戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

252 / 328
SengokD.1587/005.hmos

ナンガサキへ入ったら、戦闘するものと覚悟していた。

 

ところが我々は、市民の歓声に包まれながら入港する。

サツマの兵と役人は、カンパク軍がシモへ到着したと聞くや否や、我先にと逃げ出していったようだ。

腰抜けどもめと嘲笑ってもいいところだが、退路を断たれる危険をいち早く察しての素早い判断と評することもできる。狡知に長けたサツマのことだ、とどめを刺すまで油断は禁物。

 

港のフスタは、無事だった。

サツマはこの軍船を自分たちの戦力に加えるつもりでいたらしい。しかしカフルでなくては操舵できず、カフルはポルトガル語で指示を与えられなければ動きを合わせることができない。

到底、サツマの手には余るのだ。

我々とてタケダへ連れ去られたカフルたちが戻ってこない限り、このフスタを動かすことはできないが、当面は必要ない。アゴスチニヨの艦隊はきわめて優秀なのである。

サツマの遁走は、けだし賢明であったというべきであろう。

 

問題はコエリュだ。

教会の隅にうずくまって、出てこようとしない。ひどく怯えており、相手の顔を正視できず、ただひたすら御主への祈りをもぐもぐと唱え続ける廃人と化してしまっていた。

飾りでも、これでは布教長などと名乗らせておくわけにはいかない。誰かに交代させるべきだが、ローペスは嫌だという。

私だって嫌だよ。責任をかぶる役職なんて、まっぴらだ。

ともかく、重立った者だけでも集めて会議を開かなければだねえ。それまではほら、じいさん、もう少ししゃんとしててくれよ。ったく使いものにならねえ。

 

アリマからも、サツマは撤退している。

ここでも地下に潜伏していた地区長のモウラが、ウラカミまで様子を見に来たので合流し、話を聞いた。

ドン・プロタジオは苦しい板挟みの中にありながら領内の信徒たちを全力で保護し続けてくれていたという。実にすばらしい領主だな。

一方、かつてスコと戦っていたときに寝返ったシマバラ地区では、今回もやはりサツマに尻尾を振って信徒たちを虐めた領主が出たということだ。当然そんな連中は逮捕して処刑し、半島の土地はすべてアリマ領へ編入させなくてはならない。

落ち着き次第、ドン・プロタジオに武器を供与し、遂行させよう。布教長が約束したと伝えておいてくれたまえ。

 

ナンガサキへ戻り、アゴスチニヨの部下たちと、今後の進路を相談する。

カンパク・ハシバは既にアカマを通過し、チクゼン国に布陣中。アキヅキの主城を攻囲しているとの情報だ。

そこに時間をかけるつもりはなく、先遣隊はもうヒゴ国まで入ってきているともいう。

ずいぶん早い進撃だな。

2~3週間後には、ハシバはヒゴ国に指揮所を構え、腰を落ち着ける。そこで布教長を謁見させ、感謝の言葉を述べさせましょう?

了解、するしかないが、問題はコエリュなのだ。

私が通訳するので、こいつの呂律が回らなくてもなんとか取り繕えるとは思うが、おとなしく座っていてもらえるかな。少し荒療治を施しておくか。まったく、世話の焼ける。

 

そこへパードレ・ルセナがやって来た。

オオムラ領主ドン・バルトロメウのお付き武官だ。バルトロメウはかなり病状を悪化させていると聞くが……もしや。

 

「パードレ・フロイスこそ、ご無事で何よりです。

ドン・バルトロメウはもう長くありません。意識も薄れているので終油の秘蹟を済ませて、あとは従僕たちに任せてきました。サツマの圧迫に加えて、イサハヤがまた反乱を起こしましてね。気の休まる暇もない晩年でしたね」

 

王位は長男に譲ったんだよな?あの子、何歳だっけ。

 

「ドン・サンチョは19歳です。スコの人質にされている間、しつこく洗脳されましたから、今も時々、冒瀆的な言葉を口にします。

父子の関係も最後までギクシャクしてました。そんなわけで、オオムラ領の舵取りについては今後も監視が必要です。私に任せてもらえますか?」

 

君以上の適任はおるまい。引き続き、頼む。

ドン・バルトロメウの葬儀はせいぜい派手にやってほしい。パードレを何人か連れて行って構わん。

 

「ありがたい。豪勢にやります。

ところでパードレ・ラグーナの方は、うまくやってましたか?」

 

あいつは君ほどちゃんと監視をしていないな。昨年、ドン・フランシスコはオーザカへ陳情に来ていたのだが、ラグーナはついて来てなかったよ。

先月ミョウケンへ従僕を連れて逃げこんで来た時も、ラグーナは後から遅れて来た。あれじゃあ、終油の秘蹟も間に合わんぞ。

 

「ブンゴはもう壊滅してるんでしょう。ドン・フランシスコの利用価値は今、どのくらい残ってるんですか」

 

エウロパでは、ドン・フランシスコこそが日本人の代表であるし、列聖させようという動きもあったそうだからね。価値は、永遠だと思う。

私も彼の最期を見届けて日本史に載せなくちゃならないから、デウスが早く使者を遣わしてくれればいいのにと気を揉んでいるのだが。まあ、彼も、今年が体力の限界かな。サツマとの戦いは、あの老体には相当な負担だったからねえ。

 

「ドン・バルトロメウ。ドン・フランシスコ。そして布教長も、かな?

今年は多くの星が墜ちますね」

 

こらこら。不用心な発言はよせ。布教長にはまだまだ我々の弾よけになってもらわねば困るんだぞ。

それに、墜ちるなら私はハシバに死んでほしいよ。あいつ、オーザカを離れると随分警戒心が強くなるんだなと、驚いているところだが。

 

「はは、それこそ不用心な発言じゃあありませんか。ハシバ、ねえ……私は、見たこともないので、いまいち何者なんだかよくわかりませんが」

 

私にも、わからないよ。あいつの正体は謎すぎるんだ。それがハシバの力なのかもしれない。

我々の強力な味方でもあるが、危なっかしい敵でもあるといったところか。どこまで利用できるのか、測りがたいのだ。

だから監視が必要だ。

 

「聡明なるパードレになら、そのうち見極めもつくでしょう。では私はそろそろ戻ります。手隙の者を何人か、借りていきます」

 

ああ。道中気をつけて。オオムラへは、アゴスチニヨの船に乗せてもらえばいい。掛け合ってこよう。

 

それから数日。コエリュを陽光の下で歩かせ、肉を食わせ、発声練習をさせてと、根気の要る体質改善を施しながら聖務に執筆にと、忙しく過ごす。

アキヅキが降伏し、カンパク主軍はすぐヒゴ国へ向け移動したとの報が届く。

アゴスチニヨ隊に急き立てられ、出発の支度をする。

ヒゴ国のヤツシロという浜に、サツマが放棄していった邸があり、カンパク軍の先遣隊が接収して陣地化しているところだというのでそこへ向かう。

オーザカでは我々が客だった。ハシバは安心しきっていた。ここでは違う表情が見られるかな。それとも、スコ王並の腑抜け顔を拝むことになるか。見定めてやろう。

 

「行くのか。ファラオのもとへ。幸運を祈ろう。

私は行かない。口下手な私の言うことに、ファラオは耳を傾けてくれない」

 

しゃべらなくていいですから、来てください。御主の言葉は最上長にしか聞こえないのだから、あなたが来てくれなくちゃ交渉が進まないんですよ。

しゃべるのは私が務めますから、あなたもほら、行くんですよ。ほら、立って。

 

「海を渡るのか。荒野に隠れるのか。イスラエルへ還るには私が必要だというのか。わかった、行こう、アロン」

 

はいはい、行きましょう。私はアロンです。いいですか、あなたはしゃべらなくていいから、御主のことばだけ、聞いていてください。

ああ、やれやれ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。