戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1564/006.hmos

聖マリヤ御生誕の祝日。

フィラドの新教会で、盛大なミサを行った。

 

感無量だった。信徒たちも、積年の苦節が報われたと声を張り上げて合唱し、鞭の音が夜通し鳴り響いた。

新しいタタミを汚したくなかったので、古布を敷き詰め、今後はこれを徹底することを新たに定めた。

日本人の清潔気質にも合致するところがあり、甚だ良い印象を与えられたと思う。

なにごとも工夫だ。

 

コスタとカブラルは、かつての私もそうだったように、驚き、当惑していたが、すぐ慣れてくれた。

フィゲイレドは上陸後すぐコチノスへ渡ったので、トルレスから教えてもらえると思う。

教会設立と共に、私はフィラド島内へ移住した。

まだ、ひと月にもならないが、都会に住む日本人と毎日接するうちに、認識を改めることが多くあった。

思い浮かぶまま、語ろう。

 

想像していた以上に、フィラドは多国籍都市だった。

これまでヴェネツィアのようだと考えていたが、修正する。モーロ兵のいないマラカ、に近いかもしれない。

インディアまで来たことのない人には、わかってもらえにくいかな。

 

主たる住民および政庁は日本人によって構成されているが、チイナ人およびその子孫もかなりの割合を占める。

言語も、装束も、挨拶や、ふとしたしぐさも、いろいろ混じり合っていたり、居住区域によって完全に違っていたりする。

フィラド島そのものは決して大きくはないのだが、研究目的で見て回るつもりなら、ふた月くらいは算段しておくべきであろう。

それほど、異国情緒にあふれた複雑さを呈しているのが、フィラドという町だ。

 

これと、船団長ペドロ・アルメイダの話を重ね合わせると、さらに興味深い発見が得られる。

彼は常に酒臭いし、気分屋だし、ディエゴより信用のおけない人物であるが、それゆえ私たちには想像もできない経験を積んできた。

まず旗艦が随分遅れてやって来た理由だが。アマカウを出帆したのは先発2隻より3日以上も後だという。

荷の積み込みに時間がかかったということだが、吃水線が完全に見えなくなるほどの商品を載せてきていた。

ダ・ゲラと真逆じゃないか。ダメだろ。

案の定、嵐に見舞われると、船は舵をとれなくなる。

右へ左へ大きく揺れ傾ぐ。

それでも荷物は捨てずに乗り切ったのだと。これも自慢の種となる。

しかし進路を大きく外れた。

こんな船長だから航海士もチャランポランだ。

適当な計測をしているうちに、かなり西にそれ、大きな島に漂着した。

原住民の家がまばらに。砦のようなものも見える。

しかし、人の気配は無い。

そんなことより水だ水と給水隊を上陸させ、ついでに野鹿か猪を狩っていこうと30人ばかり出動させたところで、襲撃された。

 

肉切り庖丁のような武器を手にした勇敢な男たちが、巧妙に隠れていたのだそうだ。

砦からも老人や女たちが加勢に出てきて、石を投げつけてくる。

水兵たちはエスピンガルダで応戦した。そんなこんなしていたので日本到着まで時間がかかったのだという。

 

航海士がまがりなりにも計測した記録によると、どうやら上陸地点はチイナ大陸の東端らしい。アマカウへ戻ったら危険地帯として報告すべきだろう。

ずいぶんと戦闘慣れ、より正確には襲撃され慣れているように感じるのだが、周辺海域でかれらを頻繁に襲いうる相手といったら、日本人しか思いつけない。

日本人は戦争し慣れているし、内海に海賊が多いというなら外海でもやっているだろう。

 

そんな推理をした上で、フィラドの信徒に探りを入れてみる。

フィラドより沖にはフクエとかツシマとか、同じ日本人でも血の気の多い連中がいる。よくチイナ人の子供を売りに来たりする。なんて話を仕入れることができた。

シモの内地でも、サツマ人はフィラド人よりずっと野蛮で、すぐカタナを抜くから仲良くできないとか言う。

じゃあフィラドの人がいちばん賢くて文明的なんですね、とおだててやれば喜ぶ。

つい先月まで邪宗徒が威張り散らす街だったくせに。

だが、そんなフィラド人も今では私たちの生徒なのだ。

一歩ずつ前進していこう、手を取り合って。

 

そうそう。フィラドで私は初めて、坊主と対戦した。

その坊主は、僧服を着ていなかった。観衆にまぎれていて、そ知らぬ顔で質問をしてきた。

通訳に、彼は坊主なのか?と尋ねてみると、そうですよとあっさり自分から正体を打ち明けた。

ふざけてやがる。油断ならない連中だ。

 

「あなたは、地上の万物は創造主デウスによってつくられたものだという。では、そのデウスはいったい何者がつくったのか」

 

私は答えよう。デウスはすべての始まりであって、デウスをつくった者は存在しない。

 

「納得できない。万物には始まりがある、とあなたは言う。デウスにも始まりがなければいけない」

 

万物とは、4大元素によって形造られる、この地上のすべてという意味である。デウスは4大元素を超越した存在である。万物には含まれず、デウス自身に始まりはない。

 

「デウスは体を持たず、見えもせず触れぬものと解釈する。それをあなた方は、いかにして知り得たのか。証明は可能か」

 

モーセという預言者を通して、デウスは人間にそれを伝えられた。当時の私たちの言葉で、デウスの教えは刻まれた。しかし人間は、道を踏み外しやすい。そこでイエズスが遣わされた。イエズスの生き方に倣えばよいと、これほど明快なお手本を示された。エウロパにはそれを証明するものがたくさんあるが、いずれあなたにも見せてあげられる時がくるだろう。そうすれば、より容易に納得してもらえるだろう。

 

「人間は道を踏み外しやすい、と今あなたは言った。完全無欠であり全智全能であるデウスが、人間をそんな不完全につくったのはなぜか。人間の世にこれほどの禍いが日々もたらされているのを放置している理由も答えよ」

 

デウスは完全であり、人間はそうではない。矛盾せず、どちらも正しい。もし人が完全であれば、欲するままにすべてを手に入れることができるならば、人はデウスへの感謝を忘れてしまうし、努力して何かを成し遂げようとする意志も育むことができないだろう。デウスは人間にこの地上と、それを発展させる機会とを与えられた。人間は自分たち自身で、ここに楽園を築き上げることができる。それだけの能力を持っている。教えに目覚め、争いをやめ、正しい道を歩むこと。それさえできればいいことなのだ。

 

彼は、わかりました、と言って、質問を終了した。

わかってもらえたのかな。どうだろう。何度でも来るがよい。何度でも答えよう。

 

今日のは、想定問答集を超える内容ではなかった。今後もこの程度だと、楽なのだが。

いやいや、それでは私が怠惰になってしまう。

暴力や刃傷沙汰はごめんだが、もう少し手強い挑戦者が来てくれてもよい。

お相手しよう。

 

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