戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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私の名は、ルイス・フロイス。

日本にいる7パードレの、ひとりだ。

来年よりミヤコへの赴任を申し渡された。

ちょっとまってくださいトルレス。

パードレ・トルレス?

 

ミヤコは激戦区ですよ。大先輩パードレ・ヴィレラが精神に異常をきたすほどの。

戦火と坊主に毎日まみれなくちゃならない、フルガトウリヨですよ。

私は7人の中で、一番の若輩です。

イルマン・フェルナンデスにさえ、遠く及ばぬ技能しか、持ちません。

もっとふさわしい戦士が適切では?

 

ええと?今年来た3人は、まだ日本語に慣れてない。

まあ、そうですね。

若いなら体力もあるだろう?

いえヂシピリナをするたびに筋肉痛がつらい軟弱者ではありますけど、しまった、若輩ですってさっき自分で言っちゃった。

フィッシュをねじ伏せた実力者?

やっちまったあああ、余計なことしちゃったあああ。

 

どうにも逃げられそうにないので、諦念します。

ミヤコか。

生きて戻れるかな。

それとも、今度こそ本当に、マルチルかな。

マルチルならいいんだけど、精神崩壊して生き続けるのは厭だなあ。

悪魔の誘惑に耐えられなくなれば、パライゾへも行けなくなっちゃうぞ。

憂鬱この上なし。

 

 

気もそぞろに過ごしていたら、イルマン・ルイス・デ・アルメイダがやって来た。

ミヤコまで一緒に行ってくれるらしい。なんて心強い。

その後、ヴィレラの様子をみて、本気でやばそうだったら、連れて帰るという。

私ひとりになってしまいませんか?

そもそもなんでミヤコ担当ひとりなんですか。もっと人数を送りこみましょうよ。誰がいいかなあ。

フェルナンデスには、ここで辞書をつくっててほしい。

一日も早く作って、写本をミヤコへ送ってほしい。切実にたのむ。

となると他にはアルメイダ、ゴンサルヴェス、サンチェス……

イルマンて何人いるんだろう。

こないだ一人、どこかで死んだんだっけ?

 

「イルマン・ロレンソがお前を助ける。安心しろ、とても頼りになる男だ」

 

イルマン……ロレンソ……?初耳です。どんな人ですか?

 

「初の日本人イルマンだ。今年、申請が認められ、ミヤコでヴィレラが誓願式をしたはずだ。見た目は悪いがあれだけの実力者は他におらん。坊主との宗論では無敗を誇る。嘘じゃないぞ」

 

ん?いまの言葉、記憶に……ロレンソ?

前にもそれ、誰かから、聞いた気がする。

ともあれ、安心材料がひとつ増えた。彼からいろいろ、教えてもらおう。

 

 

準備には意外と手間取った。

とくにタク島へ戻って、ミヤコへ行くことになったと告げると、信徒たちが一人残らず挨拶に来てくれ、別れを惜しんでくれた。

そのたび、サケをふるまわれる。さすがに断れない。

連日、吐いて、意識を失っていた。

記念のヂシピリナもやった。

自分が何をしているのかよくわからなくなってきて、すでにここはミヤコで私はおかしくなってしまっている最中なのではないかという思いに何度もとらわれた。

陶酔している最中は、そんな状態も気持よかった。しかし終わった途端、激しい自責の念に襲われ、涙が止まらなくなるのだった。

勇気を奮って、お別れをする。

ありがとう、さようなら、タク島よ。そしてフィラドの皆さん。

これからも清貧を心がけ、正しい道を歩みながら生きてください。

地上が楽園となる日をめざして。アーメン。

 

「お前は破天荒すぎる。しかしミヤコでは、丁度いいかもしれん。それくらいじゃなければつとまらん。ヴィレラは生真面目すぎたからな」

 

イルマン・アルメイダよ。私も生真面目な男ですよ。

地上でもっとも無用で価値無き、一介の下僕です。

ほら、謙虚でしょ?

 

 

収穫期が過ぎ、夜が冷え込む季節になって、私とアルメイダはフィラドを発った。

コチノス、シマバラを見て回り、ブンゴへ至る。

私にとっては、実際に訪れるのは初めての土地ばかりだった。

コチノスもシマバラも美しい港を持つ町で、ともにアリマ領の一部である。

アリマ王は、オオムラ王ドン・バルトロメウと兄弟で、父親である老王によって、一時追い払われていたりした。

今は少し関係が修復しているようだ。

ドン・バルトロメウは新しい城をつくってそこへ移っている。坊主たちとの和睦に応じて、当面は邪宗徒の撲滅を延期してやっている。

パードレ・トルレスとは連絡を密にとりあっており、各地で信徒が迫害を受けていることに甚だ心を痛めているとのことである。

 

ブンゴ国のフナイは、想像を超える立派な都市だった。

私たちの拠点として、東西30ブラサ、南北40ブラサほどの広大な区画が丸ごと与えられていた。教会、住院、孤児院に食堂、菜園に墓地まで全部、同じ敷地内にあった。

その一角に、いわくつきの病院跡がある。

アルメイダがコンパニヤへ入ったときにつくったものだ。

 

日本には病院が存在しない。そもそも医療という概念自体をかれらは知らない。

タタミの家では手術なんて行えないと、建物の設計段階からアルメイダが指導した。吹雪の日にまで現場で指揮し、曲がりなりにもエウロパ式と呼んでよい病院を完成させた。

アルメイダはポルトガル王室発行の外科医療免許証を取得した、れっきとした医者でもある。連日ここで大勢の患者を、無料で診た。信徒であろうとなかろうと。

もちろん、一度来た者はたちまちデウスの偉大さを知る。何十年も苦しんでいた病気がたちどころに恢復するものだから、家族親戚ひきつれて熱心な求道者となる。

やがて教えも理解し、霊名を授けられて信徒となり、デウスの力を日本全土に遍く広める。

そんな輝ける時代が、4年あまり、続いたという。

 

58年。ラウマにて、コンパニヤの最高会議が、生命にかかわる医療行為の全面禁止を決定した。

 

寿命はデウスがお決めになるもの。聖職者がこれに手を加えることはならぬ。

たしかに、もっともだ。

3年後、日本へもその通達がもたらされた。

病院はコンパニヤの手を離れ、ブンゴ王へ譲渡された。

しかし、日本人だけで医療を続けることは、不可能だった。

病院はまもなく閉鎖され、いまは倉庫のような扱いになっている。

私は、黙禱を捧げた。

 

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