戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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タカツキのセミナリヨに、昨年、きわめて面白い経歴を持つ青年が入学した。

今年で20歳というから日本ではとっくに成人扱いであるのだが。ただの従僕から始めさせるには惜しい人材だと判断して、ニエッキが迎え入れた。

 

青年はひたすら本を読み、考え、鋭い指摘を加える。

日本語は話し言葉と文書語が全く異なる構文を持つので、長年これが我々の全活動を苦しめていたわけだが、ここにひとつの突破口が現れたというわけだ。

彼がラテン語を習熟し、日本の文献を翻訳してくれるようになれば、いったい坊主どもがどういう思考回路でこんな国民をつくりあげるに至ったのかを解き明かす鍵となるだろう。

セスペデスもこの青年の能力には注目しており、観察日記の分量が回を追うごとに増えてきた。私もそろそろ彼についてまとめておきたくなってきた、というところだ。

 

もと坊主、という出自は珍しいものではない。

彼はカンガ国でゼン宗の教育を受けた。言わずもがな、そこはイコ衆の巣窟だ。カヅサ軍が殲滅して以降、イコ宗徒であることを名乗る者など皆無だが、残党とその感染者はまだまだ夥しく隠れ潜んでいる。笑顔の下に牙を生やし、皮膚の中には黒い血を流し、尻尾の先の毒針で常時獲物を狙っている。

そんな悪魔どもをいかに早く見つけ出し、証拠を押さえて焼き尽くすか。

この困難な使命が、彼を逞しく鍛え上げた。

 

少年は青年へと成長し、イコ衆の行動習性と伝播手段、それに対する防御方法などを熟知するに至ったが、同時にゼン宗への嫌悪感も膨らんでくる。所詮は同じ起源だと。

そこで脱走し、デウスの教えに辿りついた。

ファビアンという霊名を、手に入れた。

 

ファビアンのおかげで、我々はイコ衆がどれほど腐りきった教団であるかを思い知る。

 

シャカから枝分かれした末端のひとつ、イコ衆が旗揚げされたのは260年前だ。妻帯を何人でも認めている。元首は世襲で、現在の頭領は11代目だという。

この仕組みが教団を王族気取りにさせた。

8代目の頃に教団員たちがカンガ国を乗っ取り、莫大な財政基盤を得る。ミヤコからオーザカへ本拠地を移転し、完全武装化していったのは10代目。50年前のことだそうだ。

その息子が、よりにもよってカヅサ殿に、弓を引く。

数え切れないほどカヅサ殿に降伏し、同じ数だけ裏切った11代目を、なぜいつまでも生かし続けておくのですかと、私は何度も言ったものだ。

クゲも、ダイリも、元クボウだって。今もかれらはのうのうと生きており、カヅサ殿は死んだ。この矛盾に、私はまだ整理をつけられないでいる。

機会があればファビアンにも、意見を求めてみたいものだ。

 

ファビアンは現在もイコ衆およびゼン宗の動向に目を光らせており、その情報を探る手段を持っている。

 

たとえば今年の初め。11代目はイズミ国の隠れ家からお伴を率いてミヤコまで出てきて、あちこち観光を楽しんで、ひと月ほど遊んで帰ったらしい。有力な信者と会ったり、要人との会談など政治工作も兼ねての巡業だったろうとは察せられるが、カヅサ殿がいなくなった以上は、と事あるごとに吹聴しながら散在して回ったという件りには、憤りが湧きあがってたまらない。

 

イコ衆は本拠地オーザカを逐われたが、反省などしないまま各地へ逃散、潜伏しているだけなので、むしろこれまで以上に炙り出しと駆除の対策が重要だとファビアンは言う。もっともだ。

ただし頭領たる11代目が十年前のような激情で信者たちを煽り、武器を手に敵陣へ突っ込ませるような狂った命令を下すことはもうあるまい、とも言う。

カヅサ殿ひとりを憎むべき敵だと定義し、その死によって教団の正義は成就したと宣言し、これからは既存政権と仲良くして、信者に対しては変わらず教団の言うなりであることしか求めないけれども、その財産を必要以上に奪わないでいてやる。この状態で安定させておくことが最も賢い選択でしょうという分析だ。

悔しいが、その通り。

こんなやつらにカヅサ殿の死は利用されてしまうのか。不愉快きわまりないことだが、ともかく、理解はする。

 

既存政権。それは誰の手に落ちるのだろう。

 

キナイからの書翰は、シバタ殿が出陣したところで終わっている。エチゼンではまだ雪の壁が立ち塞がり、それを砕きながら堂々とオーミへ下ってきたそうだ。

ついに、決戦か。

シバタ殿は、旧カヅサ軍家臣団中、現在では最古参となる。経験値が勝敗を決めるものではないし、どんなに強くとも敵を侮れば負ける。しかし、そんなことを一番わかっているのもシバタ殿のはずだ。

ハシバは調略と瞬発力に優れているが、挑発の仕方が下品すぎるし、調子に乗って浮かれやすいところを見ていると政治家向きでもない。

気を抜かずに、叩きのめしてほしいものだ。

もちろん、情けをかけては駄目だ。勝負がついたら殺しておこう。シバタ殿にはそれができると期待する。

 

シモでは、気の早いことに定航船を迎える準備が始まっている。

 

信じられないくらい、あっという間に一年が経った。

今年は無事に辿り着いてくれるだろうか。アマカウにカブラルが今もいるなら、なんとか、どうにか、手を尽くしてくれているだろうか。

 

私も昨年ほどは慌てないでいられてる。アリマと、ナンガサキに、半々ずつ入港させることが原則だ。市を立てる組合も公平に配分した。

不正だけは厳しく罰する。そのためには不明瞭な優遇措置があってはならない。毎年来ている大商人でも、新参者の小商いでも、贔屓せず競り合わせ、高値を付けた方に売る。

あたりまえのことだ。

そのあたりまえを、やり抜く力が去年の私にはなかった。

 

今年はもう少し、ましにやってみる。少しずつでもこうして信頼を積み上げていかないと、客は舌打ちだけして帰っていき、二度と来てくれず、噂だけが流れる。それじゃいかんのだよ、商売というものは。

 

ナガシの季節に入って、顔なじみの商人も増えてきた。

互いの無事を讃え合う。

これも、信頼の賜物だ。

 

「お久しぶりです、パードレ。

聞きましたか。柴田修理亮殿と小谷の方が、御生害なされましたよ」

 

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