戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1588/001.hmos

新年明けてすぐ、セスペデスがブンゴから戻ってきた。

悲惨な報告を聞く。

領国内いたるところ、難民で溢れている。私が嘗てカンガ国で見た光景のようだ。

雪の下には裸の死体が無数に転がっており、時折、野犬の群れが掘り起こしていく。

金目のものはたいてい奪われ尽くしているので、人間だけは見向きもしない。

 

川辺の腐乱死体は疫病の発生源となるから、これだけは見つけ次第片付けられる。命ぜられるのは、その地域で最底辺とされる住民だ。ミヤコではカワラモノと呼ばれた。

昔ならナンガサキへ来いよと言えたものだが、今はもう無理だ。それにブンゴのカワラモノは、その地で必要とされている。どれだけ虐げられていようと、むしろ、虐げるために、なくてはならぬ存在なのだ。逃げれば、追われることだろう。

コンパニヤとしては、小規模ででも寝場所の提供、食事の施しなどしてやりたいところだが、中央すなわちヨシムネの官憲に見つかると面倒なので、往来の浮浪者に対しては成す術が無い。理解ある領主のもとで、信徒だけを相手に貴重な生活物資を融通し合うのが精一杯だ。

 

この状況を招いた究極の悪党はカンパクであり、そんな奴に猛烈に尻尾を振ってみせているヨシムネやチカカタこそが諸悪の根源ということは自明ではあるのだが、今は耐えるしかない。

いずれすべてを私が白日のもとに曝してやるが、こうしている間にも幼き者たちがどんどん、洗礼される機会もないままフルガトウリヨへと導かれているのだと思うと、まったくやりきれない。

むしろサツマに拉致されていった子供たちの方が、今頃はあたたかい南方でそれなりに幸福な生活を送っているのではあるまいか。そんなことさえ考える。

奴隷であっても。むしろ奴隷を買って養えるほど裕福な家庭なら教育水準も高いだろうから、従僕にも洗礼を受けさせるくらいの良識と余裕を期待してもよいだろう。

ここよりは、ましだ。

こんな最底辺の国で、命を擦り減らしながら生きていくよりは、ずっと。

 

ウスキでは、大火事が発生した。

城も、町も、すべてが焼け尽くしたという。三方を海に囲まれた絶壁の上に建つあの城までが?と当惑したが、逃げ惑う群衆が火事場泥棒を働くために放火したという説もあり、誰もがそれで納得するという世知辛い結末がつく。

チカカタやナタが貯めこんできた財宝も灰燼に帰したかと思えば小気味よくないでもないが、それはブンゴ国の復興が更に遠のくことも意味するので、いっそ泥棒の手に渡って民衆に還元されれば一番理想の形なのだがな。そう考える。

 

対極はアリマで、ドン・プロタジオは領内全域をコンパニヤの拠点とすることに同意してくれた。

追放令が正式に撤回されるまでは表面上、自重を求められてはいるが、今夏の定航船をコチノスへ入港させること、以後も半永久的に交易の最優先権をアリマ領へ与えることが条件だ。

それだけでいいなら、こんなおいしい取引はない。

さっそく、ありったけの宣教師をアリマへ送り出す。

 

一昨夏、ドミンゴスは10名のパードレを連れてきた。当時ブンゴが情勢不安だったため、全員フィラドで日本語に慣れさせていたが、すでに坊主とどつき合いできる人材が仕上がっている。

さあ、羽ばたいてこい。アリマ領から敵対勢力とその予備軍を完全に一掃するのだ。とくに半島北部のシマバラ地区が、点数を稼ぎたいなら狙い目だぞ。

あの辺を一人で出歩けば翌朝にはマルチルになれる。覚悟を決めて赴任せよ。コツは、日本人信徒をうまく楯にすることだ。その統率力も修練のうちだ。一日も早く身につけ、磨き上げろ。来年からは更に大仕事が君たちを待ち受けているのだからな。私を、ああ、いや、布教長を、失望させるでないぞ。

さあ我こそと思わん者から手を挙げよ。

 

新たな任務を命じるため、ドミンゴスの出発を少し遅らせる必要が出てきた。

 

精力的な、ガスパル・マルティンスというイルマンを大役に抜擢する。一緒にアマカウへ行ってもらう。ドミンゴスの報告だけでは切実さが伝わらないおそれがある。君からもしっかり伝えてほしいのだ。重武装のガレオンをよこしてくれと。日本布教区の命運がかかっているのだからな。頼むぞ。

完全に目的を達し、来夏に船団を送り出すところまで見届けたら、君は日本へ戻ってこなくてよい。ただちにマニラへ向かってくれ。フェリペナスの首都、マニラだ。コンパニヤの地区長セディーニョを通して総督へ働きかけ、軍艦の出動を要請してほしいのだ。

念には念を入れて、というよりも、カンパクがあっさり白旗を揚げるとは思っていないのだよ。

1年か2年は戦う必要があるかもしれない。アマカウの兵だけでは、オーザカを制圧するのは難しいかもしれない。

フェリペナスが日本進出にどれだけの野心を抱いてくれるかは測りがたいが、ヌエバ行き航路で過去に何度も漂着している事実に鑑みて、補給および悪天候時の避難地として日本に拠点をつくっておくことの重要性は理解してもらえるはずだ。

なんならイヨ島くらいくれてやってもいい。メノールやドミニコの布教も自由にさせてやるといえば、反対意見も封殺できるのじゃないかな。そこは君に委ねる。かれらの合意を得られる条件を提示してやってくれ。

エスパニヤ本国の許可?

そんなもの、事後承諾だ。往復6年かかるんだ。ヌエバ経由だともう少し早いみたいだが。いずれにせよ、いちいち本国の許可なんてとってたら何もできない。コエリュ布教長たっての願いだと、何としてでも説得するのだ。くれぐれも頼んだぞ。

 

そんな打ち合わせをしている最中、下々から、こんな意見があがってきた。

今回の定航船に、日本に駐在しているパードレを全員乗せることはできない。残留する者もいることを、オーザカにいるカンパクにひとこと連絡しておく方がいいのではないか?という、気弱な心配事だ。

我々の反抗計画を教えていない者が不安にかられるのも無理はないが、愚かな怯懦というべきだ。しかし私は、この提案に乗ることにした。

 

現状、キナイの情報がさっぱり入らなくなり困っていたのだ。誰かを派遣して、可能な限り情報をさぐってこさせるのは妙案というべきだろう。さて誰が適任か。

パードレを直接行かせるべきではないだろう。

宣教師ではない、船団の乗員で、船長の代理として箔がつく人物が望ましい。

いるか?そんな奴。

ドミンゴスの代理なら誰にでもつとまりそうだが……と候補を絞っていくうち、フランシスコ・ガルセスというポルトガル人に白羽の矢が立った。数年前よりナンガサキに暮らしている流れ者で、定職には就いていないが人あしらいがうまい。憂いを湛えた仕草はなかなかの演技者で、女が絶え間なく寄ってくる。

身長は高く、喧嘩も強くて、要するに見た目が非常に凛々しいのだ。カンパクの前で堂々としていればいいだけの仕事にはうってつけだろう。万一捕らわれ、拷問されても、我々の計画については一切教えてないから後腐れもない。

至急、盛装を仕立てさせる。

通訳としてアントニオ・アブレウと自称する日本人が抜擢された。

私は初めて会って、ぎょっとした。トマスが化けて出てきたのかと思ったのだ。

 

すでに記憶の彼方なので、顔つきも自信がないのだが、腕にコンパニヤの刺青をしていた。

あいつは、たしかカンガ国で、盗賊をやっていて殺されたのだと聞いていたが。

恐る恐る、アブレウに、素性を質した。

日本各地を転々としてきたが、クヌカ地方へは行ったことがないという。

私のこともまったく知らないようだ。

赤の他人とわかって、ほっとする。

 

刺青については、彼の師匠の真似をしているだけで、滅多に見ないかもしれないがそれほど珍しいものでもありませんよと意外そうな顔をした。そうなのか。

ちなみに彼の師匠はゴエモンという名前で、全国を渡り歩いている山賊なのだという。

アブレウは見事なポルトガル語を喋るが、これもゴエモンに仕込まれたそうだ。

その男はもと信徒で、商人でもあったのかなと想像する。アブレウが師匠と別れた理由は喧嘩とかではなく、発展的解消ということだった。山賊の流儀はよくわからないが、それ以上は聞かなかった。

 

2人に、必要な用件を伝える。貢物と若干の従者をつけて送り出す。

ひとまずアゴスチニヨを訪ねよと指示した。

シモの周辺警備にあたっている海賊勢は今もアゴスチニヨの部下たちで、かれらは棄教を求められていない。アゴスチニヨも、ムロを本拠地にして今も忙しく海運を指揮している。

やはり追放令は有名無実なのだとしか思えない。

安全が確認でき次第、またパードレを送り込まなくてはな。ただちに、キナイへ。

最低でも、一個小隊規模で。

 

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