戰國ぢあぼろす   作:ひねもす@HAMELN

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SengokD.1565/008.hmos

四旬節を迎えた。

ヴィレラもロレンソも戻ってこない。

アルメイダからも返事がこない。

私は日々、求道者や邪宗徒との問答にあけくれながらも、なんとかこれらを蹴散らしつつ、孤独に耐えていた。

 

パードレ・ヴィレラがミヤコへ来たばかりの頃から助けてくれている、パウロという日本人から、苦労話をいろいろと聞く。

現在の教会は、6箇所目の移転先だという。

糞尿の臭いに満ちた、雨も風も防げない貧民窟の小舎から、ミヤコでの布教は開始された。

毎日、路地をさまよい、辻に立ち、説教を続ける。

石を投げられ、犬に追われ、坊主からは殴られ蹴られ、唾を吐きかけられ、それでも決して怒ることなく祈りを捧げつづけるヴィレラの姿に、なにものかを見出した者たちが、集まっていった。

 

途中を省略するが、ミヨシドノも、はじめからヴィレラたちに好意的だったわけではない。

 

ミヨシドノは現在もっともキナイでの勢力を誇る軍人であり、次のクボウサマの座を狙っている。

ミヤコでの権力を確立するためには、フォッケ宗の坊主を味方につける必要があった。ミヨシドノは現在かれらを厚遇しているが、本人はそこまでフォッケ宗に肩入れしていない。

家臣のひとりに、ソウダイという、邪宗徒だがその悪辣さゆえに有能な男がいる。このソウダイが各宗派の動静を掌握し、互いに潰し合わせる戦略を立てている。

 

フォッケ宗の坊主どもを擁護し、反目するイコ宗やゼン宗をおとしめる作戦がとられた。

ミヤコから、邪魔者はどんどん追い払われた。

その当時にはシャカ教の一宗派で新参者だと誤解されていたコンパニヤへも、排撃の牙が向けられた。

 

ヴィレラはミヨシドノの城で、フォッケ宗の坊主と宗論せよと命令される。

ここへ、ロレンソが赴いた。

ロレンソは見事に、フォッケ宗を論破。

その鮮やかな弁舌に、なにものかを見出した家臣たちを、味方につけることに成功する。

ミヨシドノの家臣たちが続々と、信徒となる流れが生まれた。

 

ソウダイはフォッケ宗だけに恩を売るつもりだったので、計画が狂い、面目を潰された形となる。

それでコンパニヤを逆恨みして、この教会を破却すべしと息巻いているそうだ。

しかし、上官であるミヨシドノが我々に好意的であること。

アンリケやジョルジたち武闘派の家臣が我々の味方となり、目を光らせてくれていること。

そして遂には現在のクボウサマからも、正式に布教許可状が出されたこと。

これら数々の弛まぬ努力が実を結び、いよいよこれから、というところだ。

 

パードレ・ヴィレラに対し、私は分不相応な憤りを抱いていたことを、躓きとして認めよう。

ヴィレラの方がよほど、日本へ来てからのあらゆる逆境に対し、はちきれんばかりの不満と憎悪を抱えこんでいるはずだ。

戻ってきたら、あたたかく出迎え、できるかぎりのコンヒサンを受け入れよう。

お手柔らかに願います。

 

パウロからは、こんな忠告も受けた。

ミヤコでは、常に絹のキモノを身にまとい、カネに余裕のある風を装うこと。

常に堂々とした態度でいること。

清貧かつ謙虚であるべしというコンパニヤの原則とは相容れないが、これにも理由はあった。

 

ミヤコ人は、尊大である。

エウロパでも、都会人は傲慢なものだが、もっと醜悪である。

そしてこの都市では、もともと貧乏人が多い。

正確にいうなら貧富の差が激しく、カミキョウに多い富者は常に貧者を警戒し、近寄らせず、犬を見るように見下す。

偉大なるデウスの教えを説く者が清貧であっても目を惹くことはないし、余計に見くびられるだけである。

ミヤコではまず、高貴であらねば、高貴な者へは近寄れないのだ。

 

ヴィレラの不可解な行動も、これである程度の説明がつく。

私たちは、日本で最高の大王へ年始の挨拶に訪問したのだった。

私は不愉快ばかりを感じていたが、あれは、日本人なりのもてなしだったのである。

パードレ・ヴィレラは7年かけてコンパニヤをそれだけの地位へ昇格させたということだ。

その意義は、認めなくてはならない。

 

 

一人、紹介したい日本人がいる。

トマスという、腕っぷしの強そうな、大男だ。

初めて教会で顔を合わせた日、彼はじろじろと私の顔を見て、話しかけてきた。

 

「私は、あなたに、会ったことがある」

 

ああ。うんざりだ。またかよ、と心で思った。何百年前に貸したカネを返せとか、言ってくるのだろう。

黙って、続けさせた。

 

「あなたは、パードレ・ルイスだと名乗った。今やっと、思い出したよ。私はあの頃まだポルトガル語で返事をすることができなかった。今もうまくないが、これから、学んでいきたい」

 

カタコトの、ポルトガル語が、まじり始めた。ほう、これは新趣向だな。

私も、カタコトのミヤコ語を交えながら、記憶にない、と返す。

 

「二年前の秋だ、覚えていないか」

 

2年前?去年のことか。いや、日本式の数え方なら、3年前。私が日本へ来た、63年ということになる。

秋?夏の、あとか。

 

「パードレは、子供たちに、石を投げられていた。横瀬浦でのことだ。あれは、あなたでは、なかっただろうか?」

 

……びっくりした。

あのとき、子供たちを止めてくれた、日本人ではないか。

まさしく、私だ。

パードレ・ルイス・フロイスといいます。

どうぞ、よろしく。

 

トマスは、サカイ生まれの商人だが、居住地は一定しておらず、あちこちを一年中旅しているという。

夏になると、ポルトガルの定航船を狙ってシモへ行く。自分自身で買い付けるというより、中継ぎで利ザヤを稼いでは飲み歩き、カネがなくなれば、また仕事を探すのだそうだ。

ずいぶん、気ままというか、自堕落にも見えるが、新しいことや興味を抱いたものへ目を輝かせて飛びつく習性があり、話をしてみると実にいろんなことを知っていて、退屈しない。

 

トマスは、私の孤独を、大いに癒やしてくれそうだ。

それは、とっても、ありがたい。

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