戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

25 / 328
SengokD.1565/003.hmos

サカイの大商人、ディオゴドノ。

ドノとは、日本における敬称である。

 

ボロボロのヨレヨレだった私たちを出迎えてくれ、全員を輿に乗せてくれた。

大きな邸宅で日本風の暖炉にあたり、あつあつのスープをすする。

沐浴もさせてもらった。生きかえった。死んでないけど。

おお、まだ死んじゃいないさ。

たたかいは、これからなのだ。

 

アルメイダは具合が悪すぎたので、安静にさせてもらった。

ディオゴ殿の長女、モニカ殿が、介抱をすすんで引き受けてくれた。

美しくて、芯の強そうなお嬢さんだ。

ほかに2人の娘さんと、その下に男の子がひとりいる。

この一家は、まず子供たちが受洗し、その後続々と親族や従業員へ教えが広まった。

ディオゴ殿も昨年、受洗。

そして奥様も求道中という。

 

私は疲れも吹き飛んだことだし、小ジョアンくんに通訳をたのんで、さっそく奥様への説教を始めた。

子供たちが立派な教師となっていて、すでに聖書の内容も理解しているようだ。

これならいつでも洗礼できますと告げたものの、せっかくだから盛大にやりたいとのこと。

復活祭にどうでしょう。それまでに霊名を選んでおいていただきましょう、と話がまとまった。

 

翌日さっそく私はミヤコへ向かうことにした。アルメイダは、元気になるまで逗留だ。

私と供の者たちの他に、ディオゴ殿は邸の使用人を5人つけてくれた。

そんなに、と遠慮したものの、道中が危険だからと強く言われるので従った。

そうか。ミヤコだものな。

雪道の峠越えとなると、輿は却って危なっかしいそうだ。

いえいえ、もったいない。景色も見たいし、歩きながらの方が体もあたたまりますから。

防寒具だけあつらえてもらって、出発した。

 

オーザカという町へ入る手前で、警告を受ける。

この地域は、坊主の中でも特別に危険な、イコシュウという連中の巣窟らしい。

エウロパ人である私を見れば、石入りの雪つぶてを投げつけてくるだろう。

昼のうちに少し休憩して、夜に宿へつきましょう。気をゆるめず警戒しましょう。そうサカイ衆は提案する。

ものものしすぎる気もするが、従うしかない。

むしろ、ここまでしっかりされていると力強いことこの上ない。信頼できる人たちだ。

 

その信頼に少し疑問が生じたのは、宿についてからだった。

私だけ、狭くて黴臭い部屋をあてがわれた。

食事も、あとで握り飯を持ってくるからという。

え。淋しいじゃないですか。今夜は皆さんとゆっくりお話をしたいと思っていたのに。おあずけですか。

 

理由としては、これもやはり、坊主対策。

宿の主人に通報されては、明日の朝まで生きていられないかもしれない。

一人だけ疱瘡の患者がいるので、という説明をして、部屋を別にしてもらったのだそうだ。

こう言っておけば、宿の使用人や按摩売りなどが尋ねてくることもないからという。

 

わかりました。廊下越しの、楽しそうな笑い声をうらめしく聞きながら、私はおにぎりを頬張ります。

うおおん。せつないよう。

 

祈りを捧げてすぐ寝たのですが、夜中に目が醒めました。

外が、明るいような気がします。月は出ていないはずですが。

扉を開けてみると、敷地の外れに、燈火が何本も立っています。人影はありません。

気になって、ちょっと見に行ってきます。

 

ああ、これは邪宗徒たちの偶像だ。

シモでいろいろなものを見ては焼いてきましたが、この像は人間にやや近いですね。

腕が何本も、頭がいくつも付いていたりはしません。

顔も体もふっくらとしており、さぞやいいもの食べてたんだろうなあと思います。

清貧とは真逆の思想です。

細い目で相手をにらみつけています。

いったい何様のつもりでしょう。

どうしてこんな化物を、崇めることなどできるというのでしょうかね。

 

1000年前日本を見つけ侵略を開始した邪宗は、シャカという人間を崇拝せよと説く。

あくまでもただの人間にすぎない。これは坊主たちも認めるところだ。はるか西の異郷で生まれ、死んだ。いつ頃の人間かはよくわからない。

伝説上の、架空の人物だとしても問題はないし、シャカ自身は平凡な男だったとしてもかまわない。

要はそれを祭り上げた詐欺師どもが、ひたすらこの犯罪結社を大きくした。

グロテスクな偶像がたくさん作られ、種類もどんどん増えていく。ぜんぶ揃えるにはカネもかかるし場所もとる。

ここまでくると、悪魔が手を貸したことは疑う余地もなくなる。

 

この像は人間に見えるから、おそらくシャカなのであろう。

敵地でなければ、こんなもの、すぐにでも火にくべるところなのだが、今それをすることは得策ではない。見逃してやろう。

それどころか反省する機会を与えてあげたいと思うよ。まずは教会へ来て説教を聞きたまえ。私たちはいつでも、門を開いている。

体が冷えてきた。考えたら、夜中にこんなところで悪魔とふたりきりなんて迂闊だったかもしれない。

部屋へ戻って、蒲団にくるまった。

 

小ジョアンくんに、起こされた。外はまだ闇だが、騒がしい。

火事だという。

この宿は大丈夫そうだが、町のかなり広範囲で猛烈な火の手があがっており、人々が逃げ惑っているそうだ。

やれやれ。日本は、ほんとにどこでも、火事が多いよなあ。

偶像なんて崇めてないで、防火対策をちゃんとしましょう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。