戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1591/011.hmos

薄汚れたじいさんが駆け込んできた。

教会に匿ってほしいという。

 

蝋燭の炎で顔を照らすと、ドゥアルテだった。

少し身綺麗になっているな。

カネならある、とこれも不似合いな銀貨の束を見せつける。

ひとまず、わかった。

火を吹き消し、地下の隠し部屋へ連れ込む。

 

サツマから逃げてきたらしい。

噂通り、ソリスたちと連れ立って密貿易の片棒担ぎに行っていたのだ。ポルトガル人は待遇も良く、いい気になって遊び暮らしていたらしい。

ジャンクの建造と海図作りに惜しみなく協力していたが、当然のごとく、用無しと見なされればあとは処分されるばかり。

ドゥアルテは体も衰えているので、力仕事で貢献しようにも限界が近い。

ソリスの方は若いし弁も立つし、もう少し利口に立ち回ったみたいだが、ドゥアルテはカネを奪って逃走した。

 

何人か殺してきた武勇伝も語りたそうだったが、それは別な機会に、他の誰かとしてくれ。

サツマはドゥアルテを、何としてでも探し出そうとするだろう。

とばっちりはごめんだな。

とっとと片付けてカネだけ巻き上げたいが、こんな男に強壮剤はもったいない。

始末する前に、もっと情報を聞き出しておこう。サツマの内部事情を知る者は貴重だからな。

 

「サツマは何年も前から、マニラと非公式な商売を続けていたようですよ。

カゴシマ湾は大船を隠しやすい入江が幾つもあり、役人の監視所もあちこちにつくられています。

領国内のサツマ人は互いに相手のことを問いたがらない気風が強いです。特にヨソ者とはあまり話をしたがらない。そんな性質が根付いてますな」

 

日本の端っこで外洋に面しているのだから、もっと開放的な文化が育ってもよさそうなものだがな。

密貿易の一大拠点なのは想像通りだ。ブンゴの子供たちも、大勢ここから出荷されたことだろう。

 

「サツマの南方にレキオスという島国があり、マニラとの中継地になっています。

サツマの役人でも、マニラとレキオスの区別がついてない者が少なくない。サツマからレキオスまでは大船でなくとも往来できる距離ですが、ほとんど交流はなかったみたいですな。

マニラの密航船団も、レキオスにはあまり関心が無いみたいです」

 

66領国には含まれていないな、レキオスは。

ツシマと同じような存在感なのではないかと思う。

香辛料が獲れれば小さな島でも重要な拠点になるはずだが、おそらく、そんな特産品も無いのだろう。

サツマとレキオスに交流が乏しいことについては、さっきのサツマ気質を考えれば、不思議とも感じない。

 

「ここからは重要な話になりますが、ちと小腹が空いてきましたな。酒も飲めると、ありがたいのですがな」

 

フン、心得ていやがる。いいだろう。準備してやる。

その代わり、もったいぶらずに話せよ。

 

「サツマでは、デウスの布教は禁止されています。コンパニヤのパードレはいません。

ですがドミニコの宣教師はいたのです。マニラから来ている、主にエスパニヤ人についてきて、住みついているのですな」

 

なんだって。裸足派がサツマに拠点をつくっているのか?

それは……看過できない情報だな。

 

「大っぴらに布教はしてませんよ。日本人にとっては、同じデウスの教えですから。

しかし今後サツマがジャンクを造ってマニラへ進出していくとすれば、コンパニヤではなくドミニコやメノールが仲介を引き受けてゆく可能性は出てくるでしょうな」

 

明確な協定違反だ。そこは抗議しよう。

しかし、やつらが情報蒐集と根回しを何年もやってきているとすると、ちょっとした脅威にはなりかねないな。

かれらの日本語習熟度はどれほどだったかね?

 

「やあ、旨い酒だ。眠くなってきました。続きは、また明日にでも語りましょうや」

 

小芝居しやがる。

引き延ばそうったって無駄だ。コンパニヤは、サツマほど甘くないからな。

 

ドゥアルテが起きたら、すぐに全部吐かせる。準備しておけ。絶対に逃がすなよ。

 

サツマの大船建造がいよいよ確定となった。徹底した秘密主義で遂行されているようだ。

ひとつ疑問がある。

この計画、カンパクには伝えているのだろうか?

 

カンパクが承認している場合は、秘密裡に行うことも、カンパクの指令だということになる。

コーリア侵略に使わないわけはないから、その際は輸送船団の旗艦を務めるだろう。ドゥアルテが目を覚ましたら、建造中の大船がただのジャンクか、多少なりと武装を施していたかを確認しよう。

それだけでも今後の展開が予測可能になる。

 

サツマがカンパクに知らせず造っている場合は、謀反の疑いに結びつけることができよう。

余罪もたっぷりある。サツマの解体は間違いない。シモでもう一度、前回を遥かに上回る大戦争が勃発するかもしれない。

コーリア侵略が水泡に帰し、未然に防げるならヴァリニャーノは喜ぶな。

そのぶん私たちに降りかかる危険が跳ね上がることまで考えていやがるかは疑問だが。

 

シモ北端では、出撃拠点の城砦づくりが始まっている。

ナンゴヤという荒地が選定され、プロタジオやサンチョはじめヒゼン全ての小領主が兵を率いて集結し、ミヤコから来た土木部隊に協力して町ひとつ作り上げようとしているところだ。

一方で、命じたカンパクは未だ息子の死から立ち直れず、ヲアリ国で長期遊興中という報告を受け取っている。

何もかもがおそろしく乱れまくったまま進行中なのだ。返書は未だに届かない。

 

「パードレ・フロイス。ちょっと、いいかな。妙なものを見てきたんだが」

 

地図職人モレイラさん、なんでしょう。あなたが妙と言うからには、よっぽど妙なものなんでしょうね。

 

「カンパクが、民衆からカタナや甲冑などの武器を没収して回っているというのは、本当なのかね」

 

ええ、事実ですよ。キナイでは数年前から行われていて、順次全国へ展開中。

平和な時代に武器は要らぬ、鉄は溶かして釘にするとか抜かしてますが、一方では武器の増産もしてるくせに。もっと説得力のある嘘をつけよと思います。

 

「そうか。私が今日見たのは2人目だが。ミヤコから来た刀剣師だという。

近々、シモでも役人が武器を押収しに来る、戦国の世に磨き抜かれた数多の名刀が溶かされてゆくのは忍びない、今なら私が高く買おう。と言って往来で査定をしたり、所有数が多い家へは訪問して蘊蓄を語ったりしているのだ。

実際、いい品は高く買い取ってくれているようだ」

 

へえ。まあ、筋は通ってますかね。

目の利く商人なら、そうやって全国を先回りしておきたいものでしょうね。

 

「どこが妙だか、気付くかね」

 

関所を通過するには許可証が必要ですが、武器をいくつも担いで動き回れる商人は、さぞや大手の一員なのだろうと思います。

集積場所も必要だ。

かなり組織的に動いているはずですね。

 

「そうだね。以前、水脈を探して歩き回っていた密偵どもと同じ手合いだよ。

今度のも、拠点は北ヒゴと思われる」

 

なるほど。じゃあ……

この地域にはどのくらいの武器が埋蔵されているか、を事前に探っておくのが主目的の偵察員とみるのが妥当ですね。

毎日地図に書き込んで、それをもとに近々、中央の役人が乗り込んでくるといったところか。

 

「そうだな。うちの管区長よりずっと巧妙な手を使う連中だよ。

そして、もうひとつ、かれらが調べて回っていることがある」

 

そっちが本題ですか。なんでしょう。

 

「カンパクの手下だとすると、信徒が派遣されてくるのは、おかしいだろう?」

 

え?信徒なんですか。その、自称刀剣師は。

 

「名品と見ると、思わず十字を切る。そんな仕草で相手がひっかかるのを誘う。

私がその場にいると警戒されるから、日本人の従僕に探らせた。

実際に信徒だった者を使っているみたいだな。

打ち解けた相手からは、いろいろ聞き出す。やつらの地図には信徒の分布も書き込まれているはずだ。

これは、早めに手を打っておかないとまずいことになると思ってね」

 

まったくです。すぐに周知徹底しましょう。

カンパクめ、どこまで小汚い策略を使ってきやがるんだ。

よく気付いてくださいました。感謝します。

 

「ついでだから聞いておきたい。

敵は、元信徒を我々にぶつけるという戦術を実践している。

我方は、同様の戦術を可能とするものかね?」

 

日本人イルマンはほとんどが、もと坊主です。坊主の思考回路や習性は、かれらから学ぶことができます。

しかし今回のような使用法はちょっと思いつきませんでしたね。

 

「それもすぐに対策した方がいい。

敵は我方にできないことができる。その差は、あっという間に開くぞ」

 

心得ます。ありがとう!

 

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