戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1586/010.hmos

ナンガサキから、特使が派遣されてきた。コンフラリヤの代表団だ。

すなわち町の顔役であり、住民たちとパードレ、そして役人どもとの狭間に身を置き、重圧を一手に引き受ける立場の男たちである。

 

私たちは四旬節にシモを脱出した。まんまと欺かれたサツマの怒りは熾烈であった。何人もの従僕や信徒が捕えられ、折檻を加えられたという。

しかし裏切者は一人も出ていない。

今もローペスは隠れ家に潜み続け、ナンガサキが悪魔の手に堕ちることを防いでいる。デウスの怒りに比べたら、サツマの拷問など、蜂に刺された程度の痛みにすぎない。

やがてサツマはあきらめた。だがしかし。

布教長がアカマまで戻ってきたことを、どこかから聞きつけてきたらしい。そこで、信徒たちに、連れてこいと命令した。

戻ってこなければ、家族たちを殺すぞと言っている。それは気の毒ですから、コエリュ、行ってあげてください。

 

「フロイス?お前は……来ないのか?」

 

ええ。私はこれからシメアンとウルツ城を攻略してきますので。通訳は寧ろいない方がいいと思います。あなたは、口が軽いから。

 

「わしは……殺されてしまうぞ?どうして、そんな、恐ろしいことを、平然と、言ってのけるのだ、お前は」

 

コンパニヤの戦士でしょう、あなただって。マルチルとなる覚悟はいつでもできているはずです。それに、サツマが要求しているのは布教長の身柄なのです。私まで行ったら、二人も死んじゃうことになる。

 

「フロイス、お前は、わしの秘書だ。布教長として命じる。一緒について来てくれ。お願いだ、頼む」

 

分散投資の原則により、却下いたします。貴重な人的資源は有効に展開させるべきだからです。デウスの教えに叛く非合理的な命令には従えません。以上です。

 

なおも泣きじゃくる豚をコンフラリヤ組長たちの腕に委ねて、私は海岸沿いに南下する。

海からの風が肌を突き刺す。コクラからウルツまでは10レグワもないのだが、シメアンの駕籠に随行したので、丸一日かかった。

着くと先発隊がすでに城を攻囲していた。

 

日本の最涯て、薩摩の衆よ

中央はお前たちの名も知らない

名誉も栄光も享受したことがなく

貧困、貧弱。自立もできず

必要にかられて掠奪で命をつないできた

仏僧と陰陽師を滑稽なまでに敬い、尊び

国主は姻戚を結びて、かれらに跪く

薩摩、嘆かわし

薩摩、嘆かわし

いま楽にしてやろう

楽にして進ぜよう

 

挑発的な合唱が、城へ向けて繰り返し繰り返し、捧げられる。

これは相手の冷静な判断力を奪う、効果的な戦術だな。今ここに楽器があれば、私も伴奏してやるのに。

歌は、いいものだ。

兵たちの心も一体になってゆく。

日本人からこんな発想を学ぶ日が来るとは、思わなかったよ。

 

フナイからの、新たな情報が入る。

サツマは侵入して3日後に撤退していったという。ウルツへの増援に回されたか?

どうやら、違うようだ。ヨシムネの兵がしつこく抵抗して撥ね返したということだろうか。

 

ただ、市内はかなり荒らされたらしい。

掠奪ももちろんひどかったが、サツマは食糧や物資よりも、人を攫ってゆくのだという傾向を掴む。子供、それから女。男はただ殺すだけだという。

 

戦場において人攫いは特段珍しい行為ではないが、ただちに後送してゆく専門部隊までいるとなると、明確な意図の存在を認めざるを得ない。

労働力を欲しているのなら若い男をこそ捕まえてゆくはずだが、これに見向きもしないとなると、幼少期から躾けていく家庭内奴隷が思い浮かぶ。

組織的に売買する市場があるというのか?

ゴアやマラカならばともかく、日本ではあまり見ない光景だ。サツマ特有の地域的取扱品目なのだろうか。聞いた記憶が無いけどなあ。

 

ブンゴ上長ゴーメスは、フナイからの避難を決定した。

祭具や帳票、もちろん私の保管してきた資料類も可能な限り船に積んで、アカマへ持っていこうとしたのだが、そこに妨害者が立ちはだかった。

サヌキ国からの派遣兵団だ。軍団長は、センゴクという。

 

ひどい噂ばかりなので、さすがに真実ばかりではないと願いたいが、サヌキ兵はフナイへ来てからずっと我が物顔でそこに居座り、無銭飲食に接待の強要、欲しいものはなんでも持ち去り、小便やゲロの跡で縄張りを示し合うという醜態を晒し続けていた。

市民はひたすら耐えてきたが、ついにサツマが侵入したとき、サヌキ兵が敵と戦うどころか一緒になって掠奪をして回るに及んで、とうとう声を上げたのだ。遅すぎるんだがな。

 

ゴーメス以下、パードレたちは一貫して信徒たちをサヌキ兵からも守り抜いてきた。しかし次にサツマが攻めてきたらもう助からない。そう判断して、避難を決めたのだ。これを、センゴクが妨害する。

「ブンゴ国内より、いかなる物品も持ち出すことは許されない。現在あるものはすべて、領国の財産だからである。これは国主ヨシムネも承認したことだ」そうセンゴクは抜かした。

相手が日本人なら、そんなゴタクで黙らせられるかもしれない。ふざけやがれ。守る力もその気も無しに決まりだけ作って威張りくさるか糞坊主。ヨシムネもヨシムネだ。国主の自覚が少しでも残っているなら、こんなゴミムシ追い払え。

そこまで言ったかどうかは知らぬが、パードレ・ゴーメスは定航船の難破から復活してきた偉丈夫だからな。コエリュやセンゴクとは、生きる覚悟が違う。

 

積み出しは進められており、何があろうとブンゴから脱出してくるそうだ。ぜひ、降誕祭は一緒に過ごそう。

ウルツの兵たちへ捧ぐ讃美歌を聴いているうちに、私もつい、興奮していた。

ほどなく、敵が城門を開く。ただちにシメアンが、全軍突入を命じる。

浜辺に首がどんどん積み上げられてゆき、その数は3000を超えた。

今作戦の目的は、見せしめだからな。ああ、カヅサ殿と過ごした日々を思い出す。私は、信徒たちと、声を張り上げた。

アレルヤ!アレルヤ!

 

「いかがでしたか、フロイス殿。私の実力をお見せしますと言った割には、敵が不甲斐なさすぎました。もう一戦、挽回させてもらわなくてはなりませんかな」

 

シメアンよ。兵の動きを見ていれば、あなたが優れた指揮官であることは、充分わかります。ともかく、ウルツは陥としました。これからどうするつもりですか?

 

「讃岐勢の失態は、私からも関白殿へ申し上げておきましょう。しかし、私の軍が直接府内へ向かうことは、ややこしい事態を招きかねないので、しません。島津の本隊はあちらに引きつけておくとして、この周辺なら主勢は秋月と龍造寺です。反豊後を掲げ、島津の勢いに便乗しているだけの、雑魚というか、蚊虻ですね。もう少し肩慣らししておいても、戦局に影響は及ばないでしょう」

 

なるほど、では、降誕祭までまだ日数もありますし、もうひと稼ぎしますか。どこがいいですかね?

 

「ここからすぐ西に、香春城があります。いかがでしょう?」

 

カワラと読むんですね。はい、じゃあ、そこで。

 

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