戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1585/001.hmos

サツマが、ヒゼンとブンゴ間の交通を禁じた。

 

商人の往来は制限付きで許可されており、そのおかげで書翰のやりとりは辛うじて維持できている。

いよいよ春から戦争か。そう誰もが警戒し、財産の保全に余念が無い。

 

コエリュと私は、定航船の離日と共にキナイへの巡察に出発し夏までに戻ってくるつもりでいたが、この計画が頓挫した。

一年は延期しなければならないことになるが、はたして一年で結着はつくだろうか。

つくとしたら、残念だがブンゴの敗北しか予測できない。

サリートリをブンゴへ提供できない時点で、詰みだ。よくても政治的交渉によりブンゴがサツマに絶対服従を誓って占領下に置かれるのが精一杯だろう。

 

サツマの支配は巧妙だ。

オオムラやアリマと長年小競り合いを繰り広げていたイサハヤという小領地があるが、昨年、ここがアリマに服属した。戦闘は発生していない。すべて、サツマの指示による。

イサハヤ領主はアリマ領主ドン・プロタジオの家臣となった。これだけなら、めでたしめでたし。

サツマはドン・プロタジオに、イサハヤのぶんまで加えての、税と兵の供出を求める。

それをブンゴへぶつける気だ。戦力としてはサツマ軍の精鋭には遠く及ばないだろうが、鉄炮の弾よけ程度には使えるだろう。

同じことをできる余裕が、ブンゴには、もはや無い。

 

いつの間に、ここまでの差がついてしまったのか。

ブンゴは、スコに戦いを挑んでいる場合などではなかった。いまスコが同盟を結ぶとしたらサツマを選ぶに決まっている。

ブンゴは完全に孤立した。

ほんとうに、どうして、こうなってしまったのか。

 

現在のところ、ナンガサキに対して、サツマは兵役を求めてきていない。オオムラ領主ドン・バルトロメウにはその分しわよせが来ているかもしれないが。

サツマにとってナンガサキ人は、自由奔放で容易に従わせることができない気質だと認められているみたいなのである。

それはそれで小気味よい抵抗だ。

デウス信徒は世界で最も優秀な兵士であるにも拘わらず、サツマはこれを扱えない。おまえらごときに従わされる戦士ではないのだぞ。

 

ただしかし、サツマの圧制を跳ね飛ばすには、絶対的兵力が不足している。

全信徒に、運命を託そうと思わせるだけの力量と人望を備えた指揮官の存在も不可欠だ。機が熟すのには、まだ少し、時間がかかる。

キナイとの通信であるが、これまではブンゴ経由が主だった。

今年初の書翰は、状況を察知した商人がフィラドを中継する形でナンガサキへ持ち込んできてくれた。サツマの目をくらます道筋はいろいろあるということだ。

さて、気になるベルシヨール・マナセの演説の詳細が書かれてある。抜粋する。

 

「私は、生涯を通じて、古今東西、あらゆる学問に触れてきたし、仏教諸宗派とも交わってきた。しかし、そのいずれも納得することは稀で、欲求不満を感じ続けてもきた。

七十を過ぎて今なお性慾の虜であることも、私にとって未知なるものへの激しい欲求が根底にあるのだと思っている」

 

ベルシヨールは冒頭で自らの半生を振り返り、デウスを知る以前の自分がいかに罪深い存在であったかを悔悛している。自省録の基本形だ。精力が衰えぬことを自慢する部分が少々長いので割愛する。

 

「デウスの教えも、噂には聞いていたが、よくわかっておらぬ者たちの軽薄な中傷が大半で、私には判断できなかった。そこへ、パードレ・フィゲイレドが訪れ、私にとっては謎また謎の新しい世界を覗かせてくれた。

私は考えに考え、デウスについて、イエズスについて、エウロパについて、学びたく思った。だから求道者となり、ついに洗礼にあずかった次第です」

 

そうなのだよな。坊主どもの流言飛語が根強いせいで、私たちのことを知ろうともしないで毛嫌いし、唾を吐きかけてくる輩が多すぎる。ベルシヨールはこの点、日本の学者のくせに、多少はまともなようだ。

 

「洗礼を受けられるまでには相当な時間がかかると聞いていたのだが、私は意外に早かった。信徒や求道者の皆さんとも語らったのだが、なかなか受洗できずに苦しまれてる方々も多いようだ。

これについては意見がある。

剣術や茶道の免許皆伝、料理人の暖簾分けであれば、技術が相応の域に達しているか、屋号を名乗らせる人物として適切か、等々の基準が厳しく審査されるものであるが、洗礼については、パードレやイルマンによって条件にかなり差がある。

私に相談してもらえれば、授洗数未達で苦しんでいるイルマンを紹介できる。

喜んで手伝いをしよう。それで皆がしあわせになれるなら、よいことではないか」

 

余計なことを言い始めたぞ、ベルシヨール。

そのうち、宣教師をたぶらかすコツなど伝授しかねない。

エウロパ人には日本人の顔が区別つかないから霊名をいくつも授かってきたぜとか、信徒がコンヒサンで嘘をついても実は宣教師にはそれが見破れていないとか。たちの悪い自慢話をひけらかす不良がナンガサキにも一定数いるが、そいつらと近い臭いを感じる発言だ。要注意だ。

 

「洗礼を授けるのは生後一週間以内が望ましいとパードレは言います。その子のアニマはスピリツサントスによって保護され、生涯を通しより多くのヴィルトゥスに満たされていくだろうということです。

しかしパードレは私にこうも言いました。老いているから洗礼を受けても意味が無いということはない。人は余命のあるうちに、自分の力で及ぶ限りの善行を積めばパライゾへ行けるのだから、むしろ老いてから入信する方が楽ですよ、と。

これが不思議でならない。

ならば私はもっと老いさらばえてから、まさに死の床で受洗するのが一番、しあわせであったと思う。余命が長ければ長いだけ、節制を強いられる時間も長くなる。人生をぎりぎりまで放埒に愉しんでから、最後の一瞬でデウスへ忠節を誓い、パライゾで安楽に暮らさせてもらう。そうするべきだった。

しかし、これとて、入信して勉強したから理解できたことです。

ああ、私より先に入信した者が、そこまで調べ考えて、書に著して広めておいてくれてたら、私はもっと善い道を選択できたのに。そう思うところですが、悔いても詮無いこと。

せめて、私より若い方、これから入信を迷っておられる方には、私が礎となって、これを伝えたい。

相談はいつでも受けつけます。私が、最も善く効く薬を、処方して進ぜよう」

 

聴衆の拍手はいつまでも鳴りやまず、直後に信徒数も激増したそうだ。

わけがわからない。速記録を読む限りでは、デウスをおちょくっているようにしか思えないのだが。

フィゲイレドたちも、勢いに呑まれて大成功と結論したみたいだ。誰も問題にしなかったのか。どこかが間違ってないか?

 

キナイの人材を厚くする必要を感じる。

フィゲイレドからは、最低でも5名の補充を要請されているが、欲をかきやがって。しかし、切実なことは私にもよくわかる。日本語をある程度覚えた若いのから、派遣させよう。

 

ああしかし、書翰ならなんとか送り合えるが、エウロパ人に国境を越えさせるのは難しいぞ。フィラド経由でも、確実にサツマへ通報されるだろう。慎重に考えねば。

ブンゴの勝利は望み薄だが、せめて交渉を有利に運ぶには、サツマの泣き所を掴んでおく必要がある。

それは何か?

ないはず無いだろうが、いったい今のサツマに、弱点などあるのだろうか。

 

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