戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1585/005.hmos

ハシバはサイカを制圧した。

そのあと直ちに、アワ島攻略へ転戦した。

 

現在はトサ島と呼ぶべきかもしれない。アワもイヨも、トサ王の支配下に置かれてしばらく経つ。

アゴスチニヨの海軍が大活躍する戦場となるだろう。とはいえ全軍を一挙に送りこむことは不可能だ。順番を待ちながら手持ち無沙汰になる兵や部将も出てくる。

そこで、お勉強の時間だ。

 

セスペデスたちに、どんどん授洗せよと指示を出した途端、信徒数の拡大が急激に加速した。

ジュスト殿が常日頃からハシバ軍の兵たちにデウスの何たるかを説き、その規範を行動で示してくれているおかげもあって、堅信を求めるに足る基礎教育にかかる時間は大幅に短縮できている。

そして更に、優秀な信徒が求道者を教え導く好循環も生まれていて、このままいけば自然とハシバを取り囲む鉄壁の包囲網が完成しそうな勢いにも見える。

 

私はハシバが霊名を欲しがるのではないかという危惧を抱いていたが、当面、そんな様子は無い。セスペデスによると、ヤクインとかいうハシバの専属医者が坊主崩れで、事あるごとにデウスへの中傷をナイダイジン殿へ吹きこんでおられるそうだ。なんと理想的な状況だろう。

 

私はこんな夢を抱く。

ハシバを謀反によって殺した者は、別な者たちから殺される。そんな血生臭い混乱は二度とあってはならないが、ヤクインが薬によって主人を殺し、自らも服毒して幕を引くという展開はどうか。

遺書や自白などはいらない。

すべて信徒たちがお膳立てし、秘密は永遠に保たれよう。

ジュスト殿はじめ筆頭家臣団の全員が信徒となり次第、決行する。

後継者というより新たな王だが、これはジュスト殿でもいいし、ノフカツ殿をお迎えしてもよい。いずれにせよ平和的に、合議をもって全ての展開を我々が指導するのだ。

願わくばブンゴが滅びる前に新王が決まり、サツマに「兵を退け、さもなくば」と威嚇することができればと思う。

だから私は今なんとかしてサツマの役人たちから、最高の毒薬を手に入れることができないだろうかと、知恵を振り絞りまくっている。

 

ヤクインに限らず、キナイ全域で、坊主の抵抗が最近また強まってきた。

ハシバ兵たちがどれだけデウスの教えに目覚めようとも、故郷の家族たちが坊主にそそのかされて猛反対するがゆえに受洗へ踏み切れない、という例は多い。

また、私たちはこれまでハチマンを代表格とするカミ宗をフォトケの一派として扱ってきたが、いま一度区別して観察するよう、セスペデスに忠告した。

その結果、フォトケだらけのミヤコでも意外とカミは健在で、日本人の伝統行事のいくつかはフォトケでなくカミを崇めるものだということがわかった。

 

庶民の信奉する行事の範疇なら無害なものだが、兵士の間では、出陣前の儀式をハチマンに捧げるべしと規定してある場合が多いそうだ。

勝利するためにはハチマンに祈れ、という類いである。

カヅサ殿の軍ではそんな行事を見た記憶がないし、ハシバ軍に属する何百もの部将たちのどれほどがハチマン派なのかわからないのだが、兵士によってはハチマンを裏切ると戦争で勝てなくなる、と心配して受洗を拒む例も出てくる。

これらには個別の対応が必要となる。

 

さいわい、一つ一つの問題にすべて宣教師が当たる必要は無い。

ジュスト殿の友人で、シメアンという部将がいる。父親の代からハシバに仕えているそうだ。彼はとりわけ交渉術と説得力に秀でており、こんな風に説明をする。

 

「デウスはすべてを創りたもうた。すなわちハチマンも、デウスに従えるいち部将なのである。ハチマンに勝利を祈願することは、すなわちデウスへ忠誠を誓い実行することに等しい。

ところで、デウスはハチマンよりずっと高座におられるのだから、ハチマンへ向かって祈るより、デウスに直接祈るほうが、より確実にその力を享けられよう。

心配は無用だ。君のハチマンは、デウスだったのだ。

これからはデウスを信じ、デウスへ祈れ」

 

キナイでも、シモでも、信徒になれば自宅にある仏像や、高いカネを払って買った紙切れの類いを、すべて廃棄せねばならない、それができないからと悩む求道者もいる。

これについてはコエリュは未だに強硬派だし、すべて焼却してからでなくては洗礼を認めないとする会士もまだ多いのだが、私はもう少し緩和してもよいと考える。

幼児が愛着のしみついたおもちゃを捨てられないのを、無理矢理ひきはがすのは酷だろう。

なんの価値もない、穢らわしくて汚臭漂うボロ雑巾であっても、本人が諦めきれないなら、そっとしておいてあげよう。少し大人になれば、自然に、お別れのときはやってくる。

納得してから自分の手で火へくべればよいではないか。

巡察師も、そういう考えだったはずだよ。

それでいいのだ。私たちは誰でも、大人になれる。

もっとも大人のくせしていつまでも古い因習に囚われ続け、その愚かさを他人にまで押しつける連中は話が別だ。いわゆる、坊主だが。

 

私は、こんな夢も抱く。

敬虔な信徒だけで構成される、新王の体制下では、国是としての教育一元化が可能であり、また最優先課題のひとつとなるだろう。

カミでもフォトケでも、邪宗を奉じる者には刑罰を与える。絶対の真理に基づいた、正しい法整備を進める。

あくまでも改心を拒む反社会勢力には、軍隊を派遣し公正な裁きにかける。

この実行力において、我々はきわめて有利な立場にあり、どう足掻いても坊主たちは抵抗することができない。

平和は迅速に達成できるだろう。

 

ハシバにはそのための下地づくりをしてもらう。

 

トサを制圧したら、シモ島の目の前に前線基地ができる。アゴスチニヨが陣を構え、ブンゴを守ると宣言するだけで、サツマは身動きを封じられるだろう。

駄目押しでダイリに停戦命令を出させることだって可能だ。ダイリは、ハシバの言うままに動かせるのだから。

 

想定外の事件さえ起こらなければ、一年以内にこの状況が現出する。来夏、マニラからの威嚇艦隊が来てくれるなら、丁度よい頃合いだろう。

ああ毒薬もマニラから直接持ってきてもらえば手間がかからないではないか。致死量と用法を正しく説明してもらった上でキナイへ届け、ハシバを殺そう。完璧な計画だ。

 

どうだ。完璧すぎないか。

あと一年耐えれば、私たちは、完璧な勝利を掴める。

日本は楽園となるのだ。ついに、ついに。

 

最後まで気を抜けないぞ。

セスペデスたちに、指令を送ろう。ハシバ軍の部将すべてを信徒にし、コンパニヤの指揮に忠実に従うよう、教育を施すべし。

決して難しい話ではないはずだ。デウスの導きどおりに歩めばいい。

 

その先に勝利が待っている。

日本人を理解力ある大人へと導く道が。

まっすぐ、目の前に。

 

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