戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1587/011.hmos

夢だった。よかった。

それにしても、ひどい夢だった。

 

私は無実の罪で捕縛されている。街道で老若男女から罵声と石を投げつけられながら、炎天下を引き摺り回されて、岩山の頂にある処刑場へ連れて行かれる。

手足を鎖で繋がれ、あとは、おいてきぼりだ。

狼や禿鷹が群がってきて、私は餌食となる。鳥は最初に私の目と舌を啄ばむので、闇の中で声も上げられない。

だが本当につらいのは、ここからだった。

死なないのだ。臓腑は無限に再生する。

毎朝、私は夜明けとともに、五体満足の状態で目を醒ます。そして、お客さんを待ち構える。けだものたちは慣れてきて、ここへ来れば朝食にありつけることを知っている。あくびをしながら、じゃれあいながら、次第に数が増えてくると、焦りにかられた奴から飛びかかってくる。痛い。痛い。痛い。

けだものたちの鼻息が、臭う。そんな意識もやがて遠のく。私は次の復活まで、しばしのお休みを許される。

 

そんな夢だった。

現実はこれにくらべたら、まだ、ましだ。

とはいえ、まったく理解ができない。青天の霹靂だ。驚天動地の不意打ちだ。陰謀なのは間違いないが、いったい何が狙いなのだ。デウスを敵に回して無事ですむと思うなよ。おまえたちを必ず、無限の八つ裂きに処してやる。

 

最初の数日間は、フィラドの役人たちから聞き出せる情報がすべてだった。

 

1.カンパクは、生きている。軍の統帥は、乱れてはいない。

2.ナンガサキ、アリマ、オオムラ、アマクサ、ブンゴ、アマングチ、それからキナイへまで、同じ命令が通達されている。これから続々、各地のパードレがフィラドへ送り込まれてくる予定。

3.カンパク殿は、パードレが全員揃い次第ただちにナウで追い払え、乗せきれなければ海へ斬り捨てよと命令しているらしい。日本からは冬風に乗らなければ出て行けないことは誰でも知っている常識なので、これには役人も首を傾げていた。

4.未だ、フィラドにもナンガサキにも定航船団は姿を見せていない。だがゴトウとアマクサに、はぐれジャンクが漂着したとの情報が入っている。これはフィラドにとっても看過できない事案であるため、鋭意調査中であるとのことだ。私もドミンゴスも、それについては全く関与していないことを誓約した。

5.ドン・フランシスコがひと月ほど前に帰天したことは噂で聞いていたが、最近、ナカツカサも死んだという。サツマ降伏後のことで、戦死ではない。自殺でもないらしい。役人たちの噂するところによれば、身内に毒殺された説が有力だ。物騒な連中だよ。我々を陥れている陰謀と関係しているかもしれないので、留意しておく。

6.ジュスト殿が行方不明になっているとの噂が、当初からあった。様々な虚実が飛び交っており、いまも判断つきかねている。生死すら、わからない。大勢の部下が途方に暮れている。

かれらとのコンヒサンを通して、この謎を解き明かす道が拓けると期待したいのだが、パードレがカンパク軍の中枢と接触することは当分絶望的だ。しかしおそらくジュスト殿こそが、この異常事態の中心であろうという推測は成り立つ。

彼の命を狙う敵よりも先に、我々がジュスト殿を見つけ出すことが肝要だ。コンパニヤの総力を挙げて取り組むべき最優先課題である。

 

数日後、アリマとオオムラから前後して通信が届いた。

それぞれモウラとルセナからだ。本人たちはまだ領内に匿われていて、時間を稼いでいる。共通して、ナンガサキとブンゴからはすぐにパードレたちが追放されるだろうとの予測が綴られている。

 

確定情報として述べる。

ナンガサキおよび隣接区域はカンパクの直轄領とされ、大軍が治安維持の名目で派遣された。ポルトガルへの領土侵犯だと抗議したいところだが、フスタも定航船もいない状態ではどこまで太刀打ちできるかわからない。

ブンゴではあのヨシムネがあっさりと棄教し、領国内における信仰を全面禁止した。バカタレが。

パウロやパンタリヤンは、納得いく説明を求むと抵抗してくれているが、あまり強硬に叫ぶと内乱になり、今ならすぐにカンパク軍が襲いかかってこよう。これを危惧してか、慎重な姿勢をとっているようだ。

 

布教長とドミンゴスがカンパクを激怒させたらしい、との流言が広まっているようなので、誤解だと釘を刺しておいた。

第二、第三のヨシムネを生まぬよう、各領主との結束を保ち、なお一層正確な情報の蒐集に努めよ。

危険であれば逃げてこい。信徒には、コンタツやロザリオを隠すことは恥でも何でもないが、棄教は大罪であることをしっかり教えこんでおくこと。

今はこのくらいしか指示を書けない。乾く間もなく、伝令に託す。

 

次いで、アマングチとアカマからの大量移民を迎え入れた。

フィラドの教会および信徒の家には収容しきれず、タク島やイクツキ島などへ分宿させる許可をフィラド公に請う。

それにしても定航船団はまだ来ないのか、と呑気なことを領主からは聞かれた。

密貿易船についての情報は入りましたか、と聞き返してやった。

何かを掴んでいるようだが、容易に口を開かない。こいつは味方ではないとはっきりわかった瞬間だった。ならばこちらも余計な口は開くまい。

 

ゴーメスは下船するなり私に、何をやらかしたんです、と詰め寄ってきた。よほど根強い誤解が広まっているようだ。

敵は我々を分断させようとしているのだ、そんな手に乗るな、と一喝する。

 

報告を聞く。

アマングチでは、追放令が届くやいなや領主が兵を差し向け、我々の土地と建物のすべてを奪い取った。あれだけ我々に恭順の意を示した坊主どもが猛然と息を吹き返し、罵声を浴びせながら信徒たちをつけ回して身ぐるみ剥ごうとする。

移転したばかりのノビシヤドとコレジオには大量の書籍や教材、実験器具なども運びこまれていたが、すべてを運び出すことは叶わなかった。領主が用意した船では人を載せるだけで一杯になり、追加の船は法外な料金を払わねば借りられなかったのだ。

赦すまじ反逆者ども。この怨み晴らさでおくべきか。自らの犯した罪を、インヘルノでたっぷり思い知るがよい。永遠に、未来の涯てまで続く、闇の中でだ。

 

ゴーメスはそのときアカマにいた。ここにも教会をつくることになり、その検分をしていたのだ。

滞在中何度もマセンシアと会っていた。ドン・フランシスコの娘である。彼女はこれからカンパクの妾の一人となるため、オーザカへ連れ去られるのだ。

涙なくしては語れない、彼女のコンヒサンを、ゴーメスは追放令の直前まで重ねた。

 

ゴーメスの口から、ヤクインの名前が出るとは意外だった。

ヤクインは、オーザカでもカンパク付御用聞きのような存在であったが、出征時もついて回り、ある重要な職務を担当している。現地における、美少女狩りだ。

 

カンパクの性的嗜好など知ったことではないが、ヤクインはそれを知り尽くしており、貴人でも難民でも、カンパクが抱きたがる女を適確に見つけ出す。

アキヅキを降伏させたときも、領主の、年端もいかぬ娘を差し出させたし、ドン・フランシスコがひれ伏したときも同じように愛娘を所望した。

マセンシアはアカマで待機するよう命じられたため、父の死に目に会えなかったばかりか、その間ヤクインから直々に、カンパクから気に入られるための仕種を手ほどきされていたという。

オーザカへ入れば何百人という絶世の美女たちと張り合って、カンパクの寵愛を得るための戦いに身を投じることとなる。アカマからオーザカまでの道中カンパクに好印象を刻みつけられれば、その後も夜伽を申しつけられるであろう。それがブンゴ王家の再興へもつながり父上への何よりの恩返しとなるであろう、とヤクインはマセンシアの裸体をまさぐりながら、説き伏せたそうだ。

 

もうそれ以上聞く必要はない。敵はわかった。ヤクインだ。

そして、カンパクも同罪である。こいつらを地上にのさばらせておくことは、まかりならぬ。

全面戦争を、宣言する。

 

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