今年は春が遅い。
雪も溶けないのに、まもなく聖週を迎える。
スコから、面白い情報が届いている。我々に好意的な、第三王子からの通信による。
現在、オオムラ領主ドン・バルトロメウの長男であるサンチョ王子が人質にとられているが、坊主どもに囲まれた敵地の只中にあって、デウスの教えを守り抜き、四旬節に入ってからは断食を規則通り行って、周囲を驚かせているという。
サンチョ王子は坊主たちに、イエズスの御受難についての物語を聴かせる。これがスコ王の耳にも入った。
わしにも聴かせろ、とスコ王は興味を示した。
もちろん、我々の味方であるスコ第三王子の誘導あってこそだ。
かれらの本性である邪智暴虐が改まることまで期待はしないが、これ以上の侵略行為に歯止めをかけさせ、シモの戦乱を何割か減らせるならば、大いに結構。
イマリに教会を建設する計画も、具体的に進展するだろう。
南の強敵サツマは相変わらず隙を見せない。
パードレの召喚要請は四六時中来ていて、我々も派遣はするのだが、常に役人に監視されつづけ、指定された地区以外に移動できない。
住民も、たっぷり言い含められた者たちが求道の熱意だけは見せるが、どうにも空々しく、悪い意味で統制がゆき届きすぎている印象しか受けないのだと、戻ってきた者は言う。
危険すぎる賢さだ。
領土を広げる際も、サツマは調略を用いる。
武力に依存し手に入れねば焼き払うスコとは対照的で、静かに乗っ取ることを信条としているかのような不気味な手を使う。
イコ宗のように歪んだ教義を押しつけて住民を先導するような極端さとも違っていて、その正体が掴みにくい。
対サツマ戦は、これまでの経験則が役に立たない、まったく新しい戦争となるものなのかもしれない。
ヒュウガ国での大逆転は、サツマにとっても貴重な成功体験のはずだ。
武力もしっかり持ち合わせている。だが、それを使ってこようとしない。
ブンゴ国の混乱と内戦に乗じて一気に攻めこんでくることも可能だったのに、しなかった。それでいて、まったく違うやり口で現在はオオスミ、ヒュウガ、ヒゴまで支配下におさめ、シモ島における最大領土を独占するまでに成長している。
巡察師は、メステレ・フランシスコ・シャヴィエルが上陸したボウノツに教会を建てることを構想していた。その名はラウマまで伝わっていたからだ。
しかし現状難しいと判断するしかなかった。
アルメイダも、サツマの手強さには最大の警戒を要すると分析する。もっともだ。我々には情報が足りない。いかにして入手するか。これも課題のひとつである。
カミ島では今年の初め、サンシチ殿がハシバに屈した。セスペデスからの報告で知る。
カヅサ殿の幼な孫、サンポウ殿を次期オタ王にと主張したのはハシバだったらしい。既に成人しているノフカツ殿とサンシチ殿はもちろん、ハシバ殿やその他大勢が、猛反対した。
このうちサンシチ殿がギフ城で、打倒ハシバを宣言する。
数日後には、ハシバと、彼に味方するキナイ勢がギフ城を取り囲んだ。
サンシチ殿は降伏し、実母と幼い娘をハシバへ人質として差し出す。
シバタ殿はエチゼンで雪に埋もれていた。ノフカツ殿はヲアリの城にいたが、間に合わなかった模様。
情報はこれだけだが、考えるべき点がいくつも見える。
連携がとれていなかったところから、この蜂起はサンシチ殿の勇み足と思われる。しかも宣言してから、彼は主城を出ていない。
片やハシバは、圧倒的軍勢を瞬時に動かし、雪の中を駆けさせ、結着をつけた。カヅサ殿が得意とした、電光石火ではないか。
ハシバにとってギフ城は、その内部までよく知っている古巣のひとつだ。エチゼン城やヲアリ城だって、知り尽くしているだろう。さらに対アキ戦で、彼は城攻めの経験を磨いた。
ハシバはヤマザキ城をつくったばかりだ。考えるまでもなく、城攻めに耐え抜く技術が総動員されているに違いない。そんな敵に対してサンシチ殿は、どう戦うつもりだったのだろう。
私には、彼が具体的な戦術まで検討していたのかすら、疑わしく感じる。
敵からも、味方からさえ、人質をとっておくことは、ありとあらゆる武将がしているところだが、これについても留意する点がある。
ハシバは特に女性を人質に求める傾向が強いらしいのだが、日本ではかなり珍しいことだ。
普通は、王権を継ぐべき長男が人質にされる。
いくつもの強国に囲まれる領主は、次男も三男も差し出す。いなければ重臣の長男が人質に出される。それでも候補がいなくなって初めて娘が人質とされるが、この場合は嫁入りという形式にするかな。
ともかく一般には女児に人質としての価値は無いと考えるのが日本の常識なのだ。今でも普通に。
ところが、ハシバは娘をくれという。
年齢は重視しないらしい。諸侯にとっては、跡継ぎを奪われるよりは従いやすい。
ハシバの実像を知っていれば尚のこと、おもちゃにされても孕ませられまいという安心もできるだろう。実際、ハシバに養子はいるが、実子はいない。
兄弟やその子供たちに囲まれ同族家臣団を形成してはいるが、中心にいるハシバ自身は、種無しなのだ。
これは彼の特殊さを理解する上で考慮すべき点と思う。
まったく。怪物のような男だな、ハシバは。
私にとっての理想的な展開を述べておこう。
雪が溶けてから、シバタ殿に御出陣願う。オーザカが消滅した今、旧カヅサ軍とアキ国が戦闘を蒸し返す理由は薄いし、前線指揮官だったハシバはアキ軍にとって怨み百倍に価する大敵だろう。
これを口実として、冬の間にシバタ殿とアキ王が同盟を約束してくれていたりすれば、ありがたい。
そして北と西から、ハシバに同時攻撃を仕掛けるのだ。
離反する将が、意外と出てくると思う。ハシバを城には引きこもらせず、うまく追い回して、イズミ国かヤマト国あたりでとどめを刺す。
それより前に、ジュスト殿と、アゴスチニヨには、裏切ってもらっておく。かれらも、カヅサ殿の部下だったからこそ忠誠に励んできたわけで、ハシバに永遠の誓いを立てたわけではないだろう。
説得役は、セスペデスとカリオンに任せよう。
ニエッキは、過去に大失敗をやらかした実績があるから、教えてもやらない。