戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1590/007.hmos

奇妙な合宿生活が始まった。

 

今年パライゾへ旅立った3名を除くと、駐日パードレは37名。サンチェスがいなくなったから、滞日歴では私が最年長だ。

私はヴァリニャーノに命じられて、全員に召集をかけた。

超大物の再来と、世界の中心を見て帰ってきた日本人少年たちをひと目拝まんものと、大勢の信徒たちを引率してきた者も結構いる。

断りきれるものではないよな。それもわかる。

驚くのはむしろ、そんな日本人たちとも積極的に交流しようとするヴァリニャーノの姿勢だ。

めんどくさいし、キリがないだろうに、ヴァリニャーノは連日、かれらと対話した。

 

日本布教の実態をたしかめ駐在員たちの査定をするためだという狙いはわかっている。それにしても精力的だったし、日本人信徒たちからの支持率は天井知らずで跳ね上がった。

そんな姿を見せられると、この人に小細工で立ち向かおうなどという考えは起きなくなる。余計、恥を掻くのがオチだ。

日本人たちにも、日頃の思いをそのままぶつけたまえと敢えて言おう。この言い方なら、私に憂さをぶつけてくる輩も出にくいと思う。結果、私もたすかる。

 

合宿所はドン・プロタジオから邸を一軒、提供してもらった。追放令直後のフィラドでは狭い長屋で虱まみれになったものだが、それよりずっと広くて良い邸宅だった。

考えたら11年前ドン・プロタジオに授洗したのはヴァリニャーノだったし、今こそコンパニヤへ恩を売っておくのはアリマ領主として最も有望視できる投資に違いない。

 

そしていざ会議が始まると、この軟禁生活は数箇月あるいはもっとかかるだろうとすぐ皆が察した。

プロタジオには尋ねられるまで黙っていよう。よもや、立ち退きを求められることもあるまいとは思うが。

いつまで居座るつもりなのか?

それは、ヴァリニャーノ次第だ。

会議あるいは協議会と銘打たれてはいるが、実際これは裁判である。

最高審問官ヴァリニャーノが一切の進行を司る。彼が求めなければどんな発言も許されず、要求されれば遅滞なく意見あるいは証言を開陳せねばならない。

 

私は書記を命じられた。

私の発言は、書記その2が記述する。

毎日、鵞ペンを100本研いで議場に臨む。ヴァリニャーノは夕刻、これを全部読み、添削し、夜、私に清書を指示する。

翌朝までに完成させなくてはならない。三時課が終わるとすぐヴァリニャーノは前日の記録を手元に置いて当日の審理を開始するからだ。

主日だけは、きっちり休める。私は泥のように眠る。

小細工を弄す余裕は無い。

 

ヴァリニャーノが恐ろしくてたまらない。

しかしヴァリニャーノを憎む気は起きない。日数が経過し、議題が深化していくにつれて、彼の狙いがわかってきた気がする。

ここにいる全員の潔白を、ヴァリニャーノは証明しようとしてくれているのではないか?

 

大筋としては、カブラルの差別主義とコエリュの支配欲求。これらがすべてを狂わせた。だが、その病根はもう消滅している。しっかりと目を見開いて考えよ。自分たちは、世界に遍く福音を届けるために遣わされた使徒である。その原点に、立ち還れ。

ヴァリニャーノは、どうやら私たちに、そう説いているのだ。

 

答弁を通して見えてくるものもある。

理解の早いパードレは、うまくコエリュに罪を着せる。その時その場にコエリュはいなかっただろと私ははっきり覚えているのだが、確認を求められれば即興で口裏を合わせる。

はい。それを命じたのはコエリュでした。こんな口調で怒鳴りつけてました。

記録だけを読めばコエリュはとんでもない大悪党で、私たちは皆彼の権威に戦々恐々と跪き、良心を偽りながら、考えないよう、声を発しないよう、怯えて暮らしていた。さかのぼれば、カブラルの時代からそうだった。

こんな物語ができあがってゆく。

 

日本史は、また全部、最初から書き直さなくてはならなくなるかな。そんなことも思う。

言葉は悪いが、一種の共犯関係のようなものが私たちの間に芽生え、接着剤のような効果をもたらしつつあった。

しかし物わかりの悪い者は、いつまでも吞みこめないでいる。

ヴァリニャーノは辛抱強く、かれらへの尋問を繰り返す。私たちも挙手をして加勢する。

直接正解を教えるのは野暮というもの。本人が自力で気付くまで誘導するしかない。

時間がかかる作業だ。しかし必要なのだろう。

我々が一丸となる、鉄壁の信頼を築くためには。

 

物わかりの悪い筆頭は、やはりニエッキである。

全員が彼には苛立っている。

頭の回転が鈍いというだけではない。おそろしく頑迷で、自己の信念に対する固執が強烈なのだ。

ふた言目には、自分だけが知っている日本人の習俗や体験談を持ち出して、語り始める。日本語、しかもキナイ方言が無秩序に混ぜこまれているニエッキ語はきわめてわかりにくく退屈で、その解説と反論は、主に私しか対応できない。

坊主との宗論に近いものがある。

セスペデスやパシオも時折援護してくれるが、かれらがキナイにいた頃からこんな調子だったそうで、当時から誰もが持てあます老害だった。今は、更にこじらせている。

強壮剤を呑ませてやりたいと何度も考えたが、当人は至って頑健な肉体を持っているし、そもそもここで調合を行う危険は冒せない。

 

 

メスキータと貴公子たちが時々やってきて、語らってゆく。

これが次第に私の息抜きにもなってくる。少年たちも、巡業先での不平不満を私にだけ漏らしてくれるようになってきた。

愚痴ならいくらでも聞いてあげるよ。助言も、他の者よりうまくできるだろう。

誇らしい気持にさえなる。

 

「日本人は、饗宴が大好きです。

毎夜、私たちの歓迎会だと称して酒宴を催します。私たちはこれに出席を強要され、まるでかれらの愛玩動物であるかの如き奉仕を求められます。

どう断ればよいですか」

 

断りたい、まっぴら御免だ、という強い意志を理解する。

あいにく日本人には、どんな意思表示も通用しない。

幸い、君たちは5人いる。体調不良を口実に2~3人は早めに退場することを決めておいたらどうだろう。

メスキータよ、貴公子たちが盃に注がれた酒を、代わりに飲んでくれる日本人を何人か手配しておいてくれ。志願者は大勢いるはずだ。

貴公子たちは日本酒に慣れてないのでと、かれらにうまく説明させるよう教えておくこと。日本人は断り方にも神経質な拘泥を示す。この点は軽視せず、得意な日本人にすべて任せることだ。

 

「日本人は、魚を生で食します。しかも高級食材として珍重しているようです。

気持ち悪いし、生臭いし、吐気をこらえるのがつらくてたまりません。

克服する手段を教えてください」

 

メスキータ。これも、代わりに食べてくれる日本人を探せ。

断るだけでは貴公子たちが栄養失調になってしまうから、宴会の前と後で必ず握り飯でも準備しておくこと。定期的にナンガサキへ戻って肉を食べることも必要だ。

少年たちよ、我慢して一口だけ食べようなどと、しなくていい。日本人は、ひとりが食べさせるのに成功すると、自分からも食べてくれと次々襲いかかってきて、断ると不公平だと逆上するのが常だ。

断るなら最初から、すべて断れ。断るべきだ。

 

「私たちは、音楽を愛します。

ナブリウム、サンブカ、キタラ、リラ、プサルテーリウムやテストゥードゥーまで持ってきており、どんな曲でも奏でることができます。

エウロパではどこでも喝采で迎えられました。しかし日本では、私たちの演奏はまったく響かない。

いつも、虚しくなります。

日本の曲を教えてください。私たちは、それを練習したいです」

 

無駄な努力だと思う。やめるべきだと断言したい。

日本人は音楽を解せない。音階も旋律も、和音も説明できないし、相当する単語も皆無だ。

君たちの演奏は、とてもすばらしい。ほら、ここにいるパードレたち全員が、聴き惚れているだろう。教会やセミナリヨで存分に演奏してほしい。

しかし宴会で日本人相手に披露するなど、それこそ猿の群れに聖書を読んで聴かせるに等しいよ。

そんな奉仕はきっぱりとやめてよい。やめたまえ。

音楽に対して失礼だ。

 

「日本語を学習したいと思うのですが、生半可に取り組める対象ではありません。難しすぎます。

立派な先生の下で、何年か修練する必要を感じています。パードレ・フロイス、よければ私たちの先生になってはいただけませんか?」

 

ありがたい申し出だが。

管区長より命令されれば引き受けよう。でも私はやりたくない。

たしかに、ここにいる中では一番、日本語をうまく扱えるだろう。ニエッキは選外として。

しかし私自身は、日本語にも日本人にも、まったく愛情を持っていないのだ。

むしろ憎悪している。教師となるには不適格だと自覚する。

だから、せいぜい助言しかできないわけだ。

もちろん君たちのことまで否定しているつもりはない。

君たちは、もとは日本人だったかもしれないが、今は立派な人間だ。だから、これからも人間としてまっすぐ歩んでほしい。

 

私たちの絆、すなわち連帯する根拠となるものは、まさに、そこにこそ、あるということだ。

 

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