戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

233 / 328
SengokD.1585/009.hmos

ツノ国、タカツキ。

ダリオ殿、そして息子のジュスト殿がここを拠点にして、15年ほどになる。

 

ミヤコ、サカイ、サンガ、オーザカ、アマンガサキなどを結ぶ中継地であり、要衝。

住民は皆デウスの敬虔な信徒だ。復活祭や降誕祭には、わざわざミヤコからタカツキへ赴いて、ここで聖体を拝領する者も多かった。

ジュスト殿が領主になってから、ヴィルトゥスの輝きは一段と強化された。アヅチの街が焼かれたときも即、移転先はここに決まった。

そのジュスト殿が、ハシバから数々の功績を認められ、栄転となる。

新天地は、ハリマ国アカシ。

タカツキからは西へ2日の距離。もう1日かければムロへ着ける。首都圏からは遠すぎて、キナイとは呼ばれない。

 

ハシバの領地転換は、こうして我々の身に降りかかってくると、実に迷惑きわまりないものだな。タカツキの周辺から領主を追い出して、タカツキを中心として領地を拡げてくれるような対応をとれなかったものであろうか。

 

信徒たちの中にはアカシへついていきたい者も多いようだが、ハシバの検地を経たあとでは移住は原則禁止とされる。

タカツキを与えられる新しい領主が、信徒とは限るまい。これから教育していかなければならないが、ジュスト殿ほどの名君にはなれなかろう。

そういった様々な問題が生じ、住民たちは深い悲しみに囚われている。

 

パードレ・フランシスコ・パシオを中心とした若干名の会士が、なんとか無事、キナイへ到着した。

今年の初め頃アマングチまで辿りついたが、その後二転三転し、一時はシモへ逆流したとも書いてある。

ともあれ、ひとりの捕縛者も出さなかったことは快挙に違いない。

人員をどう割り振るかは地区長のフィゲイレドに一任してあるが、最優先はハシバの側近たちを信徒で固めることだ。まずは将を射止めよ。下々の対応は日本人イルマンをうまく指導して任せるべし。

 

計算違いが一件、発生した。

ハシバ軍はトサ島を征服後、シモ島の対岸からサツマに圧力をかけてくれると我々は期待したのだが、かれらはトサ王と妥結したあとでカミ島へ戻ってしまった。

そして領地の分配と軍の再編を行い、休む間もなく今度は北へと侵攻を始めた。

キナイの北といえば、エチゼン、カンガと続く雪深い一帯だ。地域名としては、クヌカともいう。

シバタ殿が滅ぼされてからは、彼の家臣でハシバへの忠誠を誓った者が統治を任されていた。これにキノ国やトサ島で手柄を立てた部将から異議が出る。分不相応ではないかと。

そこで次の手柄を求める兵団が大挙して乗りこんだわけだ。

エチゼン側は、トサ王同様、戦闘が始まる前に降伏宣言。領地は再分配されることとなった。

 

ずいぶん物わかりのいい日本人が増えてきたものだと呆れもするのだが、あまりに展開が早すぎてもう少しこう、張り合いがあってくれないものかと、欲求不満が湧いてくる。

むしろシモの戦乱が緩慢に見えてきて、そちらへの不満を隠せなくなってきてしまうのだ。

この流れの速度差は、いささか健康に悪い。

 

収穫期を迎えて、ブンゴとサツマの戦闘は中断した。

夏の間は山の中で一進一退。双方が手を出しあぐねていた。その動きがやみ、このまま春まで休戦しそうな雰囲気になっている。

だが来春、戦闘再開と同時に、勝敗は決しよう。

私の予想では、ブンゴが敗れる。

根拠を述べよう。サツマ軍は大量の鉄炮を保有している。

ブンゴ国から奪ったものもあれば、スコから入手したものもある。サツマ国内でも生産を始めたという噂がある。

そして火薬の原料となるサリートリを、今年の船団長パイスが、サツマへ大量に横流ししていたことが発覚した。

アマカウから運んできた分を船内で死蔵させておくのはもったいない、とシレッと抜かしやがったが、日本に対する最大の戦略物資を何だと思っていやがるのか。

しかし覆した盆の水は元に戻らない。サツマはついに鉄炮隊を使い始める。

もはやブンゴに勝算はない。

 

この一件で、私は反省した。

サツマの役人から毒薬を手に入れようと考えていたが、あまりに遠回り過ぎるし、秘密を保てるとは思えない。船団長も信用ならない。

そこでアマカウのカブラルに親展をしたためた。私の名前でだ。

カブラルから直接、毒薬を送ってもらう。

来夏に間に合うかどうかは保証の限りでは無いが、再来夏には届くだろう。それまでハシバは生かしておいてやる。

ブンゴ国が先に滅ぶのを見るのは忍びないが、やむを得ない。この計画は、秘密が保たれることが何よりも肝要であるのだ。

 

厭な話ついでに、キナイの便りからもう一つ語る。

ホンガンジが復活した。

イコ宗の頭領である。城を焼いてオーザカから退場し、キノ国へ隠れ棲んでいた。カヅサ殿が殺されてからは、シレッと旅行する姿も目撃され、節操なく、これからは誠実に生きますなどと遊説を始めたとセスペデスが報告している。

セミナリヨの秀才ファビアンによる補足も付されている。ホンガンジはオーザカに移住してきてテラを構え、イコ宗を再集結させているそうだ。

にわかには信じがたい。

カヅサ殿と共に苦汁を舐めたジュスト殿やハシバが、やつらとの戦いを忘れたはずはないだろうし、ゼン宗やフォッケ宗などの仏宗各派にとってもホンガンジは身内の恥であり最大の犯罪者集団だ。同類と見做されてはたまるまい。涼しい顔で往来を歩いていたりすれば、その場で八つ裂きにしたいだろう。

それだけのことを、やつらはしたのだ。

 

なのに、なぜ、かれらはオーザカへ戻ってこれたのか。

報告によればハシバが直々に許可したとある。

ますます意味がわからない。

地所を与えられ、活動を認めるという朱い印を付された免許状を玄関入口に堂々と掲げている。そのためオーザカの民衆は、自分たちの権限でイコ宗に営業停止を命じることができない。

 

オーザカでは市民同士の争いが犯罪とされており、とくにカタナを携帯して歩けば没収。拒絶すれば即逮捕。という厳しめの法律が施行されている。

ナンガサキのような殺し合いは起きにくいらしいが。それもおかしい。イコ宗そのものが犯罪ではないのか。

反社会活動の極みであり、地上から根絶させなくてはならない悪魔の化身そのものだというのに。

そんなトチ狂った民法がなぜ、まかり通るのか。理解に苦しむ。

 

なんとか解釈するとしたら、キノ国に隠れさせておくよりは、お膝元のオーザカで監視しておく方がまだしも安全、といったところだろうか。

民法があるからイコ宗が反乱をくわだてることは未然に防止できる。もしくは、ある程度油断させて地方分派とのつながりも突き止めたところで武器集合罪か何かで一網打尽にして叩きつぶすという作戦か。だったら申し分ないが。

ハシバにそこまで知恵が回るものだろうか?

 

セスペデス。オーザカのイコ宗は、役人に任せず、我々自身でも監視を続けてくれ。いずれ新王が誕生したときに、上記方針に沿って速やかなる排除を行う必要がある。

来夏か、遅くとも再来夏だ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。