戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1584/006.hmos

本年の船団長は、アイレス・ミランダという男だった。

ナンガサキへ入港させた。

サツマ兵と役人たちは、様子をみている。珍しくて、たまらんのだろう。

私はさっそく、今春勃発した非常事態を説明し、国際法を犯しているサツマに対して示威行動をとってもらうよう、ミランダに要請した。

 

「パードレ、話はわかった。ただ我々がサツマへ出向くことは協定上、不可だ。

できることといえば、アマカウへ戻ってから、ランデーロさんに仲介を依頼するくらいしかない。

それより今夏、我々は商売ができるのかどうか、それをサツマの役人に確かめたい。私が交渉するから、パードレもついてきてください」

 

協定?協定とは、なんだ。

 

「我々、ポルトガル定航船団の寄港地は、ナンガサキとコチノスに限定されている。サツマとの取引はランデーロさんの管轄だから、許可無く寄港してはならない」

 

……ランデーロとは、アマカウでのし上がった富豪だったか。なんだい、ポルトガル王室御用達の定航船団は、ランデーロさんにいちいちお伺いを立てなくては何もできないみたいな口振りじゃないかね。

 

「事実、その通りだよ。ポルトガル王室の威光そのものが、今や地を這っているからね。パードレ・カブラルでさえ、ランデーロ一族には頭があがらない。我々がサツマを威嚇なんかしてみろ、定航船は今年限りで終了だ。ランデーロさんには、それだけの力がある」

 

……ランデーロとサツマは、そんなに仲がよろしいのかい?

サツマ軍には鉄炮がない。大した商売をしているようには、思えないが。

 

「品目については機密事項だから私もよく知らないが、サツマはサリートリを必要としていない、というだけのことだろう。ランデーロさんたちはサツマから銀を大量に買っている。だからその分、サツマの欲している物品を提供しているはずだ。パードレこそ、何か知らないかね」

 

見当もつかないな。

そんなことより、サツマへの威嚇ができないと言われて、私の計画は白紙に戻った。どうすればいいんだ……

 

「まあまあ、だから私が交渉してみようと言っている。担当者が代わることで、新たな手懸かりも掴みやすくなるんじゃないか。私としても商売ができなくなっては困るのだ。かれらの言い分も、じっくりと聞こう。いいかね、パードレ」

 

ナカツカサが帰国してから、ナンガサキ占領司令官は何度か交代している。どいつもこいつも尊大で、愚かな奴しかいない。

しかしナカツカサより口が軽いのが、我々にとっては好都合だった。宣教師は追い出したいが交易の利権は保護し、取引に応じて税をかけたい。という明け透けな本音を隠そうともしない。

ミランダは、宣教師あっての定航船団であると、何度も何度も主張してくれた。サツマからは特定の品物を持ってきているか、という細かな質問が次々発せられた。私は意味がわからず機械的に通訳し、ミランダも確認しますと言って箇条書きだけしていたが、これは大きな手懸かりとなったようだ。

船へ戻ると、若い男をひとり、呼びつけた。ラサリーリョというカスティリヤ人だ。

ラサリーリョは、サツマの求める品々に、フェリペナス産の薬草が何種類も並んでいることを、たちどころに見抜いた。煎じてほんの数滴飲ませるだけで、たちどころに殺せる劇物さえ含まれているという。

 

「サツマ人からお茶を出されても、飲んじゃいけませんね。せいぜい、相手が飲んでから、自分も飲む、くらいにしておかないと」と、ラサリーリョは笑いを浮かべながら言う。

 

フェリペナスの説明からしておこう。

ポルトガルとエスパニヤが別々の国だった頃、それぞれの支配領域に境界が設定された。ポルトガルは西から東へ向けて開拓を進め、その極東端が日本である。一方、エスパニヤは東から西へと領土を拡張していった。

新大陸が発見され、ヌエバ・エスパニヤと名付けられ、そこから先には広漠たる大海原がどこまでも続く。今世紀前半、この大洋を横断してエウロパまで帰ってきた船がいて、航海日誌が1日ずれていたことが決定打となって、地上世界が球体であることが立証された。

それはさておき、エスパニヤの冒険者たちはその後も西回り航路への挑戦を続け、本来ポルトガル領であった東インディア海域へも進出するようになる。処女地にはエスパニヤの旗を掲げた。これは条約違反として以前から問題となっていたところであるが、エスパニヤ側は、測地と航海技術の進歩を勘案して条約の方を改訂するべきだと主張してきかない。

いつまでも揉めているうち、既成事実は積み上げられてゆく。そして、なんとポルトガルがエスパニヤ連合に呑みこまれるという事態となった。81年だから、もう4年目になる。

フェリペナス群島は、そんなエスパニヤ人たちが発見した植民地だ。

エスパニヤ王であり、今はポルトガル王でもある、フェリペ大公に捧げるべく名付けられた。

エルモーサ島からまっすぐ南だというから、経度上まちがいなく日本より西にある。

ラサリーリョは、このフェリペナスで何年か働いた経験を持つ。生来好奇心が強く、一箇所にじっとしていられない性格のためアマカウへ移ったが、エウロパまで含めて、永住するならフェリペナスが一番ですよと言う。ちなみに日本は最下位に近いそうだ。

 

「フェリペナスは、とにかく食い物が旨いんです。肉、野菜、果物、なんでもあるし、種類も多い。そこらへんに生えている椰子の芯からジュースも酒もつくれますし、これをエウロパの葡萄酒と混ぜると最高のリキュールが生まれます。原住民と飲み交わしながら、毎晩語り合うのが、これまた実に楽しい」

 

飲み過ぎはほどほどにね。原住民はともかく、君は十戒を厳守して、御主への感謝を毎日捧げなくてはいけないよ。

 

「教会はありますし、イエズス会のパードレもいましたよ。でもしかしまあ、原住民には生きる悩みってのがそもそも無いですからね。聖書の物語には興味を持ってくれますが、イエズスの苦難に対しては、どうしてそこまでするの?って。共感を持てないみたいです」

 

これだから野蛮人は。しかし、毒薬を何種類もつくっているのだろう。それだけの需要があるということではないのかね。

 

「なんのためにと問うならば、そもそもは薬をつくるためですよ。止血剤。眠気覚ましに酔い覚まし。夜の営みを盛り上げる興奮剤。胃腸薬に臭い消し。いろいろつくってたら、副産物として毒薬もできちゃうんですが、かれらはそれぞれに対抗する解毒剤もちゃんとつくります。常備しておくのは解毒剤の方です。

ところがサツマは強い毒しか欲しがらない。こっちの方こそ、なんのために?って想像すると背筋が寒くなってきますけどね」

 

サツマはデウスを敵視し、ハチマンを崇める狂信者の群れだから、野蛮人よりも野蛮なのだよ。

ところでカピタン・ミランダ。そんなフェリペナスの薬物がサツマへ渡っているということは、アマカウは、東インディアからフェリペナスまで含めた東洋経済圏の中心として、かなり重要な地位を占めるようになってきているということなのかな?

 

「え?いやあ、とんでもない。規模でいったらアマカウはマニラよりずっと格下です。マニラとはフェリペナスの首都ですが。それこそ、ナンガサキ程度の港町なんて、ルソン島だけでも沢山あります。そうだろう?ラサリーリョ」

 

ラサリーリョは固有名詞をつぶやきながら両手で数え始めた。私は泣きそうな気持になるのをこらえた。

 

「現実的に、日本との交易はまったく儲かっていなくて、イエズス会が意地で続けさせているようなものです。アマカウは、チイナ政府と交渉する窓口として維持されているだけ。それを東洋経済圏の中心だなんていったら、嗤われてしまいますよ」

 

世界を知りたまえ。正しく学びたまえ。井戸の底から這い上がり、空の青さをまっすぐ見つめたまえ。……私がサツマへ突きつけようと考えていた言葉だった。

いま、それらが私の心に突き刺さる。どこまでも深く、涯てしなく。

 

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