戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1592/003.hmos

ナンゴヤ。

フィラドよりまっすぐ東。アゴスチニヨ隊の船であれば、1日で着ける。

 

海岸線は色とりどりの軍船でひしめき合い、平地も、見渡す限り建物が連なっている。

巨大な町だ。

ただし、子供はいない。

女はいる。娼館が設けられているのだ。

町外れには、馬場のほかに、牛や豚の飼育場と解体場がつくられているという。

宣教師を追放するのは肉を食うからだ、とか誰かが昔、吠えていたような気がするのだが。

私は今も主張する。

この国から追放されるべきはおまえたちだ、日本人。

 

東西南北に分散配置されている物資集積所には日本中から掻き集められたコメや武器が備蓄され、格別、警備が厳しい。

職人区画では弓矢や槍などが生産され続けており、その材料はファカタ商人たちが運びこんでいる。

ファカタでのタイコー人気は凄まじいらしく、全市民がタイコーの来訪を待ちわび、カライリを大成功させるため徹底貢献を尽くしますと気炎を上げているのだとか。

 

牛豚広場と並ぶケシカラン存在といえば坊主区画だが、法外に広い敷地を割り当てられており、最近は我々を猿真似して、従軍教誨師を養成していると聞いた。

思えば昔から、テラといえば捨て子を集めて兵士に育てる一種の人材派遣業でもあったわけだし、戦時にはどこの兵団にでも宿所と救護所を提供するのがテラの役目であると相場が決まっていたものだ。

なんと美しい結託ぶりであったことかよ。

 

さて、巡察はここまでだ。

アゴスチニヨ兵団の護衛に囲まれながら、それでもごく一部しか見て回ることを許されない。

いよいよ出陣するにあたり、兵たち全員の総コンヒサンを請われたので、やって来たのだ。

とっとと終わらせて、とっとと帰ろう。

ここは聖者の赴くべき場所ではない。

だって、言えないよ。

君たちはこれから遠い遠い異郷をひたすら歩き続けて、そこで凍えて死ぬんだよ、なんて。

 

すでにミヤコからは、準備整い次第タイコーの到着を待たず出征すること、という命令が下っており、その先陣をアゴスチニヨが務めることも指定されている。

これから続々カミ島の兵団が集まってくるが、いかに広くともナンゴヤに収容しきれないからだ。

どんどん押し出していけ、というわけである。

 

シモにはデウス信徒が集中しているため、緒戦で積極的に消耗させよう、という狙いも透けて見える。

それが根拠に、カトーやサツマの兵団は最後尾指定なのだ。

先発諸将は部下たちに、一番乗りして広い領地を手に入れようぞと鼓舞するのだが、どう指摘してやるべきか。

きわめて雑に複写されたデタラメな地図を握りしめ、どこへ飛びこむつもりなのかね君たちは、と。

 

アゴスチニヨはもう少しマトモな男だと思っていたのだが。

真剣な瞳で、私に語る。

着いたらすぐ教会用地を確保しよう。最も美しい建物を接収し提供しよう。だから若く壮健なパードレを何人か同行させたい。選抜してくれないか、と。

 

すでに有名無実と化し、タイコーの意地だけで続けられている宣教師追放令は、外地では適用されない。

私たちはひとまず大陸に居場所を移し、開拓に励みながら、じっくりと体力を養う。

いずれタイコーが死んだら戻ってこよう。その頃には日本中の坊主が束でかかってきても軽くひとりねりできるほどの戦力差をつけていよう。

そのためにパードレを一人でも多く連れてゆきたいのだ、と。

 

アゴスチニヨの声には、よどみが無い。

よどめよ。

少し冷静になって考えてみろよ。

誰かに背中を見てもらえよ。

びっしり、蠅がたかってるぜ。

ケツの穴から蛆が這い出て、尻尾のようだぜ。

きっと脳まで食われてる。

おまえは、乗っ取られてるんだ。

手遅れかもしれないがな。手遅れだったら、どうすればいいものかな。

 

管区長とも相談せねばならぬから、と私は適当にはぐらかす。そして、兵たちの人生総括をひたすら聴く。

かれら一人ひとりの生きてきた軌跡、家族や友人たちへの慕情は、可能であれば日本史別巻として遺してやりたいような彩りをたたえている。

しかし私にそんな余裕は無いし、君たち自身で書くか、あるいは、パライゾでゆっくりやったらよい。

好事家が欲しがるだろう。そして憐れむだろう。

なんでこんな純真な青少年たちが、狂人どもの手先となって、他国を踏み荒らしに行くのやらと。

なさけないよなあ、まったく。

 

手順に基づいて、私たちは信徒に赦しを与える。

君たちに咎は無くなった。終油の秘蹟を必要とせずパライゾへ行けることを保証しよう。

存分に、仕事に励んでくるがよい。

運命に導かれたら、帰国して、家族でもつくりたまえ。

ほどよく純真でなくなったら自分史でも書くとよい。今よりもずっと、彩り豊かなものになっているだろうね。

 

ナンガサキへ帰る前、私はアゴスチニヨから地図を見せられた。

コーリアの詳細図で、我々も持っていないものだ。

不思議がっていると、ツシマ領主から貰ったものだと種明かししてくれた。

文字といい、色遣いといい、間違いなくコーリア現地でつくられたものだ。海岸線の形状、都市間の方位と距離、山や川の分布など、正確であることを疑い得ない。

ツシマ島の大きさを基準に計算すると、半島南端からチイナとの国境まで達するのにすら、ヒゴからミヤコまでよりも遠い行路となる見込み。

ペキンはさらに遥か先。もちろん頑強な抵抗を受けながらの進軍だ。

冬が訪れるまでにどころではない。数年、いや十数年か数十年かかる長期戦となることは、素人にだってわかることだろう。

 

「わしの部下でも、ごく僅かにしか見せていない。士気にかかわるからな。

どれほどの敵戦力に迎えられるかも見当がつかん。大馬や巨炮に薙ぎ払われるかもしれんが、それでも行けるところまで行ってくる。

あとは後続の勇者たちと、太閤様の御威光と、最後はデウス様の恩寵とによって、見事、勝利をおさめられることを堅く信じるまでだ。

正義は我らにある。

だから、パードレをよこしてくれ。くれぐれも、お頼み申す」

 

アゴスチニヨよ。

君はまだまだデウスの教えを理解していない。それはハチマンの発想だ。

タイコーは悪魔であり、奴をデウスが支援するわけがないと、なぜ気付かぬ。

むしろこの地図をタイコーに見せてやれ。どんな白痴のボンクラでも計画を中止させるはずだ。今ならまだ間に合う。

せめてゼンチョどもが先頭を往くなら大いに煽ってやるところなのだが。信徒たちが犠牲にされる以上、むざむざ行ってこいなんて言えない。

 

私はアゴスチニヨを全力で説得した。

しかし本職の軍人であったことのない私が歴戦の大指揮官を翻意させることは難しく、彼の機嫌を大きく損ねるだけに終ってしまう。

唯一彼を逡巡させられたのは、アゴスチニヨが戦死したら誰が兵站を引き継ぐのか、という指摘だった。

もともと彼は海軍専任で、その得意とするところは戦闘よりも補給路の確保と維持に尽きる。

今度の侵攻では、海上輸送が重要な役割を担う。

言葉の通じぬ現地民を、日本王国内と同じ要領で自勢力に転用することは不可能。

広大な占領地を警備する人員だけでも、日本から絶え間なく送りこみ続けなくてはならない。食糧や生活物資をすべて現地から奪うにしてもだ。

初めて外洋に進出させる急造船群に、ずいぶん過度な期待をかけるじゃないかね。

わかるかい?あまりにも計画性が杜撰だと言っているのだよ。

 

「なるほど。たしかに。パードレはよく気がつく。

大至急、太閤様に上申し、軍船の保全と維持管理、運用のための人員は戦闘に回させぬよう懇請しよう。

それから物資補給態勢も、全領国が一丸となって精励刻苦させるべしと号令をかけ続けていただこう。

わしが前線で指揮を執ることはもはや変更きかぬが、くれぐれも慎重な作戦立案につとめ、兵を有効に展開させ無駄死にを出さぬよう、全力を尽くす。

だからこそ士気を維持するためにも、壮健なパードレを一人でも多く頼む。安全は約束するから」

 

なぜ、こうも、伝わらないのだ。

私は絶望に包まれながら、帰って管区長に頼んでみるよ、と答えた。

 

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