戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1588/004.hmos

ニエッキが無精なおかげで、思わぬ収穫が生まれた。

 

アブレウが、報告は日本語でよい、と彼に伝えた。

これをニエッキが、そのまま信徒に話したのだろう。

シモへ集結しているパードレたちに、日本語でお手紙を書けば、読んでもらえる。そんな噂が、たちまちキナイじゅうの信徒へ広まる。

 

一人で机に向かうと途方に暮れるニエッキでも、次から次へと寄せられる転送希望お便りの山を、梱包して従僕に渡すくらいの作業ならば、できる。

それでいいのだ。むしろニエッキが大雑把にまとめた報告なぞ要らん。

ナマの、貴重な原証言の宝庫がここにある。これこそ私の望んでいたものだ。

もっと早く気付けばよかった。

 

シモで読んでもヒヤヒヤ、ドキリとするくらい、そこにはカンパクの圧政に対するどぎついまでの怨み辛みが籠められている。

万が一、官憲に押さえられたら大事件になるだろう。しかしこの緊張感がたまらない。生まれてこのかた私はこれほど手に汗握る読書体験をしたことはなかった。もっともっと読みたい。お返事を書かねばな。まだまだ焚きつけるのだ。いけるぞ。おお、いけるとも。たまらん。

 

ヲアリのコンスタンチノ。オーミの元サンガ城主サンティアゴ。ツノ国の山中に暮らしている、昔世話になったジョルジ・ユウキ。など懐かしい顔ぶれの肉筆が続々と現れて、感無量だ。

誰も彼もが、役人の横暴ぶりに憤っている。

どこの領国でもまったく同じ問題が発生していることは、重要な示唆だ。喧嘩禁止令が最たる例だが、ハゲネズミは政令を発すると一斉にこれを全支配地の津々浦々に適用した。各地方行政府に独自権限は与えず、一律な違反摘発件数報告のみを求めていると思われるが、当然、各地方領主はありのままの数を報告などしない。

違反件数が多いことは監督不行届に直結し、査定に響けばすぐに処罰や降格が待っている。したがって喧嘩禁止令が出ればその瞬間から喧嘩は存在してはならぬ対象となるものであり、これを発見した下級役人に求められるのは正確な報告と指導ではなく、揉み消す要領である。

ここに、現場からの賄賂取り放題という、不正を助長する常識が生まれる。

このままだと下級役人が最も高額所得者になってしまうが、中級上級役人がそれを許すわけもない。中級は下級を、上級は中級を監視し、処罰する権限をちらつかせて収益を吸い上げる構造を生む理屈だ。

 

ハゲネズミが独自の政権を樹立してまだ5年かそこらだが、すでにこの体制の構造的欠陥は露見している。こんな政治をあと5年も続けたら、日本にまともな人間は育たなくなるよ。役人に賄賂ですべてを解決してもらう。それが当り前になってゆくのだから、必然的帰結だ。

 

ハゲネズミ土木部隊末端の生活も、想像を絶する断末魔に満ちている。

かれらは決して囚人や奴隷ではなく、むしろ各地方領主から拠出させられた、若く壮健で学問も身につけた貴人の子弟が主体であるのだが、ひとたびこの部隊に配属されると、まず生きて故郷へ還れない。

不眠不休の重労働。発狂して、現場で岩に頭をぶつけて楽になる者も多いそうだ。

働いている限りは、生家へ、比較的高額の仕送りをすることができる。それが唯一かれらの誇りであるのだが、一日でも休まねばならぬ怪我を負った瞬間、その前途は完全に塞がれてしまう。堪えられまいな。

 

オーザカや、ファカタで、ハゲネズミはこの土木部隊に街ひとつつくらせるという大事業を命令した。私は気付けなかったが、戦闘部隊よりも損耗度が高かったであろうと今は信じて疑わない。

武勲とも無縁だろうから、ますますやりきれない。

そしてハゲは、今も次々と、新たな工事をかれらに命じている。最近はミヤコの各地で拠点防御用の城砦を改修改築中とのことだ。むしろ戦闘が減少するかわりに、土木がますます必要になっていくのではないか。

今後、閑職化する戦闘部隊で何か失敗をやらかしたり、たとえば上官の機嫌を損ねるといった理由でもつけられたら、可能なだけ余剰人員を土木建築へ転用せよという号令がかかることは大いにありえる。

 

そういえば誰ひとり、東部戦線について書いてないな。

ジュストの部下だった信徒が、名前は忘れたが、シモの次は東だと言っていたはずだが。立ち消えたか。

 

現在、戦域は発生していないようである。

政治的に結着がついたか、それとも、準備中かもしれないが。

我々がオーザカを攻撃開始するとき、呼応してカンパク軍を背後から襲ってくれれば愉快なのだがな。東部の領主たちがカンパクと同盟して我々に立ち向かってくる構図は想定しづらくなってきたところだが、できればより積極的に、味方へと引き込みたい。

 

今更ではあるが、カンパクがデウスの敵であることを明確に立証する論拠も提示しておこう。

 

ミヤコの東隣、オーミとの国境にまたがる山は、テンダイ宗の巣窟だった。

かつてカヅサ殿の命令でコレトウがこの一帯を焼き尽くしたことがある。カンパクは数年前から、ここの復興にも予算を与えており、そのついでに天にそびえる巨大な仏像を造る計画を立ち上げた。

私はこの度、初めて知った。街や城を造るよりは優先順位が低いので延び延びになっているとはいうが、実に愚かな、馬鹿げた無駄遣いだ。

土木建築部隊にはこの先まだまだ仕事が用意されているということでもある。

大仏がこの一体だけとも限らない。そう考えると空恐ろしい。

 

カンパクはこの国から戦争をなくしたと言っている。

まったく事実ではない。

なくしたのは活力であり、人間がまともに生きることの筋道を破壊したのだ。

カンパクとその取り巻きにとっては実に都合の良い社会だ。擦り寄る者だけが大切にされ、民衆が自分たち自身の生活を豊かにするための力は無駄な事業に注ぎ込まれて消尽される。そんな無能が支配する国だ。

いいかげんにしておけ。信徒たちはちゃんと見ている。

すべては、すでに明らかだ。

 

最後に、ニエッキを失脚させる材料について述べよう。

今回の、信徒からの嘆願書はすべて、ニエッキの検閲を経て届けられている。

封蝋さえ剥がされた跡があり、他の誰かが盗み見て戻したものをニエッキが気づかず送ってきたと考えるのは無理がある。

そして、すべて読んだ上で結論するが、ニエッキについて批判的に書かれた文書は、一通も入っていなかった。

 

犯人とその狙いは明らかだ。

まったく、手懸りを遺しすぎだぞ、肚黒タヌキめ。

どんな手紙がどれだけ抜かれたかは知りようがないが、実は匿名の密告者が私への親展を、別便で送ってくれた。それが、ここにある。

ニエッキについて書かれている。

彼がいかにひどい男で、デウスを侮辱し、十戒に叛き、コンパニヤの名誉を踏みにじる大悪党であるかがよくわかる、貴重な証言だ。

 

ニエッキは復活祭の日にオーザカへ出かけ、ドナ・グラッサと密会した。

それは想定内だったが、あいつ、他にもいろんな女とつきあってるぞ。

一番の大物は、オーミ国領主だった男の未亡人。私も知っている。夫婦揃ってゼン宗の論戦家だったのを、イルマン・ロレンソが40日かけて改宗させたのだった。

この未亡人、淋しくなると従僕を教会に行かせる。ニエッキはすぐに駆けつける。そんな関係が、もう何年も続いているそうだ。

 

ジュストやアゴスチニヨが、こんな女たらしを私よりも信用しているというのは驚くべきことなのだが、案外かれらも同類なのかもしれない。人は見かけによらないねえ。

いったい私のことを、どんな誹謗中傷で塗りたくって噂していることやら。考えたくもないことだが、それはいいんだ。

君たちがデウスの教えに反していること。それだけで罪状は必要にして充分じゃないか。そこを審問させていただくよ。きっちりとね。

ああ、きっちりとだよ。

 

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