我々は、スコを侮りすぎていた。深く反省せねばならない。
やつらは狡知に長けている。
定航船団が出帆した。その翌日、突如、スコが動いた。
海から山から総進撃だ。
山道には雪が残り、風も冷たい。そんなことなどお構いなしに、大軍がアリマへ向かい押し寄せる。
ドン・プロタジオはただちに国境沿いの全城砦へ、徹底防衛戦の指示を出した。
予想どおり、半島北側のシマバラ領はスコ側に就いた。海路と陸路から続々と、スコ兵を通過させている。
敵は国境近いシマバラ城下に先鋒を集結させていた。その第一陣はオオムラ兵だとの情報が入ってくる。これも予想されていたことだ。
ドン・バルトロメウも、やるせない思いであろう。
アリマ軍の主勢力は、3レグア離れたフカエに陣を敷く。このまま激突すれば、見通しのよい海岸沿いでのぶつかり合いとなる形だ。
スコ王は、滅ぼしたい二大勢力が盛大に消耗し合う状況を作れたことに、得意絶頂であろう。だが、むざむざと、そんな手に乗るわけにはいかない。
戦端が開かれる。
鬨の声があがり、オオムラの兵がつっこんでくる。
双方から、烈しい銃声が轟き、剣の鍔ぜり合う音が響く。阿鼻叫喚の悲鳴が谺する。兵の数はどんどん少なくなり、やがて、影も形もなくなる。
波の音だけが残る。
全滅ということだ。
死体は、きっと、海に流され、魚たちに食われてしまったにちがいない。
さあオオムラ兵よ、一人残らず飛びこんでこい。そのあとでやっとスコ兵がお出ましになるだろう。本気を出すのは、そこからだ。
種明かしをしよう。
アリマ領の住民は、ほぼ全員が信徒だ。オオムラ兵も然りだ。
武具にしるしを付けているから、一目瞭然である。ゼンチョが化けている可能性は否定できないが、聖句のひとつも口ずさめばその反応ですぐ見破れる。
浜辺の漁師たちには周知済み。オオムラ兵を物陰に回りこませたら、武器を預かり平服に着替えさせて、後方へ逃げさせる。
スコからの監視役がどいつかわかれば教えてもらい、アリマ兵はそいつにだけ襲いかかって、なぶり殺す。
どうだ見たか、これがデウスの戦い方だ。私たちは知恵で勝つのだ。
何日か経過して、さすがに、スコ軍も気付き始めた。
おそらく正規兵のお出ましだ。鉄砲の数が、急に増えた。疑惑が裏付けられる。
しかし射ち方がデタラメだな。統制がとれていない。
種類だけはやけに多い。大型から小型まで、どこからどう手に入れてきたのか、メチャクチャだ。
我々は、エウロパでいうところのアルカプーゼスやファルコンまで鹵獲した。これに合う弾など持っていないだろうに。一体なにを考えて前線まで運んできたのだ。謎すぎる。
ファルコンなら、アリマ軍にも2門ある。コチノスからここまで運ばせた。大型なので、カフルにしか弾込めできない。
点火する。ぶっとばす。
大炮とはこう使うのだよ、スコの諸君。
もっと大きな、アルテリヤリヤとかフランキといった重炮も存在するのだがね。生兵法は怪我のもとだ。これに懲りたら、うちへお帰り。
半島の東側でこうして我々は善戦を重ねていたが、西側のチヂワではスコに城を奪われたと聞く。
こちらから兵力を回すべきだろうか。いや、そんな余裕はない。スコ本国からの増援がもっとも来やすいのは東側なのだ。ここの守りを薄くするわけにはいかない。
ナンガサキからの報告も届く。
オオムラ領はすでにスコ軍によって占領された状態にあるが、ナンガサキはやつらを市門の外で防ぎ止めている。
住民全員が武装して立て籠もっているようだ。スコはナンガサキをどうやら無傷で手に入れたいらしく、強硬策には打って出ていない。それはありがたい。
推測だが、あれだけ銃器を持っているなら定航船のもたらすサリートリを独占的に手に入れたいという欲望も強いだろう。そのためにナンガサキを保護したいのだ。
となると、コチノスも同じ手で包囲するだろう。指示を送っておこう。
無茶な戦闘は禁ずる。シマバラの敵主力を粉砕すれば、やつらは帰っていくはずだ。持久戦に徹せよ。弾薬を奪われないように。
よし、これでいい。
そう。主戦場はシマバラである。
ここを突破すれば、スコの戦意は大きく挫かれよう。自分たちがデウス信徒の足下にも及ばない存在であることを、その頭に叩きこむまで、打ちのめす。
戦意を取り戻したオオムラ兵は、アリマ兵と共に果敢に戦ってくれている。まだまだ、いけるぞ。
しかし、敵もまた増援に次ぐ増援を繰り出してくる。
スコ兵ってどれだけいるのだ。わからん。いつまで続くのだ。
そう、気が遠くなってきた頃だった。
サツマ軍から、精鋭部隊が到着したとの報せを受ける。
今更か。どれだけ頼りになるものやら。そんな思いで聞いていた。
「薩摩王・島津義久殿の弟君で、中務殿と申される方が指揮官です。戦局を概観され、ただちに当戦線へ向かわれるとのこと。受け入れの準備をされたしとの御下命であります」
フム。そりゃ、ここが最重要前線であることは、見ればわかるだろうからな。
そういえば私はドン・プロタジオに、サツマとの連絡交渉要員を担当させろと言っておいたんだった。手間が省けた。
よし、お出迎えをしようじゃないか。
お手並み拝見。ナカツカサ殿とやらの弱みを握ることができれば上出来といったところだな。
ナカツカサは、翌日にはフカエまでやって来た。連れてきた兵は約800という。
鉄炮隊はいない。弓兵が多い。槍兵の装備が、これまで見たどの軍隊よりも短い。
頼りにならんな、と一目でわかった。
おおかた、予備部隊が演習を兼ねてよこされたものであろう。
軍師のルイス・フロイスですと挨拶をする。カヅサ軍で経験を積んだことも言っておいた。
地元民の信徒たちは優秀なる兵士であるが、私の命令しか聞きません。かれらを活用するならば、私を通してください。そんな名目で、参謀会議の一員に加わった。
「こんな平地でいつまで戦っているつもりだ。島原城まで攻めこまねば結着はつかんぞ。
兵力差で我々は劣っている。ただちに後退する。深江は明け渡せ。有家の山に陣を構え、そこで迎え撃つ」
正気か?耳を疑った。
ここまで勝利を重ねた深江の城を、敵にむざむざくれてやるだと。ありえん。
私は即、抗議した。
後退する指示を出せば、アリマ兵の士気は大きく挫けます。愚策ですぞと。
「勝算はある。敵が調子づいてかかってくれば、我方の思う壺だ。この戦術は五年前、豊後相手に実証した」
……な、に?