戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1589/003.hmos

クルメへ招かれた。マセンシアが、男の子を授かったのだ。

彼女の父がパライゾへ旅立って、ちょうど2年経つ。偉大な祖父がいつも傍で見守っていてくれるようにと、霊名はフランシスコ。即決だった。同時に、求道中だった家臣ら数十名にも授洗した。

 

昨秋、放浪中に立ち寄って以来だが、マセンシアはほんとうに幸せそうだ。

夫のフィンデナオも話のわかる男で、若いながら立派な貫禄である。彼はなんと、現アキ王の祖父が71歳のときの子供だという。母親はかなり若いようであるが。

なんでもベルシヨール・マナセが老アキ王に最強の精力剤を処方し、それによって授かったのだとか。

フィンデナオは物心ついたときからずっとその話を聞かされ、からかわれながら育ったので、すっかり早熟が身についた。夥しい兄や姉たちにも可愛がられたので、性格も柔らかい。

聞き上手なのだな。マセンシアがどれだけ癇癪をぶつけても、いつも優しく真剣に、受け止めてくれるのだという。いいね。実にいい。

私もこの城を去りがたくなってしまうほどだよ。

 

マセンシアの気の強さは、幼い頃からお目付役だった乳母カタリナの影響じゃないかと思う。

オーザカへもずっと随いていったカタリナは、今や両親以上に幼フランシスコを溺愛し、片時も目を離そうとしない。私が抱かせてもらってる間も、あまりにも心配そうに睨みつけてくるものだから、すぐ返した。

この子はきっと幸せに育つにちがいない。

いや、すべての子供たちが幸せに育てられるように、我々は独裁者と闘わねばならないのだった。忘れるな。

 

そこへ急報が届く。ブンゴからだ。

全員が、激怒した。ヨシムネがドン・フランシスコの墓を掘り返し、仏式で葬儀をやり直したという。

ついに狂ったか。

それが亡き父の尊厳をどれだけ踏みにじる暴挙か、わかった上での狼藉か。

坊主たちは勝ち誇った顔で整列した。その面前で、異議を唱えた市民は問答無用に捕縛されたという。

 

ここで、なぜカミではなくフォトケにやらせるのかという疑問が湧いてくると思う。

 

ヨシムネが妄信する対象はカミだった。いつ宗旨替えしたのか。

驚くなかれ。カミとは、戦争での勝利とか、博打で当たればいいなとか、そういったものをお願いするために存在する偶像にすぎない。

フォトケは、日本では教育と同じ扱いをされる洗脳行程や、結婚式、葬儀などを坊主が大金を巻き上げて独占する、反社会組織の集合体である。

近年、カミとフォトケは別物だという風潮が生まれた結果、このような役割分担に落ち着いた。

1000年間、カミはフォトケに取り込まれていた。いまさら急に自立できる構造を有してなどいないし、なんだかんだいって肝腎なところはフォトケに頼るのだ。

普段はデウスに対抗するためハチマンを掲げるヨシムネが、今回だけは坊主に尻尾を振る。論拠薄弱の見事な証明を自分から開陳してくれて御苦労様なことである。

 

情報集約のため私はすぐアリマへ戻った。

ヨシムネの狂態はこれだけではなかった。

現在、ドン・パウロはキナイへ赴いている。ヨシムネの息子が官位をもらうことになり、その付き添いを命じられたそうだ。

パウロがタケダを離れるやいなやヨシムネは、留守を預かる家臣団に対し、あらん限りの難癖をつけ始めた。

検地、会計、事件簿、風評。なんでも構わず、書類の不備や数字の狂いを見つけてあげつらい、家臣を一人ずつ名指しで呼びつけ、政庁で取り囲み、いたぶり尽くす。パウロが戻ってこれない期限で回答と決裁を要求し、罰則を課し、権限を削り取ってゆく。

すでにタケダ領の行政機構は崩壊に瀕しているという。

なんという悪辣な手段を使うか、ヨシムネ。

息子は、まだ幼いはずだ。それに官位をだと?よほどカンパクに擦り寄ったとみえる。どこまでもわかりやすいゲスだよ、おまえは。

 

もちろん現地でも、状況打開のための協議は重ねられている。しかし武装蜂起は相手も警戒済み。むしろタケダ周辺にはブンゴ兵がすでに配置されており、火の手が上がり次第一気に突入し叛徒を鎮圧するという筋書きに沿って動く準備を整えている。

ドン・パウロは智将だ。だから、彼が帰還しないうちにすべての結着をつけるつもりで、計画的に進められていることなのだろう。

ヨシムネやチカカタだけの知恵ではないな、これは。

カンパクか。

中央とも連携して、総出で練り上げた謀略なのか。

 

事態を見守る最中、更に衝撃の報せが入る。

私はドン・プロタジオから呼び出され、伝えられた。

 

カンパクに、子供が生まれたという。

 

いったい何の冗談かと、最初は理解が追いつかなかった。しかしドン・プロタジオは以前から噂を耳に入れており、おそらくヨシムネも、アゴスチニヨもシメアンも、サツマあたりも、カンパクに近しい者なら心の準備はしつつ口には出さずにいたはずだ、という。

当然ながら現在キナイにいるドン・パウロは、市民の熱狂にも囲まれながら、祝賀の席に参列することとなる。出立はそれだけ遅れよう。

家臣の架空の反乱が鎮圧され領地がなくなったあとで帰郷しても、怒りをどこへ向ければいいのか。そこまで計算してのお膳立てかヨシムネ。見事すぎて吐気がおさまらない。

 

それにしても、誰の子だ?

父親も母親も、謎のままだ。

 

ここからはドン・プロタジオが既に聞き及んでいた材料から組み立てた仮説になる。

まず、母とされる女とは、アサイ殿の娘。

アサイとは、昔むかしカヅサ殿が滅ぼした、オーミ国領主のひとりだ。

カヅサ殿の妹を妻にして3人の娘をもうけ、裏切って、殺された。

その3娘のうち長女が、カンパクの妾になっていたらしい。

 

しかし父親がカンパクのわけはありません。何百人もの女を好きなだけ弄んできた男ですよ。

子種があるなら何十人も生まれてきているはずです。

それを言うと、ドン・プロタジオは顔を歪ませた。

 

「ありえなくは、ない。仮に父親が別人だったとしても、証明は不可能だろう。関白殿の世嗣ぎが生まれたということが事実なのだ。それを認め、その上で、今後どうすべきかを考えねばならん。

ともかく、こうして日本中に告知され、私へも、上洛して祝いを述べよという、日程を指定された召集令状がきた。

すぐ、支度をせねばならん。

フロイス殿。留守中くれぐれも、軽挙妄動は謹んでほしい。

監視は常にされている。伴天連追放令は今も有効なのだ。それが撤回されぬうちは、決して、疑いを抱かれるようなことをしないでいただきたい。よろしく頼みます」

 

了解するしかなかった。出立を見送った。

クルメのフィンデナオにも、召集がかかっていることだろう。

すべて計画に沿って動いているようだ。ええい、肚立たしい。

抵抗もせず、ただ手足を縛られて沼に沈められていく気分だ。展開が急速すぎるぞ。いったい、どうなっているんだ。

 

ほどなくタケダ領から、パードレたちが護送されてきた。

領内から全員が出て行くことで、ヨシムネが家臣いじめをやめるという妥協が成立したらしい。

城下の大きな十字架も、伐り倒されたという。

屈辱的な、あまりに屈辱的な敗北というしかなかった。

 

ミョウケンでも、すぐに同じことが始められるか。やりかねないな。

マテウスの部下たちも、今ではかなり人相が特定されて、何人も捕らえられ、拷問され、生首を曝されるという事態に至っている。

それはむしろ残存勇士の闘志を奮い立たせ、次は俺がマルチルだ、という逞しい好循環も生んでいるのだが、私だけは申し訳ないと思っている。

かれらの行動は常に隠密作戦なので、詳細がわからない。

ブンゴ役人による拷問もどんなものだか想像ができないので、その死に報いることができない。聖遺物も手に入らない。

せめて裁判した上での死刑で、直前にパードレへのコンヒサンが許されるなら、なんとか物語にしてあげられるのだけど。

残虐非道が大手を振るう、悪魔のはびこるブンゴ国では、それも、ままならぬのだ。

 

心から、すまないと思う。

だから、つかまるな。

なんとしても、生き延びて、すべての悪を倒したあとで、私に、君たちの武勇伝を聞かせてくれ。でないと、マルチルになり損だぜ。

 

それって、つまらないじゃないか。

そんな勘定を、できる信徒で、あってくれ。

 

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