戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1592/005.hmos

コーリアの首都が陥落したという。

 

最初の上陸から半月ほどしか経っていない。

アゴスチニヨは安息日すら守らずどんどん内陸へと浸透し、あっという間に半島最大の城を手に入れてしまった。

 

決して楽な戦闘ではなかったと書いてある。

敵の抵抗は頑強であり、老若男女が死に物狂いで飛びかかってきたそうだ。

とくに首都ではオーザカ戦をも想起させる大市街戦が展開されたと。

 

敵は大型の火炮を有しており、アゴスチニヨの弟やディオゴ殿の孫たちまでが、これの犠牲になった。

しかし戦術の巧みさと、何より不屈の士気の高さで、日本兵は圧倒的な粘り強さを示した。

後続が遅れているため、しばしこの地で休息をとる。

慰安の品と、それからパードレを早くよこしてもらえないか。だってさ。

 

同じ報せはナンゴヤのタイコーにも届けられ、日本各地から続々と集結している兵たちを興奮の波に包ませた。

なぜデウス信徒たちを優先させているのか。自分たちをすぐにでも出撃させてください。と連日連夜、接待合戦が繰り広げられている模様。なんだってさ。

 

ナンガサキでも、皆、ア然としている。

これは事実なのだろうか。私は何度も翻訳をし直させられた。何度読んでも同じですってば。

アゴスチニヨはこれでも控え目に書いているはずですよ。あいつは昔から謙虚なんです。手柄を実際以上に誇張したり、自慢することも好みません。

それで、これです。

さあ、どうします。

 

すでに数万の軍勢が海を渡っているが、日本軍の総力からすればごく僅かだ。

コーリアが予想だにしない突然の侵略にうろたえ、充分な迎撃態勢をとれなかったことは当然としても、ここから有効な抵抗戦を発揮できるものだろうか。

日本兵の士気は、かつてないほど高潮している。ナラの悪魔どもが、ナンゴヤへも、地上との連絡通路を開いたか。そんな気さえする。

仮に今、タイコーの命を奪えたとしても、その下で猛り狂う何十万もの蛮民が急に冷静にはならないだろう。

煮えたぎる釜の湯の如しだ。この熱量をどこへ逃がすべきか。

冬まで待てば、おさまるか。

これからやっと夏だというのに。

 

タイコーはただちにミヤコへ向け、こんな布告を発した。

 

留守部隊を可及的速やかに支度させ、シモへ送れ。

農民・漁民・商人で土地が欲しい者を掻き集めよ。老若男女問わぬ。その手に夢を掴みたければ駆けてこい。

来年にはダイリも大陸へ移そう。クゲども、忙しくなるぞ。覚悟しておけ。

ただし、予は名誉と規律を重んじる。日本人として恥ずかしくない装いと働きが伴わぬ者は容赦なく処罰するから、下賤の餓鬼でも甘やかさず、決して気を抜かせぬこと。

いざ、来たれ。

 

正気か。

いや、もとより狂人だ。自分のことは棚に上げて、大真面目に叫んでいるのだろう。

それを取り囲む下僕どもも、同じ夢に酔い痴れているのだろう。

 

パードレ・ピアーニが、こんな発言を繰り出した。

「厭な想像をしてしまった。もしも次の覇権を狙う者が、いまタイコーを殺して、その罪を我々になすりつけてきたら、何が起きると思う?」

 

困ったことになるね。ナンゴヤにひしめく軍勢が大挙してナンガサキへ襲いかかってきて、私たちは嬲り殺しにされるだろう。

アリマ・オオムラ・アマクサも徹底的に焼き払われるだろうね。

妄信的な暴徒の群れに、何を叫んでも無駄だろうから。

 

「異論は無いかな。では、今が坊主たちにとって、我々を殲滅する千載一遇の好機だと考えた場合、そんな事態が発生しないよう対策しておく必要を感じるのだが、どうだろう」

 

坊主がタイコーを殺すとしたら、今か。なるほど、完璧かもしれないね。

しかしこれを回避するためには、我々がタイコーを守らなくちゃいけないことになってしまう。

それはさすがに無理だな。第一、近付けない。

 

「でも密偵には、タイコーへ近付く手段を探らせているんだろう。

ただ仮に、タイコーを毒殺なり刺殺なりする機会が訪れたとして、早まってそれをさせてはならないと思うのだ。

暗殺が成功し実行者が逃げおおせたとしても、側近や坊主が状況を最大限に利用する。

すなわち、大衆の憎悪を我々へと向けさせる材料にされるだけだ」

 

やれやれ。じゃあ密偵にはこう指示しておくべきかな。

城へ潜入しタイコーへ接近する努力は続けてくれ。ただし危害を加えてはならぬ。監視と諜報に専念し、万一坊主か誰かがタイコーを暗殺する兆候が発見されたらこれを阻止あるいは犯人が間違いなく坊主だと断定させられる証拠を押収することに全力を尽くしてくれ。

こんなところだろうか。

 

パードレ・マンテレスからは、こんな意見も出た。

「あくまで可能性の話だが、タイコーが突如として追放令を撤回することは、ありえるものだろうか」

 

たまにそんな話は出るよ。

始めたときも大して根拠があったわけじゃなかったし、その後の運用もデタラメだ。

タイコーが死ねば自動的に消滅するだろう、と多くの日本人が言ってる。

ただ生前に発せられる期待は、坊主や側近と深刻な衝突が起きない限り望み薄だね。

そんな噂は聞かないし、タイコー個人と結びついた利権構造は依然強固すぎる。

 

「タイコーの後継者が、そのまま利権を引き継ぐものではないのか?」

 

実子がいないため、スンナリ継承できない。タイコーの死後、後釜争いで必ずひと波瀾起きるから、そこが我々にとっても勝負どころではあるんだがね。

ファカタ市民が崇めてるのはタイコー1人だけだし、同様に坊主たちが結束していられるのもタイコーが中心にいるからこそだ。タイコーに日頃振り回されてる人間ほど水面下の反発も大きく、我々に同情的なものさ。

そこを衝いてゆく戦略は、ずっと前から研究している。

 

「さすがは最古参。

実はこう考えているのだ。タイコーは、大陸侵攻と植民地化を盛大にたくらんでいるが、どだい日本人の能力で完遂できる事業ではない。早晩、我々に助力を求めるのではないかと。

日本国内では追放という名目を保持しつつも、大陸へ渡らせて、そこでなら布教も好きにやれとか言うのではないかと。

そんな準備はしておいた方がよいだろうか」

 

アゴスチニヨが言っていたかな。それをタイコーの口から正式に発令されたならば、という話だよね。

コンパニヤのチイナ布教はずいぶん難航しているという話だが、今の勢いで日本がチイナのある程度まで占領地を拡げるとなれば、そこへ我々が一番乗りして坊主たちの入る隙をなくしておく戦略は、とても魅力的に思える。

タイコーの威勢に便乗する形になるのが少々癪ではあるけれど、準備しておくことは賛成するよ。

実にいい提案をしてくれた。ありがとう。

 

ここまで大局的な計画となると、管区長に承認してもらって指揮官を決めてもらわなくてはならなくなるが、ヴァリニャーノは日本の侵略行為を不当と見做し、撤退を主張することに拘泥しつづけている。

わからぬでもないのだが、もっと柔軟に、かつ現実的な発想ができないものか。

我々が即、主導権を握って動くわけでもなく、いつそうなっても対処できるよう準備しておくだけなのに。それにすら及び腰という姿勢が解しかねるところではある。

もちろん指揮はアマカウから執ってもらい、日本駐在員がナンゴヤから大陸へ渡り浸透していくのを、外周から適切に支援してもらう。そういうことだ。

管区長がすぐゴアへ戻らねばならないのなら、全権を委任した能力ある代理人をアマカウへ置いてくれればいい。

最低限の意思統一さえしておければ、我々はインディア管区全体を、もっとも理想的な状態に誘導していけるではありませんか。

それをどうしてわかっていただけないのでしょう。不思議でなりません。

 

まあヴァリニャーノはああいう性格だ。仕方がない。

私は現実主義者なので、有効打を心掛ける。

パードレ・エジディオに声をかけておこう。

 

エジディオは、86年来日組。直近までアリマに潜伏していた。

今冬、管区長と共に離日し、ゴア経由でラウマへ派遣されることが決定している。

コンパニヤの総長と評議会に、日本における実情を報告し、裁決と指示を持ち帰る、重要な任務を負う。

日本駐在員の総意と行動表明は、エジディオを通して伝えよう。

彼が熱弁を奮ってラウマを動かしてくれさえすれば、その決定にはヴァリニャーノも逆らえない。

 

「管区長は奥手すぎると、私も業を煮やしていた。パードレ・フロイスよ。渾身の名台詞を書いてくれ。

私は全身全霊を賭して、それを熱演してみせる」

 

エジディオは、呑み込みが早かった。

うれしい。さあ、張り切って書くぞ。

 

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