戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1587/003.hmos

ミョウケン城主、パンタリヤン。

彼こそはブンゴ国再建の柱となろう。

 

現ブンゴ王ヨシムネにも、同情すべき点はある。私はシメアンにすべてを語らなかったが、10年前のヒュウガ国での敗退はヨシムネひとりの責任ではない。

カブラルとドン・フランシスコが、頭ごなしに余計なことばかりして、ヨシムネの指揮を乱した。

それに、ブンゴ軍崩壊のきっかけを作ったのは最前線における狡将チカカタの油断である。チカカタは自分の直衛だけを連れて一目散に逃げ帰り、その後もまんまとウスキ政庁の中核に居座り続けて、今に至る。

ヨシムネは、そんな小狡い大人たちに利用されただけなのだ。

とはいえ、気付くことはできたはず。我々でなく、チカカタやナタに相談して闇の世界へと転落してしまった責任は当人にある。

今から再び這い上がる道は険しかろうが、よく反省することだ。二度と、脇目を振ってはならない。

 

パンタリヤンは、その当時まだ10歳くらいだった。

チカカタにはシマン・ショーノシローという養子がいたが、聡明なるシマンがチカカタを見限ったあと、ドン・フランシスコの次男であるセバスチアンが、代わりに養子となる。

セバスチアンは信徒としてシマンの先輩でありながら、説得する側に加担して論破され馬脚を現すような出来損ないであった。チカカタですら彼をドン・フランシスコに返上して、もう一度おかわりをねだる。

なぜチカカタにそこまでしてやるのかと私は不思議でならないのだが、ともかく、こうして、パンタリヤンはチカカタの邸で育てられた。

 

パンタリヤンが、チカカタの監視下で教会へ通うことも聖書を読むことも禁じられたのに拘らず、信仰を守り抜いたことは称賛に値する。

ドン・フランシスコとはよく会っていたそうで、その際は大いにデウスについて語らったことであろう。

のちにドン・フランシスコは、自分の葬儀では喪主をパンタリヤンが務めるべしとの声明を出す。

ヨシムネは来るな。セバスチアンは来てもよいが静かにしていろ。

ブンゴ王室の内部崩壊を象徴する宣言であるが、これの意味するところは、パンタリヤンが王の後継者として最もふさわしいと、前王が遺言したということだ。

 

17歳となる頃には、パンタリヤンは城の一つを任せられるようになる。

国は荒れており、赴任先は何度か替わった。ドン・フランシスコの実子とはいえチカカタの跡取りであったから、ヨシムネの直接指揮下にはない。比較的安全な要衝で、支援的な業務を担当する。

パンタリヤンは幼少時から姉妹たちに囲まれて過ごしたため、物腰が柔和で、相手の機微を察する能力に長けている。チカカタの監視が外れた途端、家臣や領民たちが続々と洗礼を希望するようになり、パードレやイルマンが呼び出された。

チカカタは実娘をパンタリヤンと結婚させたが、この妻もすでにマルタという霊名を授かっている。

ヨシムネの家臣だったマテウスと部下たちが、洗礼後追放処分を受け、パンタリヤンと連携してミョウケンを囲むサツマの兵を撃退した。その城では、デウスに叛いたためにすべてを失う寸前まで堕ちぶれた現王ヨシムネが、侘しくホゾを噛んでいる。

 

ミョウケンの安全は確保されたとはいえ、ブンゴ国の大半はすでにサツマの支配下にある。イヨ国へ逃亡した連合軍はカンパクにどやされて一部フナイへ戻ってきたそうだが、港周辺に陣地をつくって睨み合っているだけだ。そんな貧弱な抵抗を無視して、サツマはフナイの制圧を宣言した。指揮官はナカツカサだという噂。

 

自警団を結成して反抗していたドン・フランシスコは市民に守られながら逃亡中。マテウスの隊が接触を試みており、可能であればミョウケンまでお連れするよう指示されている。

シメアンも来ている以上、ここならば絶対安全といえよう。

政庁のあるウスキでは伝染病が蔓延し、味方も敵もバタバタ倒れているという報告も届いた。岬の突端に聳える城の周辺は避難民でひしめき合い、海風に昼夜さらされ座りこんだまま毎日何人もが息絶えてゆく。疫病を防ぐ手立てもあるまい。パンタリヤンは、さすがにこの話を今の兄には聞かせられぬと涙ぐむ。私もそう思う。

 

シメアンよ、カンパク軍は、まだ来ないのですか。

 

「白衣の主日頃に、数万規模の軍勢が大坂を発ちました。山陰道を、着々と西進してきておりますが、なにぶん、街道の民衆たちの出迎えが熱烈すぎて、速度を上げられない模様です。

ひと月くらいはかかりそうですねえ」

 

何をやっているんだ、もう。戦争だぞ。諸国漫遊じゃないんだぞ。

一日遅れれば遅れるだけ、それだけ多くの人が死んでいくのに。坊主ならいくら死んでも構わないが、ここで助けを求めている信徒や求道者たちがむざむざ力尽きていくのは、日本の未来にとっても、測り知れない損失ではないのか。

シメアン…あくまで仮定の話として聞いてほしい。

戦力比が桁違いであることは疑ってない。しかしサツマの戦術は極少数の兵で大軍を混乱に陥れ形勢を逆転させる脅威を備えている。地形についても、当然サツマの方が熟知している。

撹乱され、寸断され、弱点を巧みに衝かれて敗走する、という可能性はないだろうか。この不安を打ち消してもらいたいのだが。

 

「パードレ・フロイス。勝負に絶対はありません。軍人ならずとも、常にそれは考えておくべき基本です。

不安を抱えていてください。それを打ち消した者は、滅ぶのです。いわば豊後は、不安を失ったために、いま滅びの淵に立っているということ。その現実を、認めるべきです。

さて、関白殿が到着されれば、私たちは新たな任務を与えられる。ここで、お別れとなるでしょうね。

薩摩相手に全戦全勝はありえない。局所的には全滅する部隊も出ます。私がそうなる可能性も常にあります。パライゾでお待ちしています。

パードレ・フロイス。あなたは、その眼で戦局を観察し、行動すべきところで行動してください。

関白殿の軍が壊滅するときには、薩摩に詫びて軍門に降る将も大勢出るでしょう。そっちに紛れこむのもありですよ。そこまで心の準備をしておけば、慌てなくてすむでしょう。不安がなくなれば、人はその先を想像することができなくなる。だから、不安を忘れないよう。

こんなところで、よろしいかな?」

 

シメアンのおかげで、私の不安は消えた。

かかっていた靄が晴れわたった気分だ。そうなのだ、人はこの世で試されているだけ。デウスを信じイエズスに倣いてその生涯を貫けば、原罪を赦されパライゾへ赴ける。サツマだの、ブンゴだの、カンパクだの、どうでもいいのだ。そこにとらわれる必要はない。

導かれるままに生き、そして導かれたときに旅立てばよい。さあ、カンパクよ来い。待たされただけの働きは、してもらおうじゃないか。

 

マテウスの部下が、ドン・フランシスコと信徒たちを、無事ミョウケンまで連れてきた。

げっそりやつれていたので、しっかりと休んでもらうことにした。

 

翌日、私はヨシムネに霊名を与えた。

ドン・コンスタンチノ。

尊父は一日中、嬉し涙を流した。

よかったじゃないか。やっと親孝行ができたんだぞ、コンスタンチノ。

 

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