「Lよ。私はFsに会ってきた。以下覚えているままに綴る」
セスペデスからの書翰だ。Lとは私のこと。Fsはハシバ。置換しながら、読み進める。
「復活祭直後にAsが過労で倒れた。Dは彼に休息を与えた。OGSは葬儀を司式するため出立。私はOz教会で聖務を代行していた」
OGSとはニエッキ。死んだイルマンは以前から体調不良をたびたび訴えていた。過労か。正規の報告では、坊主に毒を盛られたとかにしておこう。
「そこへ、Jtの使者がやってきた。教会増築用の木材をAgが運んできてくれることになったが、取り急ぎナイダイジン殿へ礼を述べに来いという。その時は意味がわからなかったが、急かされたので、Jpを1人連れて、舟に飛び乗った。Xcへ連れていかれた」
Jtはジュスト殿。Agはアゴスチニヨ。Jpは日本人通訳。Xcはサイカ。
ナイダイジンとは、つい最近ハシバが手に入れた新しい官位だ。昨年秋、ゴンダイナンゴンとかいう官位に就任し、Ozことオーザカではお祭り騒ぎをしたばかりだが、そこから更に昇進したらしい。
ゴンダイナンゴンはノフカツ殿に譲ったという。馬を乗り換えているような感覚なのだろうか。それにしても雑な扱いだな。
カヅサ殿の存命中、ハシバは官位には無縁だった。柄でもないと、弁えていたか。
それが最近になって目覚めたらしい。
ダイリも、クゲも、気位ばかり高くて常に遊ぶカネを欲しがっているものだから、ハシバがその気になれば官位などいくらでも買えるだろう。
ノフカツ殿に官位を授けたのは、これによるとハシバで、しかも自分はもっと上の官位を手に入れたようだ。
どう考えても敬意を払っての行為ではない。悪ふざけが過ぎるぞ、ハシバ。
「Fsが大軍を率いてキイノ国へ侵攻したことは、大きな話題となっていた。昨年春の開始直後にNO2が裏切り、前線はヲアリへと移動した。だから、2年越しの実現だ。
キイノ国の、NgrとXcは、この1年、Fsの領地を断続的に襲ったが、キシノワダ砦の守備隊がよく耐えた。ここの武将はミノカミといって、Fsの実弟である。Xcではミノカミ殿(以後Mn)にも会ってきた」
ハシバには、五体満足な弟がいる。ミノカミ?
以前はそんな名前ではなかったはずだが。兄の補佐役として、地味ながら有能だった印象がある。
防衛戦を耐え抜いたのか。キシノワダ周辺なら、川を徹底的に利用したな。
「私が到着したとき、Fs軍はXcの砦をひとつ水攻めにしていた。噂にきく、Fsの攻城戦を初めて実見した。
とてつもなかった。地形を完全に変えてしまうのだ。
周辺の住民や避難民、捕虜などを、砦の入口まで追いこんで、ぎっしり凝集させておく。土塀でぐるりと囲みきる。昼夜兼行だそうだ。ここに川からの水を誘導する。砦は水没する。
泳いで逃げだそうとする者は弓や鉄炮で射たれる。それは兵の得点稼ぎになるから皆真剣に狙う。敵の降伏は受けつけない。時々は生け捕りにして剣の試し斬りや火炙りなどの余興にする」
対アキ戦で磨き抜かれたハシバの城攻めが、これか。
貴重な証言だ。それにしても、えぐいな。カヅサ殿の殲滅戦は、相手が頑迷なイコ宗だったからやむを得ずだったが、ハシバのそれは残忍さを競い合わせて愉しんでいる印象を受ける。敵兵だけでなく周辺住民も逃がさないようだ。
そこまでしなくてもよいのではないか?
それとも、すでに目的化しているのか?
「私はそんな軍勢に出迎えられた。退屈していたのか、Fsはすぐに現れた。輿に乗って。
私は恭しく、彼の前に跪いた。
JtはFsの傍を一瞬も離れなかった。重用されていることは疑いない。
今度の一件も、Jtが敵の真新しい建築物を見つけ、これをIHSに寄付したいと申し出て許可されたという。
その建築物は破壊と掠奪の対象から除外され、精鋭土木部隊によって慎重に解体され、この戦役が終わり次第、Agの舟でOzまで搬送してくれるという。すべてFsの一存で決められた」
木材の高騰が甚だしいオーザカへ、そんな贈物をいただけるとは、実にありがたい。さすがジュスト殿だ。
ハシバが絶対的な決裁権を持っていることはわかった。しかし、ジュスト殿が万事うまく操っているようにも読める。セスペデスは気付いていないようだが、どうなのだろう。
「Fsは非常に人懐こい。笑顔には邪気がなく、私にも尊大な態度はとらなかった。
輿からの乗り降りを手伝う従者はその仕事を誇りにしていた。側近たちがFsの世話を焼くのも心から楽しそうに見えた。
これは重要なことに思う。
Fsを殺すことは容易い。あの体にそっくりな身代わりは置けないし、襲われれば逃げ切れない。なのにFsはあまりにも無防備だった。
私が暗殺者だったらどうするつもりか。しかし確実に側近たちが私を取り押さえる。側近の誰かがFsに謀反しても同じことが起き、その者は怨敵として全員から狙われ、コレトウを超える悪魔として書き立てられるだろう。
Fsはそんな前例をつくったのだ」
カヅサ殿が殺されて、まだ4年目。我々の誰もが、未だ、あの記憶を引きずっている。
その呪縛が解けぬうちは、ハシバを殺そうと思う者など、現れないかもしれないな。
「私は、Fsとの会見後、その実弟であるMnの屯所へ招かれ、鄭重な饗応を受けた。
彼もまた、極めて礼儀正しい人物で、私をずっと高貴な存在として扱う立場を崩さなかった。その屯所には、名だたる武将も次々と挨拶に来て、皆、Dの教えについて聴きたがった。
Jtのような名将になりたくてという憧れが原動力のようである。かれらの真剣さには胸打たれるものがあった。
Lは、OGSの要請にも、Fsへの協力にも、常に否定的だが、再考を願いたい。
今後、Fs軍の兵たちへの授洗を拒む理由を思いつけない。むしろ、この勢いに乗れば確実に教圏を拡大できる。
人員や予算の問題もあるだろうが、この機会を逃すことは大きな損失だと思わざるを得ない。
キナイの宣教師は全員が絶望的な過労の只中にあるが、現場でできるだけの努力をする。シモからの支援を切望する。GS」
グレゴリオ・セスペデスにそこまで請われては、断れまい。
しかし、私はいつハシバへの協力禁止など命令したかな。確かにハシバは嫌いだが、そんなに具体的な否定はしていないつもりだったがな。
ハシバ兵を、どんどん教化せよ。ジュスト殿の権威も更に高まろう。
ただし、ハシバ自身へ授洗することは、慎重に回避すべきだろう。大物だからコエリュの承認が必要だとか言って引き延ばせ。
奴は、やはり信用ならん。