戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1585/010.hmos

ブンゴ国西辺。

山に囲まれた一帯に、タチバナという城がある。

ここの主が亡くなった。

 

齢は100とも200とも。

その生涯をただひたすらブンゴ国の平和に捧げ、近年はスコとの戦闘に明け暮れていた。

若い頃の戦で負傷し、寝たきりの生活を続けながら、軍を指揮することにかけては生涯一度も誤りを犯さなかったと語られる。

こういう伝説をつくってしまうと幕引きが難しくなるものだが、サツマとの戦闘が激しくなってくるにつれ、いつまでも生かしておくわけにいかなくなったのだろう。

 

死因は、病気。眠るように息絶えたとも聞く。

ああ、タチバナ殿がいなくなったらいよいよブンゴはおしまいだ。そんな叫びが、かの国の各地で囁かれたことであろう。

 

この人物はたびたびデウスに対して中傷を行った。ことにドン・フランシスコが悪妻を離縁し、信徒となって清く正しくパライゾへ向けて歩き始めたことを、いちいち回りくどい言い方で批難した。

フナイやウスキで、そんな書状を幾度も見た。

古今東西、怪文書をばらまくような手合いは姑息で卑怯者で薄汚いウジ虫のようなゴクツブシに決まっているが、つまりタチバナとはそういう男であり、あるいは、そういう連中にとって非常に都合のよい伝説であったわけだ。

ごくろうさま。これからはインヘルノで好きなだけ、踊り明かして暮らすがいいさ。

 

それでもタチバナの兵たちが今もサツマの猛攻に耐え抜いていることは事実なので、かれらの戦闘能力がブンゴ軍の中でもきわめて高いということは、私も否定しない。

ちなみにタチバナは、いつ襲いかかってくるかわからないスコと向き合っていた関係上、ヒュウガ侵攻には参加していない。

あの大敗北直後、タチバナ殿さえ戦列に加わっていればという声もよく聞かれた。

地形がまったく異なるし、攻守も真逆なのに、このような感想を述べる者は素人の中の素人だ。

そんな愚か者が、当時よりも増えているのではないかという雰囲気を私は感じていて、たいへん嘆かわしい。

ブンゴ国は、いよいよ本当に、おしまいかもしれない。

 

反対に、攻めるサツマは高度な戦術を見せつけた。

タチバナ城の士気を維持するためヨシムネは増援を送りこんだのだが、その直後、南側のヒュウガ国からサツマ軍が飛びかかってきたのだ。

こちら方面からの攻撃は想定されておらず、ヨシムネは彼に従順ではないはぐれ者集団を配置させ、食糧も武器も与えなかった。

もし本物の愚か者しかこの場にいなかったら、あっさり、サツマはウスキまで辿りついていただろう。

 

南城守備に回されていたのは、デウス信徒だった。

ブンゴ国内で、フォトケとカミからいじめ抜かれ、出世の道を閉ざされながらも屈伏せず、教えを貫き通す、真の戦士たちだ。

本物の人間しか、ここには送りこまれなかった。

 

中央の政庁と西域の主戦場で、愚か者の濃度が急上昇すればするほど、南域ではヴィルトゥスが高まる。

徒手空拳の兵士たちは手を取り合い知恵を出し合って、防衛線を強化していった。

そこに、サツマが襲いかかってきたのだ。

 

激戦だったという。

サツマ兵を大勢殺したが、デウス信徒の犠牲も夥しかった。しかし、撃退した。

もちろんだ。デウスが、かれらに祝福を与えないわけがない。

ここまでが、ブンゴ上長パードレ・ゴーメスから極秘裡に送られてきた報告の要旨だ。

私は感動している。

 

ここからの展開を予測しよう。

ヨシムネ配下の愚か者集団は、この結果をどう評価するだろうか。

デウスの力を思い知ってくれてもよいが、中央から無能な指揮官を配属されたり、生き残った精鋭部隊を西域に転地されたりするのは願い下げだ。

ヒュウガ方面からの第二波に備えて、武器に資材に、それから信徒だけを補充してもらいたいところではあるが、現実的な可能性としては、状況を理解できず議論ごっこだけに明け暮れてそのまま時間だけを無駄にしてくれるのがよい。

余計な邪魔さえされなければ、信徒は自分たちの力で生き抜く手段を見つけるだろう。

 

サツマはどう考えるか。

今回の戦術には、ナカツカサが仕掛けたような匂いを感じなくもないのだが、確信は持てない。

だが、ナカツカサあるいは同じくらい頭のきれる奴が試みた作戦だと仮定すれば、ブンゴの南域と西域とで兵の質が桁違いだということを、すぐに理解するはずだ。

今回は、してやられた。次は、どこから攻める。

南は、なしだ。

数は多いがグダグダで指揮官を欠いたタチバナ方面から攻める方が勝機は見込める。

そう考えてもらえれば、愚か者を一気に減らせて私たちも嬉しいのだがな。都合よく期待しすぎかな。

 

パードレ・ゴーメスよ。そして、ブンゴに閉じこめられている会士、および信徒たちよ。もう少しだけ、耐えてくれ。

来年、大きな作戦を始動する。

まだ詳細は語れないが、現在ナンガサキにある総本部から、我々は移動する予定だ。

春以降は一時的に連絡がとれなくなることを了解されたい。

ナンガサキ上長にアントニオ・ローペス、アリマ上長にベルシヨール・モウラ、フィラド上長にジョワンニ・バティスタ・モンテを指名しておくが、危険が大きい場合はかれらも姿を隠さねばならない。

信頼できる信徒を慎重に見極め、情報は必要以上に隠匿せよ。パードレを1人失うくらいなら、5人のイルマン、あるいは500人の信徒を失う方がましである。

マルチルはさせてやれ。しかし、するな。

誇りあるコンパニヤの戦士には、これだけで伝わることを確信している。我々はデウスと共にある。

日本布教長パードレ・ガスパル・コエリュ。

 

書いてないことが伝わるわけもないのだが、こればかりは仕方がない。

ナンガサキから脱出するには決死の覚悟が必要だ。

サツマの役人たちを出し抜くために、知恵と勇気を総動員して尚、鉄壁の秘密保持が要求される。

たとえばコエリュになんて、計画をひとことだって、知らせておくわけにはいかない。

 

彼も連れて行くのだが、直前まで、サツマに従順なイヌのふりをしていてもらわねば困るのだ。

 

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