戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1583/004.hmos

ひと月半で、勝負はついた。

シバタ殿が出陣して、戦って、追いつめられて、自殺するまで。

 

戦力では、劣っていなかった。

長い冬。訓練もままならなかったとはいえ、歴戦の猛者どもを、さらに歴戦を重ねてきた大将自ら率いていくのだ。

片やハシバ勢は損得勘定と宣伝効果で掻き集められた烏合の衆。

実際、ハシバ側からも相当の戦死者が出たことは間違いないという。

 

主戦場は、ビワ湖の北辺域だった。

 

シバタ軍は山岳地帯に陣を構え、ハシバ軍を迎え撃つ。緒戦はシバタ軍が優勢だった。

ハシバは、じわじわ陸路と水路から増援を繰り出してゆく。まるで嫌がらせのように、少しずつ出しては退かせ、出しては退かせ。シバタ殿は休む暇もとれず、消耗を強いられ、前線を崩壊させていった。退却が始まる。ハシバはこれに追い討ちをかけた。

エチゼンの城に戻ったシバタ殿は、新妻と、百人近い家臣団も道連れに、死を選んだ。

日本ではこれが、名誉ある負け方とされる。その作法に従って。

 

そもそも誰が考え出したのだろう、こんな馬鹿げたシキタリ。

深く考えもせず、伝統化して守り続けている、あなたもあなただシバタ殿。

共に死ぬことを欲した奥方や家臣などにも許可を与え、将来のエチゼン国を率いていくための人材まで失わせた。

このあと国はどうなるんです。領民の財産を誰が守るんです。みんなハシバにくれてやる気ですか。

おまえらの父ちゃん愚か者、とニタニタ嗤いながら送りこまれてくる新官吏が好きなだけ税率を変えますよ。

ほんとの負け戦は、ここからです。

なんて無責任な政治家だ。見損ないました。

 

あなたは、生きるべきだったのです。

 

降伏後、ハシバに殺されるなら、しょうがない。でもその前に、家臣たちの助命を請うべきでした。

部下たちに、エチゼンの誇りを、シバタ殿の無念を語り継がせ、生き続けさせることが、ハシバの思い通りにはさせないぞという、何よりの道標となるものではなかったか。

全部、自分から、捨てちゃいやがって。

ほんとに、ほんとの、バカヤロウ。

 

ギフ城のサンシチ殿も、挙兵した。

ハシバは前回人質にとっていたサンシチ殿の母君と娘を、即刻公開処刑させた。

それまで反ハシバ同盟と目されていたヲアリのノフカツ殿だが、ハシバ軍の一翼としてギフへ向かっている。シバタ殿の手の内はここからハシバへ筒抜けだったのでは、と勘繰らざるを得ない。

 

ノフカツ殿とサンシチ殿は、カヅサ殿の遺児同士だから、継承権をめぐって対立する素地はじゅうぶんにあった。ハシバはここにつけこんだのだと思う。

そして、ノフカツ殿としては、いずれはハシバを除くにしても、今ここでサンシチ殿を殺しておくことが自分にとって都合のいいことなのだから、本気で戦う。

サンシチ殿は敗れ、ヲアリの城へ連行されたそうだ。

 

悪夢を見ているに違いない。こんなこと、あっていいはずがない。

 

あまりにも急激に、すべてが、ことごとく、最悪へ向かって突っ走っている。

デウスは、何を考えておられるのだ。悪魔が野放しになっていることを、なぜ、許しておられるのだ?

 

私は、暗い気分に押し潰されそうになりながら、日々、机に向かう。

否、押し潰されてなるものかと、渾身の力をこめて、ペンを走らせていたのだった。

毎日、数十本のペンを消費した。

日本では鵞ペンを使う者はほとんどいないので、鷹匠などからただ同然で譲ってもらえるのだが、それが足りなくなるほど、書いて書いて、書き続けた。

カヅサ殿の物語をだ。

 

今の私は冷静ではないので、この衝動をうまく説明できない。もちろん、与えられた仕事であるわけはなく、こんなもの、総長には提出できないし、するつもりもない。

しかし私にしか書けない、私の見てきたありのままの日本の姿ではあるので、これだって日本史といえるのではないだろうか。ある意味、最も生々しく、正確な記録だとさえ思う。

 

万物の創造主デウスは、天と地をつくり、光と闇をつくり、草原と果樹をつくり、魚と鳥をつくり、大地を獣で満たし、そして、人間をつくられた。

アンジョのうち、下級なものが天界を逐われたが、害は無いのでお目こぼしをされた。かれらはやがて悪魔となり、人間を惑わせるようになった。

目に余ってきたので、聖マリアをお選びになり、御子イエズスをして人間たちに正しい生き方の手本を示された。

1500年前のゼルザレンでは、この方法がとられた。

 

そして16世紀にコンパニヤが地球の反対側まで達しようとしたとき、デウスは我々のために新しい方法を試された。

悪魔の中の悪魔を、地上に遣わしたのだ。

これが、オタ・カヅサ・ノブナンガである。

 

ノブナンガは、地上にはびこる邪悪な人間どもを、ひとりも赦さなかった。焼き払い、殺し尽くし、滅ぼしさることで、世界の浄化を達成せんとした。

イエズスとは少しやり方が違うが、もとが悪魔なのだから彼にとっては常識の範疇だ。

それに、イエズスだって言っている。自分は平和をもたらしに来たのではなく、敵対をもたらすために来たのだと。

1500年前ですら、そうだった。

人間はもっと邪悪になっている。強い意志と暴力で、眼を醒まさせてやらなくてはならない。

それだけの力を与えられて、彼は、私の前に現れた。

 

私は、記録者としての使命を御主より与えられ、ここにいるのだと思う。

デウスのつくりたもうた舞台で、私は喜び、怒り哀しみ楽しみ、駆け回ってその役を演じた。

してやられたり。

そしてカヅサ殿の死に直面し、嘆き悲しみ、その復活を待ちわびている。

 

イエズスの復活は40日後だったが、カヅサ殿はもう少し、かかるようだ。

私はその瞬間に立ち会うことができるだろう。

記録し続けてきた者は、私の他にはいないのだから。

 

カヅサ殿は、復活する。

待たされた時間だけ、滞在期間も長いだろう。

今の世を見て、何を思うか。

 

さあ、いま一度、この国のすべてを焼き尽くしましょう。次は、奇跡を使いますよね。何もかもを一瞬で片付けましょう。

それを私は見守りたい。

そのすべてを、私たちの日本史として、刻みます。

 

言ったはずだ。物語だと。

狂っていると、言わば言え。

誰にも読ませるつもりはない。

 

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