戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1584/007.hmos

雪の聖母の祝日。涼しげな季語だが、真夏だ。

驚くべき報告に接する。

 

フィラドに、積荷を満載したジャンクが漂着。

船には数名のパードレが乗っており、領主への訪問を希望。

救難への感謝と滞在の許可を請い、冬に風向きが変われば立ち去るが、それまでの期間、商売をさせてもらえるなら格安でこれに応じようと交渉する意向を伝えている。

フィラド領主は諸手を挙げてかれらを饗応。

 

ナンガサキに集まっていた商人の幾らかが、慌てて駆け出していった。同じものがフィラドで安く買えたら、戻ってきてこちらで買ったものを返品する輩だって現れるかもしれない。

カピタン・ミランダも詳細を欲しがっている。私はすぐフィラドの駐在員に、毎日報告を送れと指示した。どんな情報でもいい。良いことも悪いことも、整理せずに送れと。重複しようが相反しようが判断はこちらでするから見たまま書いてすぐ送れと。いつもの私のやりかただ。

 

漂着が嘘だとすぐにわかった。船体には傷ひとつなく、負傷した船員もいない。

パードレは4名。イエズス会士ではない。裸足系修道会の宣教師である。

 

地区長のパードレ・ローペスが会見を申し込んだが、先方のパードレは療養中につきと断ってきた。布教はしないから安心されたし、との追伸も付される。

4人ともフィラド領主の邸で警護されており、表には出てこない。

市場では船員たちが商売を始めた。ここへ我々の信徒たちが展開して、様子をさぐる。

 

かれらの出発地はルソン。フェリペナスの主島だ。

船長はヴィセンテ・ランデーロ。ミランダによると、アマカウにいる大ランデーロの甥のはずだという。

 

商材について。

毒薬は確認できなかったが、強壮剤の類いはよく売れたそうだ。買った者が翌朝には大絶賛するので日毎に値が吊り上がっていったらしい。

日本語を話す、色とりどりの鳥類も大人気だった。鸚鵡のことだろう。

 

意外なところでは陶器に高値がつき、船員たちを驚かせていたという。日本人は茶道具に信じられないほどの価値を求める。相手を殺せば真っ先にその蒐集品を奪っていくことが常識にもなっているが、フェリペナスの壺にもなにか特殊な要素を見出したか。

私には理解しがたい発想だが、ミランダが興味を示した。日本人が高値で買うというなら来年度の定航船団でも持ってきたいというのだ。さすが本職の商売人だな。

 

漂着説が再浮上する。

ラサリーリョによれば、マニラからヌエバを目指すなら6月末頃の季節風に乗るのが基本。出遅れたかれらが北へ進んだ先で日本向きの暴風域に捕まったとしたら、予定に反してフィラドへ着いたとしても不思議ではない、という。

ついでに、ヌエバとマニラを結ぶ航路は往きも還りも3箇月しかかからないと言われて、私は更に驚く。

ヌエバ往きは少々難しいらしいが、マニラへ向かうには季節さえ間違わなければ終始穏やかな航路が存在するらしいのだ。

リスボアからゴアへ着くには半年かかり、そこから日本までは難所に次ぐ難所が待ち受ける。それに比べると、何という違いだ。

 

距離が遠すぎるせいもあって、マニラとヌエバの間では何もかもが珍しがられ、利益も莫大に出るという。

タバコも、マニラでは多くの住民が嗜む。アマカウでは大人だけの嗜好品と化し、日本では貴族しか喫えない。葉巻に加工する作業だって、マニラでエスパニヤ商人が手掛けているというのだ。

なんという規模。隔世の感。

 

……ラサリーリョよ。君は、永住したい国として日本は最下位だと、先日言っていたよね。もっと詳しく聞かせてほしい。私を傷つけることを躊躇しないでほしい。率直な本音が聞きたい。

 

「じゃあ遠慮なく。まず、食べ物が不味い。原住民の表情が暗い。笑いも泣きもしない。何を考えているのかわからなくて気味が悪い。

わずかなものを分け合って、我慢することに慣れすぎていて、その強要が押しつけがましい。

言語が難しい。意味はわからなくとも、ねちっこく説教してるんだなということだけはわかる。ばからしい。

それこそ、率直に本音をぶつけ合って問題を解決する能力が皆無なのではありませんか日本人というのは。

ついでに、パードレよ。あなた方は何十年も日本で布教に励んできたという話ですが、いったい何を遊んできたのですか。まず畠を耕しなさい。じゅうぶんな食糧を確保しなさい。腹いっぱい食べて、働いて、疲れたら酒飲んで寝る。それだけ、すべきでしょう。

産業の発展に奴隷は必要ですが、奴隷しかいない土地に産業は生まれないのです。あなたは最近までポルトガル人だったからそんな発想もできなかったのでしょうが、もうエスパニヤ連合の市民なのですから、日本人を正しく躾けていかなくてはいけないはずですよ。以上です。私は今冬帰ったら、もうここへは来ません」

 

圧倒的にまくしたてられ、私は泣いた。

ラサリーリョには礼を言った。疲れ果てたので、寝た。

 

エスパニヤの探検隊は、軍隊が先導する。

文明国が初めて足を踏み入れる土地には様々な危険がつきものなので、必要な存在ではあるのだが。問答無用に脅威を排除してから入植し、柵を築いて開拓を始めるという方法論は、動物愛護の観点からも、決して完全な正解とはいえないと思う。

ポルトガルの方針では、宣教師が先導するのを基本とした。御主に導いてもらうのだ。

未知の脅威はヴィルトゥスによって無力化する。その力が及ばぬときは軍隊に助勢を願うが、決して優先順位を誤ってはならない。

イエズス会のパードレひとりは、エスピンガルダ百人隊に匹敵する力と責任を持つ。それが、私たちの誇りだった。

日本の教化も、その戦略に沿って、地道にここまで続けられてきたのだ。

 

その自信がいま、揺らぎつつある。

私たちのやり方は、たしかに時間がかかる。

火力の誘惑は大きい。ラサリーリョの言葉には迷いが無かった。うらやましい。

私は日本人を甘やかして、つけあがらせていたのではないか。かれらには理解できるはずだと期待しすぎるあまり、奥手になっていたのではないか。

 

今からでも、遅くはあるまい。

私ですら驚いた世界の広さを、サツマにも、ブンゴにも、ハシバにも見せつけてやり、とっとと日本国内の戦乱を終結させるのだ。

一丸となって、日本の生産力と知的水準の向上に励まなければ、おまえたちの国は僻地の貧村のまま、永遠に抜け出られなくなるぞと、教えてやるべきなのだ。

それを成すことが、私たちの仕事だろう。

エスパニヤ王室が本格的に介入してくる前に、手を打ちたい。ポルトガル人の、誇りをかけて。

 

寝ている時間が惜しくなり、私は身を起こした。蝋燭に火を灯し、仕事を始める。

各地の駐在員に、檄を飛ばすのだ。これまで以上に、信徒の獲得と、その教育に、全身全霊で取り組むべし。不退転の決意を持ちて、粉骨砕身の敢闘を求む。君たち一人ひとりの双肩に、コンパニヤの未来がかかっていることを、忘れる勿れ、と。

 

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