき、巡察師からは頭ごなしに却下された。

 

「食事前の朗読で、1回で読み切れる程度の分量で、わかりやすく、優しく語りかける調子で、子供たちへの教訓を含んだ、そんな年報であるべきだ」

 

そう言われたので、悩むのだ。絶望的に、無理ですよ。

 

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