ダミヤン・デ・ラ・クルス。
日本人イルマン。チクゼン国出身。17歳までは、坊主だった。
パードレ・バルタザール・ガーゴより霊名を授かり、フナイ教会の従僕として経験を積む。
63年、ミヤコで受難の日々を送るパードレ・ガスパール・ヴィレラを援護するため、従僕団の一員として派遣される。私がミヤコへ着任したのは65年初冬で、ダミヤンはそのときヴィレラの取り巻きの一人だった。
66年、ヴィレラがシモへ戻り、私は孤軍奮闘時代を迎える。多くの日本人が務めを放棄して消えてゆく中、ダミヤンは献身を尽くしてくれた。
68年、シモへ戻り、日本布教長パードレ・コスメ・デ・トルレスの司式により盛式誓願を立て、コンパニヤの兄弟となる。
対坊主戦闘力はカブラルも高く評価していた。こんな逸話がある。76年、ダミヤンはファカタに駐在していた。上長はフィゲイレド。よっぽど相性が悪かったらしく、ダミヤンは辞表を突きつけて教会を去った。
郷里へ戻り、アキヅキの領主に仕官し、すぐ役職に就く。
これをカブラルが呼び戻したのである。あの、日本人を軽蔑することにかけては誰よりも極端だったカブラルがだ。
この事件については、私は最初ダミヤンから聞き、アルメイダやモウラたちへも確認をとった。
ダミヤンがコンパニヤから離脱した経歴は抹消されている。つまり、大っぴらに語ることはできない。だがシモへ戻ってからのダミヤンが誰からも一目置かれる闘士であったことを私が納得するには充分だった。
私とダミヤンが再び相棒となるのは、ブンゴがヒュウガへ攻めこんだ78年以降になるが、実に10年。よく働いてくれた。
戦友よ。パライゾで、悠々と、待っていてくれたまえ。土産話をどっさり盛って、遊びにゆくぞ。
その日、いつものように山狩りへ出かけたダミヤンと兵たちは、少し深酒が残っていたらしい。
アキヅキの兵に襲撃され、応戦が遅れた。
生き残りの兵はダミヤンの骸を持ち帰ってくれたが、喉を小太刀で抉り取られており、短時間で息絶えたことが窺われる。首に掛けたロザリオも赤黒く染まってた。いい感じに歪みもあり、ルカスの形見よりずっと高額な値をつけられるが、私にも思い出深い品だ。よっぽど懐が淋しくなるまではとっておこう。
葬儀をすませ、新年を迎え、なおもカワラ城攻囲戦は続く。
ブンゴ軍から、マテウスという隊長が逃亡してきた。
本人によると、ヨシムネ大将から、許可なく洗礼を受けたことを咎められ追放に処されたとのこと。部下数十名と共に、である。
これだけの精鋭を手離す余裕などあるのかねえ、と冷笑しながら直近のブンゴ軍内情について聞けるだけ聞き出す。
サツマ軍はすでにブンゴ国の中域まで浸透しており、いくつもの城砦を手中におさめている。
第一段階は人攫い、第二段階は遊撃、第三段階は敵陣地への集中攻撃といったように明確な戦術転換が見られ、連合軍はあいかわらず足並みが乱れまくりで有効な迎撃もできず、常に背後から斬り込まれている状況のようだ。
たとえばタケナカという川岸では、整列していた連合軍に対し3倍差のサツマ兵が襲いかかってきて、隊長をしていたトサ王の息子が首をとられたとか。
見事すぎますね、とシメアンは感心する。
「実は連合軍各隊より、救援要請は来ているのです。しかし、どれもこれも、ただ泣き喚いているだけでね。
そんなのに応じていたら私の兵はただ犬死にするだけですから。一人だって遣れません。
マテウス殿は、よければうちへいらっしゃい。いずれ薩摩と相見えるとき、あなた方の助言がどれほどの力となるや知れません」
シメアン。カンパク殿は、いったい、いつ出てくるのだろう。連絡はきてないか?
「二十日ほど前、ようやく、内裏様即位の儀が行われたようです。
徳川殿も参内して、正三位というきわめて高い官位を下賜されました。これでようやく関白殿と徳川殿が正面から戦う可能性はなくなったことになります。よかった」
ダイリの息子が直前に急死して、どたばたしていたんだっけ。孫に継がせたのか。まあ、よかった。
では、もう、すぐにも出立できるでしょう。いつ頃シモへ到着の見込みですか。
「私も早く来ていただけることを願っていますが、徳川殿も含めて諸将からの出兵を募っての大軍勢となります。
畿内では雪も深いでしょう。この準備に、今しばらくの時間はかかると見込まれますね」
ああ、まだるっこい。シメアン殿のように、二手三手先を読んでとっくに用意をしていて然るべきではありませんか!
「言うほど楽なものではありませんよ、軍を動かすというのは。
それに、十数万規模の兵員が山陽道を行進してくるわけですよ。関白殿は、進路上のすべての街道に通達を出し、宿場や橋も整備させ、糧食や救護所なども抜かりなく手配してから出発する方針を貫いてますから、そのための時間も必要です。
慌てずとも、先鋒が出発したという連絡が早馬でここへ届いてから、我々は準備を始めてよい。そのくらいの心づもりで構えましょう」
眩暈がしてくる。サツマの迅速さとは何もかもが正反対だ。
ひょっとしたら、サツマは春までにブンゴを片付けて、そのあとちびちび辿りつくキナイ勢を着いた端から血祭りにあげていく。そんな光景さえ想像できてしまう。
カンパク・ハシバの考え方もわからないではないが、ぶくぶく肥え太って鈍重な肉塊と化したスコ王の末期とも重なる。ナカツカサには手慣れた相手だ。彼がハシバを屠ってくれるなら手間が省けてたすかるが、問題はそのあと。
ジュスト殿は、崩壊したカンパク軍をうまく束ね直してサツマを討てるか?
シメアンはこれを手際よく補佐することが、果たしてできるか?
やきもきしているうちに、カワラ城は陥落した。
恒例の生首並べが始まった。今冬は寒さが比較的穏やかであったが、それにしてもこの日は生暖かく、雪が雨に変わったので見栄えが実に悪くなった。
足もぬかるみ、運動がてら歩き回るのも億劫なので、作業はほどほどでよいことになった。
気分が萎える。
ダミヤンも、最後の戦場がこんな終わり方では不満だろう。脚色してやりたいものだが、さて、どうしたものか。
シメアンの軍は、この後、休止状態へ入る。
私はアカマの指揮所へ戻るが、もっと各地の情報を効率的に集めたい。よい策はないかと悩んでいたらマテウスが手を挙げてくれた。
「パードレ・フロイス。私と部下たちは変装してブンゴへ戻りましょう。抜け道も隠れ家も、知り尽くしています。
7人のパードレたちの所在を教えてください。それから、かれらを信頼させるため、直筆の指令書もいただきたい。連絡を取り合い、必要な情報をアカマへ送り届けます。
なあに危険は百も承知。
必要な装備と金子はシメアン殿より借り受けますので、ブンゴ軍にいた時よりも良い働きができるでしょう。
デウスのためにこの身を捧げられる機会、これ以上の誉れはありません。ぜひ、任せていただきたい!」
おお、マテウスよ。そなたらの気高き闘志、まちがいなく、デウスもお喜びになる。
頼んだぞ!必ず生きて戻れ。