戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1590/008.hmos

カンパクはオーザカを首都にするつもりなのだ。そう、私は思っていた。

 

しかし奴は、自分と家臣団を官位でゴテゴテ飾り立てているうち、その権威はダイリあってのものなのだと気付いたらしい。

ダイリはカミキョウの王宮から出たことがない。一説によると800年ほど前、ミヤコが日本の首都となった時から代々ずっとそこに住み、日本を悪霊や災害から守り続けてきたのだそうだ。

へえ。驚くよね。

日本人はこんなゴタクを真顔で言うんだ、ってことに驚くよね。

 

狂言はさておき。そんなダイリをオーザカへ移住させるのは甚だ面倒臭い。

そこで、カンパクの方がミヤコへ転居することにした。

カミキョウから何百軒もの邸宅を立ち退かせ、地均しして、王宮よりも豪華な政庁兼別荘を建築する。精鋭土木部隊が、何千人もの過労死を出しながら完成させたらしい。

追放令以降、私はキナイ事情にすっかり疎くなっていたが、これのせいで東部戦線が延期されていたのだと説明されると、納得もさせられる。

それにしてもニエッキ。ユノ島潜伏中、そんな報告一切よこさないで何を今更、物知り顔で語ってやがる。

一事が万事そういうとこだぞ。誰か、とどめを刺してやれ。

 

他力本願はさておき、今春カンパクはいよいよ東部へ向け、ミヤコから大軍勢を率いて出征した。

そして半年もかからず東北全域を屈服させ、ミヤコヘ凱旋してきたそうだ。

ヴァリニャーノが申請している謁見希望が、これでやっと進展するかもしれないと期待された。

 

日本をその一部とする、広大なインディア管区の長から任命された正式な外交特使だから、それなりの仲介者が必要だ。

ヴァリニャーノは来てすぐこれを、ナンガサキの知事に依頼した。あるいは適切なる地位にある方へ取り次いでいただきたいと、要望した。

まともな国相手であれば正しい手続きに思われる。だがしかし、ここは日本だ。

追放令以降、実はナンガサキの統治担当者は何度も交替をしていて、専任でもないし一人だとも限らない。ドン・プロタジオもたびたびナンガサキと行政上の交渉を迫られるが、まともに進展したことなど一度もない。

 

あまりにややこしいので、現状についてのみ説明する。

 

ダンジョウと呼ばれている、カンパクの側近が、書類上の最高責任者。サツマ退治のときシモへ一緒に来ていたらしいが、顔も知らんし、それっきりシモへ来たこともないはずだ。

そいつを補佐する形で、現在は2名、それぞれコクラとスコに土地をもらった成り上がり領主が、執政官として名を連ねている。

だがこの本人たちも、ナンガサキへは来たこともない。

かれらの家臣で、持て余されている者が、よこされる。

どこかで何らかの失態が発生するたび、交替させられる。

コクラとスコは責任を押しつけ合う。が、そもそもまともな報告書がつくられ中央まで届けられているとも思えない。

そんな、グダグダの極みなのだ。

 

今回、コクラかスコか不明だが、その時庁舎にいた知事が、ダンジョウにお伺いを立てたらしく、ヴァリニャーノの相手をするのはダンジョウの役目、ということになったらしい。

ダンジョウは早々と仲介料を要求してきて、ヴァリニャーノは即、礼金と合わせて支払った。

その後、音信不通だ。

コクラとスコの領主も東部戦線へ出かけているというが、その物見遊山は2箇月前に終わっているはずなのだがな。

 

ともかくこんな、無責任官僚の無責任体質による無責任行政がまかり通っていて、話にならない。

痺れを切らしたヴァリニャーノは、年内に出立を決意した。結果がどうなるにしろ、冬のうちに報告書を仕上げて定航船でアマカウへ発送しなければ、対日本戦略がまる1年、停滞してしまうからだ。

 

追放令の対象である駐日パードレは、もちろん私を含め、ミヤコ行きからは外されている。

ヴァリニャーノもパードレであるが、過去の経験をインディア王から認められて特使に任命されたのだという説明をして切り抜ける。メスキータも、貴公子たちの引率者としてその役目のみに徹する。

だが、万一ということもある。

道中なるべくこまめに書翰を送るから、届く端から複写して、註釈を補って報告書にまとめ、定航船団長に預けること。そのための特別班が組まれ、私も一員に加えられた。

 

機密事項にも抵触することが確実なため、少数精鋭となる。

私は、ここでようやくヴァリニャーノの連れてきた異端審問官のうち数名と、自己紹介を交わすこととなった。

しかし打ち解けるまでには達しない。

かれらは仲間うちでさえ信用しないことを当然のように振舞っている。

息苦しくてたまらない。私も、気を許さないように気をつけるが。

むしろ機密に触れられる特権を最大限に享受しつつ、審問官たちの弱みを掴んでおくことを心掛けながら、ヴァリニャーノの無事を祈ろう。

 

出立直前、貴公子たちの一人がナンガサキへ残ることになった。

彼の名はドラード。

教皇猊下への謁見はしていない。マンショやミゲルほど社交上手でもなく、むしろ機械を扱うことに才能を発揮する。

楽器の調律も得意だが、来日後は時間さえあれば活版印刷機をいじっていた。リジボーアから輸出された、特注品だ。これ一台でナウ一隻買えるほどの、高価な代物である。

エウロパでは印刷機の発明と普及が文化興隆と民衆の教化とを飛躍的に伸張させた。日本にはこの技術というか発想がそもそもなく、紙だけは安いが、人々は複雑な文字をひとつひとつ丁寧に筆で書くことでしか記録を遺す手段を持たない。

日本語は文字種もやたらと多いため、この機械を日本で役立てるとしたら、ラテン語で聖書やケレドを印刷・製本して日本人に学ばせるしかない。これが普通の発想だった。

ドラードは、奇策を思いつく。

日本には、女性語と呼ばれる種類の文字が約50ある。エウロパの標準的なアルファベット・記号・数字を足したより少し多いくらいだ。

これだけあれば日本語を不足無く表現し、印刷本をつくることが可能。

ラテン語で普及させるより、ずっと早く、日本人の平均的教養を高めることができるはずだという。

私には半信半疑のような気もするが、ドラードは夢中で、寝る間も惜しんでその字母の活字を作り始めた。

これを続けたいから、ミヤコ行きを断ったというわけだ。

ヴァリニャーノは許可した。最悪、全員が捕らえられ処刑される危険もあるのだ。一人でも残しておいた方がよいだろう。そんな理屈で。

 

少年たちは、最後となるかもしれない、5人での演奏会を催した。

マルチレスとなっても楽器は誰かが持ち帰るんだぞ、印刷機より高い値で売ってやるから。そんな激励が次々と飛んだ。

 

ヴァリニャーノ一行は、ひとまずムロまで舟で行く。

アゴスチニヨも半年以上ウトを留守にしているから、ヴィセンテに種々の紹介状を書かせた。現地でこの順に、次々頼っていくことになる。

連絡員、諜報員として日本人信徒も腕利きを多数従えての行軍だ。アブレウや、それからミヤコの地理に詳しいカフルのヤスケも含まれている。

全員と、ここでお別れかもしれないと思うと、十字軍の壮行式を追体験しているかのようだ。

みんな、パライゾで邂逅しよう。

恥ずかしくない戦いをしてきてくれ。

 

審問官たちは日本史の研究に余念がない。

私の書いた物語も、それ以外の文献も、片端から読み込んでは、質問を浴びせてくる。

中でも話題にのぼるのは、10年間にわたるイコ宗との攻防だ。

今ではすっかり無力化され、オーザカに与えられた隠居所で日和見をしている連中だが、審問官たちはここにデウス追放令の手懸りを見出しているようだ。

 

「イコ宗の、邪悪を極めた行動原理は、モーロ人よりも厄介だ。

モーロ人にはかれらなりの戒律があり、その習性を観察していれば、炙り出せる。

イコ宗は民衆に溶けこみ、気付かれることなく増殖し、狙った敵に対抗して即興で連携し、執拗な攻撃を繰り返す。

いかなる統制でこんな芸当が可能になるのか、どう対処して立ち向かうべきなのか、皆目見当もつかない。

ノブナンガは10年かけて、かれらを倒した。だがカンパクはその攻略法を受け継いでおらぬようだ。

コンパニヤに対して同じような脅威を抱いているものと考えられるが、追放令は戦略として全然効率的でなく、不徹底ぶりにも呆れてしまう。おかげで助かっているとも言えるが」

 

たしかにモーロ人に比べたら生ぬるいですね。おかげで、助かってます。

それにしても、イコ宗なんかと一緒にすんなよって思います。教養無しめが。

 

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