戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1587/006.hmos

海軍司令官アゴスチニヨは、部下からたいへん慕われている。

 

アゴスチニヨ自身は、もともとサカイの商家出身だ。現在サカイ市長を勤めているジョウチンの次男として生まれた。幼い頃に養子へ出され、巡り巡って軍人となる。

平時はハリマ国ムロ港に拠点を置き、海運業の統括を担っている。セト内海がすっかり安全になったので戦闘員の比率を徐々に縮小させているが、今回、最後の花道を飾ってこいと、ありったけの海兵をシモへ投入した。

サツマはその斥候が到着するやいなや、一目散に逃げ出したのだ。張り合いがなさすぎると、鮫の群れどもは残念がる。

 

そんなかれらの船に揺られて、ヒゴ国ヤツシロへ到着。

ハシバの方が先に来ていた。え?

ジュスト殿より、叱言を頂戴する。カンパク殿は忙しいのだ、予定を合わせられないようでは困ると。

いや、あなた方の速度が尋常じゃなさすぎですよ。

 

会見は翌日に設定された。

入場の仕方、挨拶の文言など、細かな指示を出される。ああ、めんどくさい。

額で床を3回こすれ、とか要求されてさすがに憤慨した。我々を奴隷扱いするつもりか。

ドン・フランシスコもこの通りやったのだからと言い返される。

ハァ?

私がアカマからナンガサキへ向かったあと、ミョウケンからドン・フランシスコがやって来て、この屈辱的な挨拶込みで、カンパクへ出征への礼を述べたのだという。

だから何だ?

 

一千歩譲って、ドン・フランシスコにはそこまでさせられる理由があり、逆らうこともできなかったのだとしよう。

だが我々は、エウロパを代表する宣教師だぞ。

未開のサルが、つけあがるんじゃない。

私は断固拒絶の意思を伝えた。夜になっても怒りがおさまらなかった。

 

翌日、会見場へ案内される。

コエリュを先頭に、大広間へと通される。

ほお、庭から海が見渡せて、大変美しい風景だ。もとはサツマの邸というが、ここ、カンパクが帰ったあとで教会にもらえないかな。

ジュストが冷たい視線を向けてくるが、私は落ち着き払って、毅然とした態度で、カンパクに挨拶を述べる。

 

カンパク・ハシバは昨年オーザカ城で我々を迎えたときよりも派手な、黄金色の衣装を纏っていた。

滑稽すぎて、哀れさしか感じない。本人が決めているのか、取り巻きが着させているのか。両方なのかも知れないが、反吐がこみ上げてくる。

ジュストもジュストだ、止めてやれよ。

 

ハシバは、長旅に加え、連日こんな会見を催しているのであろう。疲れを滲ませていて、食事にも酒にもまったく手をつけなかった。

大層な立場であることは認めよう。

だからこそだ、無駄なことをやめればいいのに。

長たるおまえから言うのが、一番早いんじゃないのか。

 

私なら言ってやる。

この宴席に、一人たりと、軍人はいない。

シメアンやカヅサ殿の陣所と比べるまでもない。危機管理ができておらず、緊張感がひとかけらもない。のぼせ上がった貴族どもの集まりだ。腑抜けにもほどがある。

 

「皆々、元気そうで喜ばしい。

わしは生来、からだが丈夫でなく、近頃は歯も悪くなってきてのう。若い衆がうらやましくてならん。

だが一生のうちに日本を平和にしてみせるという願いがどうにか叶えられそうなことは、わしの誇りじゃ。汝らが、この偉業を、わしの名と共にエウロパへ伝えてくれるなら、これに勝る喜びは無い。

今は、そんなことを願うとるところじゃよ」

 

屈託の無い笑顔をほころばせる。

家臣どもは、にこりともしない。ハシバだけが浮いている。

私が意識して笑顔を向けると家臣どもも微笑むのだが、芝居にしか見えない。どこまで仮面なのか、こいつら。

まあ私だって仮面だがな。こいつらに本心は覗かせない。

 

「汝らの船は、いま平戸に停まっているそうだのう。目をみはるほど大きいと聞いた。

大坂へ戻る前に、ひと目見たい。乗ることができれば、なお嬉しい。

こちらまで廻航してもらうことは、できまいか?」

 

無邪気にはしゃぐ姿を見て、幼い頃のヴィセンテ坊やを思い出した。ヴィセンテの方がずっと冷静沈着で、大人びていたがな。

ハシバはオーミ国の領主時代、ビワ湖に大船を建造したときの責任者だったはずだが、そうか、ナウを直接見たことはないはずだ。

驚くぞ。あのときの大船はせいぜいフスタと比べられる程度の排水量しかなかった。ナウは、その何倍も巨大だ。水深の浅い港には入れない。見たいなら、フィラドへ寄りなさい。

 

「フスタとは?それならば、琵琶湖くらいの水深でも入ってこれるか?」

 

ええ、まあ。戦闘艇ですから、小回りはききます。

ただし漕ぐには相当の腕力が必要なので、カフルがいなければ操れません。見るだけならば、ナンガサキへ来ていただければ、ご案内できますよ。

 

「カフルとは、あの、黒奴のことか。それは今どこに?

竹田の城に連れ去られたのか。よし、秀長にすぐ使いを出せ。黒奴を至急、長崎へ返せと言え」

 

余計なことを言っちまったかな。しかし、カフルがナンガサキへ戻ってくるなら我々もフスタを自由に使えるようになるから、悪い話ではない。

間に合えば、乗せてやるくらいのことはしてやろう。

 

その後、デウスの教えについての話になる。

カンパクが並々ならぬ関心を抱いていることは確かなようだ。聖書の物語よりも、洗礼までの手順、結婚や葬儀を行う次第、信徒の名前や住所をどのように把握しているのかについて細かく質問された。実務的で、ハシバらしいと思う。

 

エウロパでは、人間一人ひとりを数えて人口を集計するのが普通であるが、日本では、少なくともハシバが実施させている人口調査では家の数が基本単位であり、家族構成などは詮索しないのだそうである。

コメの収量を見積もることが主眼だからそれで間に合うのだろうが、坊主並みの大雑把さを引きずっているな。

ハシバの支配地域では住民が許可なく転居することが禁じられる。どこに住んでいる者か、が先にくるから土地に人を縛りつける発想に結びつくのである。家畜と同じ扱いというわけだ。

人は自由意思で動くものだからいずれ破綻するのは目に見えているが、こういう話題を論じ合うことは滅多にないから、面白くはあった。

 

家臣の一人から、こんな難詰も受ける。

デウスの信徒は坊主を憎み、フォトケの偶像を見れば焼き、テラがあれば破壊して回る。やめてもらえないか、と。

 

誤解も甚だしい。宣教師はそのような行為を一度たりと容認したことはないし、常に戒めています。

坊主たちが仲間割れするとデウスに罪をかぶせて攻撃し合うという報告は多数寄せられていますので、厳正なる調査と裁判を願うところです。

裁判といえば、仏宗に肩入れする地方領主のもとで我が信徒が不当きわまる判決を受け死罪に処せられるという事件も起こりました。日本布教長として正式に抗議します。

ただ望むところは、デウス信徒であろうとそれ以外の者であろうと真実をたしかめ公正な裁きをしていただきたいという一点だけであります。

 

会見を終え、邸を出た我々を、多くの信徒が取り囲んだ。

カンパクにはひれ伏さずと宣言した噂は昨日のうちに広まっており、それでも我々が平然と出てきたものだから、皆大層驚いていた。

よいか、諸君。デウスの前では、人間は平等である。

人として、不当な差別を受けても、屈してはならぬ。堂々と胸を張れ。怯懦は現状をもっと惨めにするだけだ。

本日我々は、なにが正しい行為であるかの手本を示した。これが、デウスの教えだ。

 

さ、コエリュ、帰りますよ。あなたは今日、とてもよくやってくれました。上出来です。ほら、帰るよ。

 

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