戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1586/006.hmos

ミヤコへ来たら、ぜひ、ベルシヨールに会ってみたかった。

 

しかし、その夢は果たせなかった。彼はとんだ喰わせ者で、入信したのも、結局は自分の名前を売るためにすぎなかったのだ。

ベルシヨールを慕う信徒や求道者を巧みに口説いて、自著や薬を買わせ、崇拝者の下にさらに崇拝者を育成させてゆく。

咎められると、屁理屈で応戦する。

 

「忠告には感謝をしよう。ただ、ひとつ確認しておきたい。

君たちは聖書を、すなわち御主の言葉を、きちんと正しく読んで、理解しておるのかな。

たとえばだ。聖書には、イスラエルやバビロニアなどの土地は出てくるが、日本は登場しない。

ファリサイ人やサドカイ派のような異教徒は出てきても、神道や仏教については言及すらされない。

君たちは暇さえあれば坊主を苛めるが、御主はそんなこと、お命じになってはおらぬぞ。

こんな誤解や歪曲が甚だ目につくのは実に情けない。もっと勉強したまえ。私が助けてやるから」

 

広告塔から説教されては、従僕だって面白くなかろう。ベルシヨールはすっかり反感を買った。

そんな諍いが続いて、最近はめっきり姿を見せなくなったそうだ。

自宅で診療は続けているらしい。行ってみてみようかな。と考えていたところに、オーザカのコエリュから、呼び出しをくらった。

 

全国から連日、信徒が布教長へ会いにやって来る。

通訳ならいくらでもいるが、気の利いた受け答えがコエリュにはできない。

しどろもどろになり、挙動不審になり、情緒が壊れて泣き始める。だから私に戻ってこいという。

まったく、置物の代わりにもなれないのか。

やれやれと呆れつつ、余計なことを喋られても困るので、特急料金で帰った。

 

来客のひとりに、ドン・フランシスコがいた。びっくりだ。

ブンゴから出てきたという。サツマの侵攻を食い止めてほしいと、カンパク殿に泣いてすがるために。

専属につけていたパードレ・ラグーナはウスキに残してきたそうだ。目を離さないようにと申しつけておいたのだがな。減点に値するぞ。

会見の予定は、2週間後。

私たちが話をつけているからもう大丈夫ですよ、とは気の毒で言えなかった。だがブンゴの熱意を見せておくことは無駄でもないと思うので、力強く応援しておく。

 

ヂシピリナを求められた。

もう高齢なんだから無理しなさんな。と言っても聞く人ではない。

ほら、もう素っ裸で尻をこちらへ突き出している。

手加減せず、しばく。

さすがに苦しそうだった。でも、これが効くのだという。

感謝される。まあ、いいか。

 

我々はカンパク殿に布教許可証の発行を願い出ていた。カヅサ殿からいただいた証文のまま、いつまでも掲げておくわけにもいかないからだ。

内容は同一で構わないと思っていたのだが、カンパク殿から修正案が届いていた。

コエリュは、こんなことすら自分で判断できないのか。

私は読み、感嘆した。

我々の草案では、カンパク殿の治める全領土において、なんらの妨げなくデウスの教えを説いてよいとする許可を求めていたのだ。

これをカンパク殿は、生ぬるいぞと改める。

日本のいかなる場所であろうとデウスの教えを説く自由を冒す者は即処罰する、と。

 

カンパク・ハシバよ。

あなたは信徒ではないが、デウスの何たるかを正確に理解しておられる。学者を気取るベルシヨールよりもずっと実直で潔癖だ。

あなたは、パライゾへ往くべきだろう。

私はカヅサ殿に救済を与えることができなかった。しかしあなたのアニマはパライゾへ届けたい。いずれその時がきたら私に洗礼を授けさせてほしい。それまでこの国の平和と秩序を守り、犯罪者に厳罰を下す正義の裁判官であっていただきたいものだ。

 

私は自分がおかしくてたまらなかった。

ほんの半月前まで、この悪魔をどうやって抹殺すべきかと、あれほど考えていたというのに。

ふしぎだ。しかし、これでいいのだ。

 

オーザカへは、ヴィセンテもやって来た。ディオゴ殿の長男で、ルカスの義弟にあたる。

海軍司令官アゴスチニヨの家臣として、すっかりたくましくなった。海の男だ。

 

アゴスチニヨはセト内海各所に拠点を持っているが、この度、ユノ島も与えられた。内海に浮かぶ島の中ではアワジの次に大きく、住民も数千人を数えるという。

アゴスチニヨはさっそくユノ島に城と教会の建設を始めた。ついてはパードレを1名派遣してもらえまいか、という。

協議の結果、セスペデスを任命する。キナイからは少し遠くなってしまうが、アゴスチニヨの軍船をいつでも好きに使えるわけだから、機動力は計り知れないほど大きくなる。シモからの航路も、ぐっと安全になろう。

これから島民に教育を施すことで、経済的な発展も見込める。十年後には、大都市になっているはずなのだ。

 

夢のような話がいつまでも繰り広げられたのだが、決して絵空事ではない。

サカイの生まれで親族にも友達にも商人を多く持つアゴスチニヨは、セト内海の海運を掌握し、流通に一大変革をもたらそうと意気込んでいる。

実際問題としてアキ軍と交戦する可能性がなくなった現在、海軍司令官という肩書きは適切ではないのだ。平時における彼の任務は治安維持と遭難者救助である。トサ島へ侵攻したときも、兵員・食糧・資材などの搬送だけで終わってしまった。

アゴスチニヨに海上で戦闘を挑める勢力は、もはやイセイ湾のクキ一族くらいだが、かれらもハシバ軍の一翼である。どちらがどちらの領海へ攻めこむことも現実的にありえない。

 

アゴスチニヨの野心とは。

セト内海に港を持つすべての町を傘下に従え、緊密な商圏を形成する。商慣習と度量衡を統一させ、公正な競争を促進し、災害や不漁などの問題が発生すればただちに救難と支援に向かえる態勢を構築する。

ユノ島は、その中心的な集約基地に最適な環境を備えているという。

島民が全員デウスの信徒となってこの事業に協力するならば、今後一年ごとに収益を倍々していける自信がある。そうアゴスチニヨは豪語している。

まったく大した男だ。

セスペデスよ、頼んだぞ。これほどやりがいのある大役はそうそう巡ってくるものではあるまい。私からのささやかな贈物だ。

 

カンパク殿からの許可状が完成し、二部届いた。一部はゴアへ送られたしとのことだ。

それならもう一部つくってもらってラウマにも、とはさすがに言えなかったが、カンパク殿の並々ならぬ我々への信頼はもはや疑う余地がなかった。

噂はたちまちキナイ全土に広まり、訪問者がますます押しかける。

我々は夏までにシモへ戻らねばならなかったのだが予定をひと月も超過し、さらに帰路、イヨ国へも立ち寄るよう強く勧められた。

連絡もしておくと言われ、断りきれなくなる。まあいいか。

イヨ国といえばブンゴの向かいだ。サツマを牽制し、派遣軍と救援物資を集積する最大の拠点である。

視察して、激励し、将来のための種蒔きをしておくことは大いに有益なことである。

良い機会を与えられたと考えよう。

 

もう白状してしまうが、今夏の定航船は、ナンガサキへは入港させない。

私たちは、カンパク軍が動かなかった場合でもナンガサキへは戻らないと決めて出発したのだ。代替地は最終的にフィラドで決定した。パードレ・モンテに託した指令が、ローペスやモウラにも伝えられているはずだ。

 

当初の想定よりも、状況はありえないほど好転している。このまま突き進もう。

我々がシモへ戻るとき、サツマよ、おまえたちの野望は完全に粉砕されるのだ。

 

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