戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1592/006.hmos

ナンガサキに、珍客来訪。

フェリペナスからの使節団である。

 

ドミニコ会のパードレ・コーボ。

エスパニヤ人の船長、ローペ・デ・リャーノ。

それ以外は日本人だ。

通訳、荷役人、そしてサツマの監視役が常について回る。日本王タイコーへの謁見を控えており、この後、ナンゴヤへ向かうそうだ。

 

冬の終りに、フィラドとサツマから日本初のジャンクが出帆した。

どちらもマニラへ向かい、無事、到着したという。

まずは、めでたい。

マルコとハラダも上陸した。ということは、ヴァリニャーノの警告はフェリペナス総督およびコンパニヤのマニラ管区長らへ届いたものと考えてよかろう。

 

夏風に乗り、さっそく日本への使節団が出発する。

25日ほどの航海でサツマへ入港した。領主の歓待を受ける。

日本王は現在シモ島の北の端まで来ていると言われ、舟で向かうことになった。

その途中でナンガサキへ立ち寄り、イエズス会の先輩たちに挨拶し、諸々の手ほどきを受けることを希望した。

こんな次第だ。

 

サツマが付けてくれた通訳は、ラテン語、カスティリヤ語、ポルトガル語まで解す。

こいつらがいなければ、聞きたいことを山ほど聞けるのにな。もどかしい。

しかし知恵を絞って、情報の交換につとめる。

 

マルコやハラダは、マニラに留まっている。

現地では日本語を話せる者も日本に関する情報も不足しているため、いろいろ教えてもらいたいと請うと、ハラダはあっさり承諾した。着いたその日のうちにマニラの女を抱きたいと品定めを始めたというから、警告を伝えるまでもなく、日本人の高潔さをフェリペナス人も察したようである。

 

実務的な問題として、ポルトガルとエスパニヤの関係をいかに説明すべきか、という議題が発生する。

1581年にポルトガル王国はエスパニヤ連合王国へ併合された。

これに伴い、インディア全域における両国の境界線が意味を持たなくなってしまったのだが、日本に限っては、今もイエズス会の独占が認められている。

我々の、多年に亘る労苦が認められたほかに、日本人の特殊な性向は複数の修道会をもって教導すれば甚だしい葛藤を生じるであろうと分析したヴァリニャーノの論文が重視されたことにもよる。

現場の感覚としては、これだけややこしい連中相手に修道会同士の縄張り争いまで持ち込まれたくないと思う一方、イエズス・コンパニヤだけでは限界があることも事実なのだが。

とくに武力の後ろ盾が脆弱であることを痛感する。

エスパニヤは軍事大国だからなあ。そこだけ手伝ってもらえれば理想的なのだけれど、そういうわけにもいかんのですよ。

 

ヴァリニャーノはマニラ使節団に、フェリペナスを代表して来たとだけ述べるべし、エウロパ事情には触れないほうがいいでしょう、と忠告した。

日本人に地理と政治は難しすぎるから。フェリペ王の偉大さを讃えることも、ヤブヘビになりかねない。

タイコーはイエズス会以外の存在も知らないため、ドミニコの名前を出すだけでも混乱を招きます。

イエズス会でなければ追放令に抵触しないと考えることも、危険です。

日本には、法を遵守するという概念もありません。タイコーの機嫌を損ねることが、即、犯罪とみなされます。

それでは何も喋れないではないか、と仰いますよね。

その通りなのです。

ちなみに、ナンゴヤへ着いてから、ほとんど同じ内容をしつこくしつこく日本人官僚から説明されることでしょう。

なるほどと納得されたら、あとはご自身たちで判断して行動してください。

日本人相手の交渉とは、かくも面倒臭いものなのです。

 

コーボとリャーノからは、妙なことを訊かれた。

サツマの役人から言わせられていることは明白なのだが、ドゥアルテの行方を知らないか、という。

サツマで殺人と窃盗を犯し、逃亡中。ナンガサキに潜伏している可能性が高いようだが、知っていれば引き渡してもらいたい、と。

 

記憶にないなあ。どんな人物ですか?

 

老人で、酒癖が悪い。

ああ、2年前まで、この辺をうろついていた、あいつかな。

そうそう、若い連中と一緒に、マニラへ行くんだとか吠えてましたね。サツマで仕事をしてたんですか。へえ。わかりました。発見したら、通報しましょう。

 

ヴァリニャーノは、かれらの持参した貢物がずいぶん粗末で、量も少ないことを指摘した。

これでは、タイコーは、会ってもくれないかもしれない。

過度にへつらう必要はないが、日本人は官民を問わず、高価な贈物を求め合う習慣が強い。

今後はもう少し配慮すべきだと助言する。

 

翌日、一行はナンゴヤへ向け出立した。無事を祈る。

 

さて。マニラからは、船が来ました。交易品もそれなりに積んできた風に聞こえましたが、従来来ていた密貿易船の延長かもしれませんね。

使節が日本人のことを知らなさすぎるのは不自然に感じました。貢物が少ないことも、サツマが先に注意しているはずです。

わかっててすっとぼけ通すつもりでいるのかなと考えます。

手の内をさらさず、タイコーとその周辺、とくに日本軍の規模や兵装などを探るつもりでいるのだと思いますよ。

ま、お手並み拝見ですね。

 

アマカウから、我々の定航船は来ると思いますか?

望み薄ですか。毎日、沖合まで巡視艇を出していますけど、来るとしても一隻だけでしょうね。

 

管区長は、サリートリが日本へ持ち込まれない方がよいのだと考え、定航船が来ないことにむしろほっとしている。

しかし私に言わせれば、それは甘い。

火薬をつくるにはサリートリと硫黄が必要だが、大陸ではサリートリが大量に採れる代わりに硫黄は少ない。

日本では逆。これまでは定航船がこの差を埋めていた。

いま、日本は大陸に侵攻している。

硫黄を持ちこんで現地で火薬を製造すれば、日本軍だけが火薬を潤沢に使えるという状況が誕生する。

定航船に頼る必要は、なくなるのだ。

 

海に危険がつきものであることは留意せねばならないが、特に近頃日本軍を悩ませている海難について述べておこう。

コーリアは海軍を持つ。日本は大量の軍船を急造したが、そもそも外洋で海戦に臨んだ経験が皆無のため、実際に戦闘が始まると、かなり分が悪いらしい。

それに加えて、コーリアの海には魔物が棲みついているという。

聖書にはレビヤタンという怪物が登場するが、噂はそれを彷彿とさせる。おそらく鮫か鯨だろうとは思うのだが、巨大で獰猛なのが一頭いて、日本の船を見つけるや襲いかかってくる。

鰭がぶつかっただけで、船底に穴があくそうだ。

生存者の証言によると、このレビヤタンがコーリアの船を襲ったことはなく、海戦の最中でも日本側だけが狙い撃ちされるらしい。

日本船には構造上、怪物を刺激する何かが付いているのかもしれない。そうでなければ説明がつかない。

大陸側に棲息する魚だから、コーリア人は奴に攻撃されない秘訣を知っているのだろう。

日本としては至急対策を講じたいところだが、休む暇もなく船を往復させる計画表に変更がきかない。多少の犠牲には目を瞑れと、数を頼りの搬送が続けられている。

 

さて、ナンゴヤの密偵たちへも特命を出しておかねば。

マニラ使節団を徹底的に監視せよ。

タイコーへの謁見が実現するとして、その場に潜り込むのは無理だろうが、前後でかれらは入念な打ち合わせや反省会をするはずだ。

宿舎、酒場、遊技場、娼館。どこへでも、網を張れ。

日本語通訳を通した言葉だけでも構わない。細大漏らさずなんでも知らせよ。

分析はこちらでする。

マニラの諜報組織がいったいどれほどの実力なのか。真剣勝負といこうじゃないか。

 

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