戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1588/003.hmos

復活祭2週目。ガルセスたちが帰還した。

カンパクから賜ったという絹衣を見せられる。それだけか。しょぼいな。

詫びの品にしては、あまりにも貧相だ。

 

一行はムロへ着き、しばらくはアゴスチニヨの家臣でありディオゴの末子でああるところのヴィセンテ・ヒビヤに饗応されたという。

アゴスチニヨは多忙をきわめており、ほとんど面会もできなかった。

ちょうどアマクサ戦役と重なっていたからな、と今の私は知っている。

 

誰の紹介でカンパクへの謁見希望を申請するか。これも二転三転し、足止めが続く。

以前よりも審査が厳しくなっており、仲介料も余計にかかる。

役人が肥え太る仕組みが、より重層化しているようだ。

 

ちなみに、こんな逸話がある。

ハシバがコレトウを討ち、政権を確立した頃から、ハシバの生き別れを自称する貧者の群れが急増した。

当初ハシバは障碍を隠していたが、その体の特徴や、本人とごく近いものしか知り得ない過去の奇聞を知る者が徐々に、大勢、名乗り出てくるようになる。

貧しさゆえに幼いハシバを棄てたことをただ詫びたい一心で山から下りてきた老夫婦、なんて特に多く、城門前での場所取り合戦が夏も冬も途切れなかった。

ハシバはかれらを邪険にしなかった。

むしろ、話だけは聞いてやるという姿勢を示した。

城内へ招かれた者はかなりの数にのぼる。しかし同じ門から出てきた者は皆無だ。

心優しきカンパクは、たとえ自分の血縁ではなかったとしても、同じような肉親との別れを経験した者には温かい手を差しのべ、城内に住まわせてやっているのだ。そう噂は語る。

 

真偽はともかく、カンパクとの謁見は、狭き門であると同時に今や命懸けでもある。

 

キナイでも信徒たちの萎縮は甚だしく、アゴスチニヨとその部下たちが棄教していないからといって、状況は全然明るくなかった。

パードレ不在の影響は計り知れない。追放令が撤回されたとしても、正常化には時間を要するだろう。

カンパクには最終的にこの賠償も請求するつもりであるが、はたして支払う能力が残っているだろうか。もちろん土産の絹衣は別勘定だ。

 

最終的に周旋してくれたのはミノ殿だった。カンパクの実弟だ。

兄の粗相を弟が先に詫びた形になる。意外に道理のわかる男だった。カンパクの下では最大の領地を持つ特別級の存在だが、礼儀正しく、終始低姿勢であったとガルセスもアブレウも感心する。

兄亡きあとは、シメアンをしっかり補佐してもらいたい。できるかな?

それとも、兄がいてこその持ちつ持たれつかもしれない。

そこは、その時に判断しよう。

 

ムロでの待機中、ニエッキがやってきた。

名乗られるまで、パードレだとわからなかったそうだ。見た目も物腰も喋り方も、すっかり日本人に同化していた。むしろ、イタリヤ語もラテン語もたどたどしかったという。ポルトガル語にいたってはアブレウよりずっとぎこちない。

3人は日本語で鼎談した。

ニエッキはジュストや日本人イルマンたちとユノ島に隠れ住んでいるが、アゴスチニヨの部下たちに混じって、アカシ、オーザカ、ミヤコまではよく巡回しているらしい。

各地の教会施設は地元の信徒たちがなんとか守ってくれているが、役人が命令書一枚で解体し木材を運び去っていったりなども横行している。

ニエッキが報告をよこさない件については、途中で官憲に押収される危険があるためだと弁解を始めるが、アゴスチニヨへ託せば確実に我々まで届くだろうとアブレウは指摘する。さらに、日本語でいいから月に一度は布教長に報告をせよとニエッキに指示してくれた。意外と頼りになるぞ、こいつ。

 

復活祭の10日前、いよいよオーザカ城にて、カンパクとの謁見が実現する。

まず。どんな態度だった?

 

「終始、不機嫌で、尊大でした。船団長代理ガルセスが本物かどうかとしつこく詮索されたので、ガルセスは次第に喋らなくなります。反対に私の方へは、日本人なのにポルトガル語が堪能であることを随分褒められました」

 

ご苦労だった。カンパクは詫びの姿勢を示していないということか?

よほど、実力で叩き潰されたいらしいな。

 

「この冬、出立する船では、全パードレを乗せることができません、と言ったら猛烈に怒り出しました。今夏来る船で、次の冬に必ず残り全員を追い払うことを厳命され、私たちは連名で誓約書を書かされました」

 

定航船の入港はしていいわけだな?

どこの港に入れるべきかは言っていたか?

 

「その場では、そこまでは。

ただ来夏以降も、定航船はよこせと言っています。パードレの上陸のみを禁ずると。

その一点だけは強硬です」

 

ふざけた了見だ。商売だけをしに来いか。

陸地にパードレがいなければ入港もしないし、市を仕切るのもコンパニヤのプロクラドールがする仕事だ。

何もわかっちゃいないな、あのカンシャクザル。

 

「私から、できる限りの説明はしました。日本だけでなく、天竺、震旦、呂宋、その他すべてでポルトガル王室はこのように交易をしていますと。

すると関白殿は、他国と日本を一緒にするなと。

日本はかれらと同じような間抜けではないと、口角泡を飛ばして激昂するわけなのです」

 

つける薬もなさそうだ。日本がどれだけ小さな島なのか、自覚もないから怖いもの知らずなのだな。

 

「そういえば関白殿から、地球儀を見せられ、詰問を受けました」

 

地球儀?

昔、ニエッキがカヅサ殿に献上したことがあった。あれかな。

キナイへ持ちこまれた地球儀は、それひとつのはずだが。

 

「多分それでしょう。ポルトガルはここ、ラウマはここ、アフリカからモサンビクを回ってゴア、マラカ、アマカウ、日本へと、ガルセスの説明を私が通訳する形で、説明しました」

 

その後の展開は、想像がつく。日本が、こんなにも小さく描かれているのは我々を見下している表れだ、けしからん、と言ったことだろう。

 

「まさに、その通りです」

 

ガルセスは、ちゃんと説明できたかね。航海士は緯度と経度を六分儀で計測しながら掌帆士に指示を出す。海図が正確だからこそ日本まで来て、ナンガサキでもフィラドでも、望む港を目指せるのだ。

日本人には屈辱かもしれないが、その地球儀が現実ありのままの姿だから。日本なんて、吹けば飛ぶよなちっぽけな存在にすぎない。

 

「その通りのことを、もう少し穏和に述べましたが、なかなか、納得してもらえなくて」

 

そうだろうな。だが、認めたくないなら認めなくてもよいことだ。

日本人はいつまでもこの島の中だけで、地表が丸いことも、空の高さも海の深さも知らないまま生まれて死んでいくのだから、知らなくても困ることはない。

肚が立つなら見なきゃいい。それで何の問題も生じない。

 

「はあ。ちなみに、関白殿からは、地球儀に描かれていた、コーリア、エルモーサ、レキオスなどにはポルトガル人はいないのか?とも聞かれました」

 

フム?どうかな。私が日本へ来た頃には、未開拓地だった。

今はどうだろう。

夏に来る船団長は最新事情を知っていると思うんだが。

 

「関白殿と、その場にいた家臣たちによると、コーリアは日本の領土だという話なのですが」

 

へえ?

それは初耳だが。66領国には含まれていない地域だろう?

 

「はい。対馬という島が平戸よりずっと北にあるのですが、地球儀には描かれていませんでした。

ここには日本人の領主が代々住んでいて、日本の一部なのですね。

そして関白殿によれば、高麗は対馬の属領なので、従って日本のものであり、高麗王は内裏様と自分に朝貢をせねばならぬ立場である、というような話をしていました」

 

ツシマ。

名前だけ聞いたことがあるような気もするが。ポルトガルの船に観測されたことが今までなかったということだろう。

それにしても、大陸の一部を日本の属領だとするのは、無理がありすぎると思うがねえ。

 

シメアンの予想は外れた。

カンパクは、追放令を、現在も有効だと勝手に思いこんでいる。

よくわかった。もう、容赦はいらない。

ガレオンが到着し次第、先制攻撃でオーザカをぶっつぶそう。

 

アゴスチニヨへは、直前に知らせればよいか。オーザカの海上封鎖は、かれらに手助けしてもらう必要があるからな。

カンパクよ、日本にはまだまだ大勢の日本人信徒がいるのだぞ。

かれらを無力化しておくべきだったな。

だから、おまえは無能なのだ。

 

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